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第9話 狂人、あるいは天才

 その言葉で、晴彦は安堵したのか、ガクリと膝をつく。


「(勝った、危ない。もし「あれ」がなきゃ、確実にやられていた)」


あれ、とはさっきの謎の弾丸垂直落下の現象だろう。


 晴彦の使う魔法は「雷魔法」である。そして、相手は弾丸を放った。その前に晴彦は「雷槍」を放っていて、その時、四散した槍から強力な磁力を発生させた。仮にそれをS極としよう、ならば答えは簡単だ。ギリギリまで引き寄せた弾丸を、髪の毛に掠る瞬間に起こる摩擦で磁力を発生させる。SとSはくっつかない、だが強力なSと微弱なSでは弾くまでとはいかない、そこで、弾丸が垂直に落下したのだ。


「分析」と晴彦自身の機転、頭のキレが功を奏して、結果、異世界人に勝ったのである。


「そうだ・・今は安心してる場合じゃない、下の敵を一掃し」

「『ミリア リタイア』」


晴彦の呟きを遮るように、ミリアのリタイアが宣言された。


「ミリアッ!?」

「むっきぃぃ! 何で何で、こんな奴に負けるのよぉおおおおお!!」

「・・・え?」


ミリアは意外と元気一杯だった。


ミリアに相対するように立つ学ラン男は、手に持つ白銀の片手剣を肩に担ぎつつ、こちらを見つめる。


「・・・アイツか」


晴彦は下の敵達に向かって弾丸を放つ。


やはり、というか呆気なく敵は蹴散らされる。


「マズったな。これ以上やられたら負けちまう」


学ラン男は頭をボリボリ掻きつつ、トントンと剣の付け根で肩を叩く。


既に制限時間は1分を切っている、得点は僅差でこちらが勝っていた。


「本気、出しますか」

「ッ!?」


瞬間、白銀に煌く剣は横一閃に払われる。


奇跡的な反射能力で、上体を反らして回避する晴彦。何故、二階にあるこの場所へ来れたというのか。


「な・・・なんで、ここに来れた?」

「簡単簡単。跳躍スキルと体内組織スキルと脚力強化スキルを組み合わせれば、一足跳でここまで来れるよ」


相手は平然としている。


この狭い空間で至近距離武器相手では部が悪い。


晴彦は二階から飛び降りる。


「ちょっち! 時間稼ぎはセコいぞ!」


学ラン男も追いかけてくる。マズイ、非常にマズイ。


 相手の剣は煌びやかな輝きを放っている。それは、血飛沫やヒビなどがあれば確実に見せることのできない、ある意味ではセラフィの『熾天龍剣』とも似た種類の美しさを保っていた。ということは、可能性は二つ。


今まで狩りの経験が無い者か、手入れの仕方を理解していてキッチリと行う手練か。


確実に後者である事はスキルの活用法から分かった。


「ささっと殺られてくれ」


上段からの両手持ちによる斬撃。晴彦は銃弾を地面に撃ち、反動で後方へバックステップする。


「かぁー! やっぱサーバー3位は伊達じゃあねぇな、クソ、面倒くせえ」

「かくいうお前はどうなんだ? どう考えてもトップカーストの実力者っぽいが」

「あー・・俺は2位だな。確かお前と一回殺りあった事あんぜ、あの時は殆どイーブンだったけどな」


晴彦の顔に驚愕の色が表れる。


 テルテニアオンラインはユーザー数50万人を誇る大規模なオンラインRPGだ。支持される主な要因としては、テンプレートに当てはまる単純明快・瞬間爽快なゲームシステム、バグやチートの類を徹底排除する運営側の完璧な管理体制、メンテナンスやアップデートは指定時間内に確実に終えて、先延ばしをしないことなどが挙げられる。そんなテルテニアオンラインは「PvPプレイヤーバーサスプレイヤー」での勝利ポイントの総計でサーバー内のランキングが決定する。つまり、トップカースト(1位から10位)に入る為には負ける事を許さず、常に全戦全勝を目指す勢いで無ければ到底無理だ。晴彦は通算成績2687勝3敗、これで3位なのだから上位二名はそれ以上に強い、それも1位はバケモノみたいに強いという噂を聞く。


当然ながら、晴彦の表情は変わらない。


底辺カーストのレベルの差は対したものではない、幾らでも埋めることの出来る比較的浅い溝だ。


だが、トップカーストは違う。一つ一つの順位差に、かなりの溝がある。


それは3位と2位でも同じこと。


「さぁって、今度はどっちが勝つかな」


トントン。


床を学ラン男が二回蹴る。確かユーザー名はユージ、だったか。


すると。


目の前に、白銀の刀身が降りかかる。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!


甲高い音が鳴り響く、それも物凄い音量で。


「はぁ・・・はぁ・・・勝った・・のよね?」


セラフィは口調も素に戻っている。今はあの六枚翼はない。


 セラフィが放ったのは秒間100発以上の瞬間連続剣戟である。それは音速や超速の域を越え、まさにそれこそ天使や悪魔といった例外が使うに等しい技だ。『熾天龍剣』自体が軽いこともあってか(元々天使が扱う『聖塵スターライト』を凝固して作ってあるため、異世界の中でも異例な軽さと強度を誇る)剣に刃こぼれや傷は一切なく、それどころか放つ前よりも輝きが増している気すらする。物凄い速度で切り裂かれた空気が剣戟に合わせて飛び交い、俗に言う剣気のようなものも連鎖的に放たれる。あんな斬撃の嵐を食らって、生きている等ありえない。


なのに。


「あっぶないわね! あーあぁ、制服がズタボロ・・・クリーニング代どうしてくれんのよっ!?」


女は生きていた。


長いスカートがミニスカに変身し、上着はところどころ千切れているが、それでも存命していた。


まぁ、元々ライフギアがあるのだから、死ぬ事はないのだが。


「はぁ・・はぁ・・何で・・・平然としてられるの・・・?」

「はぁはぁ・・・けど、疲れたわ、さすがに。まさか『空間転移』を使わされるとはね・・・」

「・・空間転移・・・?」

「テレポートよテレポート。滅茶苦茶MP使うけど指定した場所に転移できるの。あーもう、MPスッカラカンじゃない、もう勝目ないでしょこれ」


女はフラフラとした足取りでレイピアを構える。


セラフィもそれに習って『熾天龍剣ブレイドオブセラフィム』を構える。


「次の一撃で最後ね・・・」

「ええ・・・」


両者は目線を交錯させ。


「「ハアアアアアアアアアアア!」」


弾けるように、飛び出る。


ザン、ザン。


斬撃音が二度鳴り、倒れこむ。


「『永井由美・セラフィ、両者リタイア』」




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「ぐぅっ!?」


HPが少し削られる。


デザートイーグルを盾に、剣を弾く。


最初はデザートイーグルにヒビが入るのでは、と思ったが、ヒビどころかキズもない。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

「HP30。あー惜しいっ! 惜しいよ! くっそー、もう少しで倒せたのになぁ」

「く・・っそたれが・・!」


カラカラと笑う学ラン男に軽く悪態をつく。


相手のHPはほぼ全快、ミリアが多少傷つけたのか、ライフバーが少々減っている程度だ。


「いやー・・にしても硬いね、その銃。多分こっちで採れる希少鉱石『オリハルコン』でコーティングされてるんじゃないの? だとしたら迂闊に連撃かませないじゃん、こっちも一応オリハルコンだけど、折れたら困るし」

「饒舌だな・・・こないのか?」

「・・・ハハハ、ジョークかい?」


声音が変わる。


「勝つのは、決定してんだよ」


瞬間、またも学ラン男は目の前に居た。


学ランの上からパーカーのようにユニフォームを羽織るその独自のセンスが、余計に目立つ。


ダン、ギィン、カン、ザン。


銃撃と剣戟が混ざり合い、音が連鎖する。


「『残り30秒!』」

「マズイ、さっさとやられろ」


 縦に振るう一撃を避けて、下から上に向けて銃弾を放つ。それを顔を後ろに倒すだけで相手が避けると、足蹴りを加えてくる。晴彦の顔面にクリーンヒットし、ライフバーが少し減る。残りは既に無いと同じ。晴彦は決死の特攻を試みる。


デザートイーグルを両手で持ち、水平に構える。


「はぁ・・・はぁ・・・!」

「そろそろ、終わりだな」


学ラン男は剣を刺突の体制に変える。


「あばよ」

「喰らえぇえええええええ!」


迫る学ラン男に、弾丸を連射する。


バシュ、バシュ。


顔や腕を弾丸が掠るが、相手は止まらない。


マズイ、殺られる。


「久々に楽しかった、またやろうぜ」


高速の速度で移動した学ラン男の右腕から剣が射出される。


ガン。


剣は貫通する事なく、晴彦の胸板に当たる。


ライフギアが無ければ、とっくに死んでいるレベルである。


そして。


「『佐上晴彦 リタイア』」


残り時間は、3秒だった。

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