【18】
応接室は交渉をする場でもあり、気品漂う造りに仕上げられている。
この部屋の主が見繕ったものではないのは一目瞭然だ。
部屋のど真ん中に位置する高そうな木のテーブルに、
それを囲むように配置された固めのソファに四人で座っている。
「"あの時"以来やな……」
「はい。街の様子を見て驚きました」
ユウゴは素直に称賛した。
「フフ。もうすっかり"街"やってたやろ?」
「みんな頑張ったんですね…」
「ちょっと、シャルちゃん!ウチを泣かす気か?」
「い、いや…そんなつもりは…」
「ハハハ。冗談やん」
「……」
ところで、とタケが切り出した。
「さっきの夫婦のことだが…」
「ああ。パルムに聞いたんやな…」
「一体どういうことなんだ、NPCが生きてるって…」
「そりゃ驚いたで!いきなり店に来たからな、買い物しに…」
「くくっ。それはウケるな…」
「やろ?でも…その顔見とったらそうも言えんくてな…」
「…顔?」
「…めちゃくちゃビビってたんや」
「……」
「…ビビる?なぜ?」
マコトにはわからなかった。
「そりゃそうやろ…。NPCにしてみたら、猛獣の群れが大挙してきたようなもんやで」
「……」
「それに、アホなことしよるプレイヤーも多かったしな…当時は」
「らしいですね…」
「その時来てくれたお客さんなぁ。今では常連さんで世間話もよくするけど、相当、勇気を振り絞ったみたいやわ。ウチの店に来るのに」
「そこまでして、何故来たんですかね?」
「興味も強かったみたいやけどな。でも一番の理由は…」
「……」
「仲良くなりたかったんやと…」
「…感動だな」
「タケ。似合わんこと言うなや」
「…黙れ」
「ハハハ。感動したのは事実や…。そういう訳でウチのギルドで自警団みたいなことをな……」
「なるほど…」
「チッ…。なんか湿っぽくなってもうたやんか…」
関西人の潮は、シラケた場を嫌う。
「そもそもなぜNPCに意識が芽生えたのか…」
タケは答えを求めない呟きを漏らした。
「まぁそれなりに考えてみたけどな…」
「……」
「おかしいのはNPCじゃなくてウチらやろ?」
「「「あ…」」」
三人とも間抜けな声を上げてしまった。
「なぁ?抜けてたやろ、そこ」
「フフ…そう言われればそうだ」
「ウチらもその考えに至ったからこそ、積極的にプレイヤーの取り締まりをな…」
「確かに一理ある。プレイヤーが納得するかどうかは別として」
「…タケ。お前はいっつも一言多いな?」
「……」
「で、どうなんですか潮さん。味方ですか、NPCは?」
「……んー難しいな、その質問は」
「難しいとは?」
「単純に考えてみ?仮にマコトが街でプレイヤーとすれ違ったとして、そいつが味方かどうかなんて、短時間ではわからんやろ?」
「……それもそうですね」
「それと一緒や。でもまぁ、街におるNPCは大丈夫や」
セーフティゾーンがあるのは心強い。
「問題は…"聖天騎士団"やな。…って知ってるか?」
「あ…そういやあったな、そういう設定…」
「「??」」
思い出せたのはタケだけだった。
「まぁウチも知らんかったけど…。逆に知ってる方が気持ち悪いわ」
「だんだんムカついてきたぞ…」
教会は全て聖天騎士団の管轄。という設定だ。
「それの何が問題なんですか?」
「……"デスペナ"について何か知っとるかもしれん」
「ほ、本当ですかっ!!」
珍しくユウゴが感情を露にした。
「……ああ。確証はないけどな…」
「詳しく教えて……」
その時。
『ビィィィン!ビィィィン!《焔の剣ヶ峯》に侵入者です!』
ユウゴの耳元で女王蝿のミセスビィンがけたたましく哭きだした。
ダンジョンに侵入されたことを知らせるモンスターだ。
産み出した子蝿をダンジョンに張り巡らし警戒にあたっている。
戦闘力は皆無。
ただ侵入者を知らせるためだけに存在するミセスビィンだが、その恩恵は絶大だ。
ゲーム時代、こいつがいなければ常に全ダンジョンを見張る必要があり
おちおち寝ることも出来なかった。
「く、くそ!こんな時に……」
ユウゴは勢いよく立ち上がった。
「ど、どうしたんや?!シャルちゃん…」
潮はその勢いに気圧された。
マコトとタケも何事かという顔をしている。
「侵入者です…」
「ミセスビィンかっ?!」
「うん」
「急いで戻るぞ!」
「あいよ」
それぞれ、装備品の内側に隠し持っていたピンポン玉サイズの"何か"を取り出す。
[頼豪鼠の頬袋]
《☆8皇家の財宝級》
効果:アイテムを3品まで入れることができる。
使用回数:無制限
たった3品しか入れられないものの、アイテムのサイズは無制限。
しかも一旦中に入れると重さはほぼ感じず
それ自体も小さいので、所持コストが低く盗まれるリスクも少ない。
但し、同様の効果を持つアイテム、
例えば[頼豪鼠の頬袋]の中に [頼豪鼠の頬袋]を入れることは出来ない。
三人はそこから、一枚の虹色に輝いた羽根を取り出す。
「ぁぁぁ……。いつ見ても綺麗やな…それ」
[不死鳥の風切羽根]
《☆9伝承の遺物級》
定員:1名
効果:訪れたことがある座標へ転移出来る
使用回数:無制限
他プレイヤーが創ったランクS以上のダンジョンでは使用不可
「こんなモノ…。欲しかったらいつでもあげますよ、潮さん」
「い、いや…それはアカンて、シャルちゃん…」
潮は生唾が出そうになったが必死に抑え込んだ。
「前に言うたやろ…。それは《魔具師》としてのプライドが許さん。絶対にそれと同じモノを作ったるからな」
「ふふふ。協力出来ることがあれば言ってください」
ユウゴと潮のいつものやり取りが終わったところで準備が整った。
「よし、行くぞ!」
三人は羽根を頭上に放り投げた。
その瞬間、羽根は三人を吸い込み、光輝いたのち消えた。
「…また"子供"が増えるんか。あいつらに非はないとはいえ、早いことどうにかせなアカンな…」
"デスペナ"とはデス・ペナルティ。プレイヤーが死んだ時の経験値ロストのこと。




