【20】
「ぐっ……ウワァァァァァ!」
「ヒ、ヒ、ヒ、ヒィィィィィ!」
「キャァァァァ、なにこれぇぇぇぇぇ!」
落ちる。
落ちる。
落ちる。
とてつもなく長い時間。
際限なくスピードが上がり続ける。
「ヒャ…ヤ、ヤバいぞっ!!」
「た、たすけてぇぇぇ!!」
「ら、蘭子っ!!!《塵蛇の護膜》を使えっ!!!」
「り、りょーかいっ!」
蘭子は物理攻撃を軽減する《塵蛇の護膜》を唱えた。
斬撃属性には弱いものの、打撃属性には滅法強い防御魔法。
落下による衝撃に備えての魔法だ。
弾力性のある液状ジェルが覆うのと同時、底に達した。
『ドゴォォォォッ!!!!』
三人が落ちたあとには大きな穴が開いた。
「ハァハァ……。か、間一髪だった……」
魔法が間に合わなかったらどうなっていたか。
「オェ、オェェェェェっ……」
雲助は吐いた。
「こ、高所恐怖症なんです……僕」
「な、何よ情けないわねぇ。ワタシは余裕だったわよ」
何故か蘭子は強がっている。足下が濡れているようだが、二人とも気付かないフリをした。
「ど、どこなんだ…ここは…」
とにかく暑い。よく見ると、そこら中に溶岩が流れている。
地球の核を彷彿させるような雰囲気だ。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
雲助は盗賊の常態能力、《盗人の五感》を発動した。
今の地点が何階層かのみ知ることが出来る盗賊の初期能力。
「ヒィィィィ…。ち、ち、ちか……」
「早く言えっ!!」
相当、長い時間落ちた。
地下二階、三階じゃないのはわかる。
「三十階層……」
「な…さ……」
ある程度は覚悟したが、地下三十階層とは。
「エェェェェン!イヤだァァァァ!死にたくない!!」
「蘭子!黙れ」
「ヒグっ……」
「ハハ……天国から地獄とはこの事だ……」
雲助の心は折れた。
「……」
グリシャムは考える。
何か手段はないか。回復アイテムの量は。蘭子のMPは。
手に入れたアイテムは使えないか。
が。
「……ムリゲーだ」
どう見積もっても、無事一階層まで辿り着く算段がつかない。
その時。
「…だから警告したでしょ」
三人は声の方を向く。
「だ、誰だ?………というのも抜けた問いだな。ここのダンマスか?」
辺りの光源は溶岩のみで姿までは確認出来ない。
「警告を聞き入れて欲しかった…」
グリシャムの問い掛けに対する返事はない。
「謝った方がいいかな?」
「…別に謝らなくてもいい」
徐々に近づいて来る。
「な…なら、帰らせてくれるか?」
一縷の望みに賭けてみた。
「……それは無理だよ」
「ククク…だよな。……おい、さっさと姿見せろよ」
闇から現れた"それ"をプレイヤーだと認識するのに数瞬かかった。
「ぅぅ……。お、お前。プレイヤーだよな……?」
「…そうだよ」
"それ"の身体中にはドス黒い包帯が巻かれていた。隙間から見える素肌は酷く爛れている。 恐らく皮膚がないため出血が絶えず、黒ずんだのだろう。顔は表情がわかるようするためか、巻きが少ない。髪は銀色。片方だけ見える目は赤く大きい。何より、非道い悪臭を放っている。
「一体なんなんだ……?お前……」
「"フェノーメノ"っていう種族。…ただのバケモノさ……」
「へぇ、驚きだ。《バスター》にはそんな種族もあるのか…。初めて聞いたよ…」
「っ…!…よ、よく《バスター》だってわかったね」
「フフフ…。しかも職業は《魔窟王》とみたっ!」
グリシャムは"それ"に向かって勢いよく指差した。
「なっ……。信じられない…。そこまでわかったの?」
「俺はこれでもCOSには詳しくてな…」
得意気な顔をする。
一矢報えたようでほんの少し気が晴れた。
本当はバッツの手柄だが、素直に教える気はない。
おそらくここで死ぬ。
これほどのダンジョンの持ち主だ。
MENACEは嘘じゃなかったんだろう。
置かれていたアイテムの質からも容易に想像できることだった。
例え侵入者が来たとしても、即座に撃退出来る力がありながら、
警告をしてまで誰も入れたくなかった。
理由は見当も付かないが、只で帰してくれる訳がない。
「おい、シャル。いつも同じ事を言わせるな」
闇から別の男が現れた。
「すまないな、お前達。残念ながらここで死んでもらう」
「ヒ、ヒィィィィィ!」
雲助が逃げ出した。
「くっ……雲助っ!戻れ!!」
"それ"は雲助の逃げたら方向へ腕を向けた。
辺りは暗い。もう雲助の姿は見えなかったが。
『バシュッ』
「ぅぅ……雲助ぇ……」
グリシャムは何をされたのか悟った。
こちらに何か来る。
闇から現れたそれは鬼だった。
大きさはグリシャムの約1.5倍。全身は赤く、質の良い筋肉に覆われている。
武器は携えていなかったが、左手には雲助の首を持っていた。
「マスター。はい、これ」
鬼はそう言うなり、雲助の首を投げ捨てた。蘭子の前に。
「キ、キャァァァァ…。雲助ぇぇぇぇ」
蘭子は泣き崩れた。
「ひ、酷い…。な、なんでこんなことするのよぉぉぉぉ…」
「…だから警告したでしょ」
「だ、だからってぇぇぇぇ…」
「ゴメン…」
次は蘭子に腕を向けた。
「ま、待っ…」
『ドスンッ』
蘭子は上から降ってきた岩に潰された。
「ら、蘭子……」
岩かと思ったそれはゴーレムだった。
緩慢な動作で、足についた蘭子の残滓を払っている。
「マスター。オワタオ」
「く、クソ…。《バスター》…。全く忌々しいやつらだなっ!!これでも喰らえ!《 七色流星群 》!!」
グリシャムは、猟人の最上位魔法を放った。
一定範囲にいる敵全てに、光の矢剣が突き刺さる。
はずが。
「な……。で、出ない…」
「諦めろ。魔法は全て阻害している」
「くっ………クソォォォォォォォ!!!」
ついにその腕がグリシャムに向けられた。
「《斬首頭の審判》」
「バ……」
『ザシュッ』
~ GAME OVER ~
PLAYER:グリシャム
《焔の剣ヶ峯》:撤退
最後に立ち寄った教会まで転送されます
再開まで少々お待ち下さい
こうしてグリシャム達の旅は終わった。




