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19/62

【19】

宝物庫を見た三人の興奮は最高潮に達している。


ここに来るまでに蘭子のMPは半分まで減らされていた。

グリシャムは"猟人(かりうど)"。中衛もしくは後衛からの攻撃を主体とするため、

直接攻撃による被弾は少ないものの、魔法による攻撃は受けてしまった。その威力が存外大きく、一発喰らうと即座に回復せざるを得なかった。

盗賊の上位クラスである"強奪者"の雲助。攻撃を当てると、低確率ながら、

アイテムを盗めることがある。

これには直接攻撃が必須。素早さをカンストしているとはいえ、多少の被弾はやむを得ない。

取り込まれて以来、街に売っている回復系アイテムは誰かに買い占められ、入手が極めて困難になっていた。

消耗品は全てゲーム時代からの貯えで賄っていたため、おいそれと使うのは躊躇われた。

その分、蘭子に負担が掛かってしまうのは仕方がない。



グリシャム達が見つけたのは、二階層に上がる階段の裏。そこに隠された、地下一階層へと続く階段のスイッチ。巧妙に隠されてはいたが、"強奪者"雲助の常態能力(スキル)《徴税者の卑眼》で見破った。

地下に降りると、岩盤をくり貫いただけの路だった一階層とは異なり、

明らかに人の手で造られた、白いレンガが敷設された通路だった。



グリシャムの経験上、上階へと続くダンジョンの場合、地下に宝物庫が設置されているケースは意外と多かった。

一般的な思考としては、強いモンスターに護らせている範囲に価値のある宝を置く。プレイヤーを深く深く誘いたいダンマスにしてみれば、

上へ行くに連れ、モンスターの強度を上げたいところだ。

そうすると、一旦、上へと向かわせてしまえば、そこから下を調べられる可能性は下がる。

ここのダンマスも、その他大勢と大差なかったようだ。



そこの雰囲気はとてもダンジョン内とは思えなかった。

広さは学校の体育館ほどか。足元には赤い絨毯が敷き詰められており、 壁に掛けられたランプの灯りで薄暗い空間が演出されていた。


まるで海賊の財宝を見つけた時のような。

目に飛び込んでくる、欲望がそっくりそのまま具現化されたような。


「オ、オブエンペラーがこんな雑多に……」


「クソ…[不死鳥の風切羽根]。こいつにいくら使わされたことか…」


「ま、待って……。こ、こ、こ、これ……。ゴッズトイじゃないのっ!?」


「み、見せてみろっ!」


グリシャムと雲助が蘭子の元に駆け寄る。


「ぁぁぁ……ゴッズトイ…。初めて見た…」


「……俺もだよ、雲助」


震える手を抑えつつ、アイテムを取る。


[ヘルメスの空財布]

《☆10神々の遺産級(ゴッズトイ)

効果:買い物が出来る


「……は?…それだけ?」


蘭子は、効果を説明しているグリシャムに口を挟む。


「まぁ待て。続きがある…」


効果:買い物が出来る

使用回数:無制限

買い物の際、商品価格の同額が財布に充填される。但し、買い物時以外に財布にゴールドが入ることはない。


「……??よくわかんない…」


蘭子は説明を聞いてもピンときていないようだが、グリシャムと雲助は絶句している。


「な……なんなんだ。このチートアイテムは……」


「し、信じられませんね……」


「ちょっとぉ!二人で納得してないでわかるように教えて!」


グリシャムは、まだ状況がわかっていない蘭子に苛立ちを覚えつつ説明した。


「この財布はな…買い物が出来るんだ」


「だから、それはわかってるって!一体、何をそんなに驚いてんのよ!」


「つまりな……。ゴールドがいらないんだ。この財布があれば…」


「…は?」


「商品代金と同じだけのゴールドが財布に入るんだとさ…」


「ええっ?!…要するに無限に物が買えるってこと?」


「そうだよっ!」


蘭子の理解が追いついたところで、グリシャムと雲助のタガが外れた。


「フ、フフ………ハッハハハハハッ!」


「や、やったぁ…。これで僕達も返り咲ける……」


「これワタシが貰うっ!見つけたのワタシだからね!あ、ちょっと雲助!返しなさいよ!」


報われた。今までの全てが。

もうここに用はない。これ以上のアイテムがある可能性は高いが、これで充分だ。

バッツの言う通り、正直、グリシャムも怖かった。

ただギリギリだった。身も心も。

こんな訳のわからない事態に巻き込まれはや一ヶ月。

現実世界に帰る方法も検討がつかない。

一番キツかったのは、消耗系アイテムの入手難度だ。今ではプレイヤーが街の外で時たま開いている"闇市"でしか手に入らない。しかも、価格がゲーム時代のおよそ100倍。無茶なプレイしかしてこなかったグリシャム達に大した蓄えがあるはずもなく、そろそろ限界に近付いていた。

バッツの言うことも正論だったが、パーティを率いる者としては、ここらで勝負する必要があった。するしかなかった。

だがこれで報われた。

あとは、チートゲーでもしながら、ゆっくりと現実世界に帰る方法を探すだけだ。


「お前ら!持てるだけ持ってそろそろ帰るぞ!」


「りょーかい!」


「行動を制限されるような物は持つなよ。突っ走るからな!」


「オッケーです!」


「よし、行く……」


『ガコッ』


突然、地面が消えた。



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