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召喚聖女は我儘らしい?  作者: 一理。


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召喚聖女鷹峰凛香の事情 3


 騎士団や魔導士団の人選は迅速に終わって、私は彼らと密かに対面した、


「聖女様をお守り出来ること、我らは僥倖だと思っております」

「国を守る一助になれることは名誉だと誇らしい気持ちです」


 騎士団の騎士たちは決意に満ちた眼差しを私に向けてくる。

 やめてー! 私はそんな崇高な志なんて無いのー。ただやんなくちゃなんないから行くだけなのー。

 呪文を他の人に教えて代わりに行ってもらえればとも考えた。


「&%$&% $$#&%Ψ」


 学者ってみんなに言われてた銀髪のお兄さんに教えてみたけど怪訝な顔をされた。


「聞き取れないな。もう一度話してくれる?」


 多分、そうじゃないかなーとは思っていたけどね。彼らには私が発する言葉が虫の羽音のような「フォンフォン」というような音で聞こえるらしい。繰り返してもただの一音も聞き取れなかった。


 目の前の騎士たちに意識を引き戻す。

 彼らは若い。若いといっても私のお兄ちゃんくらいの人からせいぜい十歳から十五歳上くらい。ダンジョンで戦うのは人間じゃなくて魔獣だから、戦法より素早さとか剣の強さとかそういうものが重視されるんだって。それと一糸乱れぬ連携。ダンジョンの調査の経験もある人達で魔獣にも慣れているから安心してくださいって教えてもらった。


 教えてくれたのは私の横に立っているでっかい身体の隊長さん。あ、副団長さんだって。二十代半ばくらいの私から見ると落ち着いた大人の男の人で、燃えるような赤い髪を後ろで一つに束ねたイケメンさん。


「テオドール・ツァイス、隊長を務めます」


 それだけ言って私の前で跪いたからちょっと慌てた。

 隊長さん含め今回選ばれた騎士十人は初めてこの国を襲うかもしれない厄災の事を教えられてダンジョンの最下層まで私を守って連れていく任務の事を教えらえた。

 他の貴族や民衆の動揺、混乱を招かないように、任務は極秘で行われる。魔術誓約を結んだからこのことは肉親にさえも漏らせないし、だから心配されることも無ければ称賛されることもない。だけど彼らの瞳には固い決意が宿っていた。



 魔導士団の人達はもっと淡々としていた。

 私の挨拶にうっそりと頷き返しただけ。


「魔導士ってのはさあ、単独行動が多いんだ。だからちょっと不愛想かもしれないけれどちゃんと役目は理解しているから安心していいよー」


 私の隣りで喋っているのはモスグリーンの髪の男の子。あの会談にいた魔導士団長っていう人の息子だ。


「僕はボニファティウス・ヒンデバルト。ふうん、聖女様ってちっちゃいね。十三歳くらい?」


 失礼な! 年を聞いてみると私と同じ十七歳だった。タメじゃん! あんたこそ幼く見えるんだけど。







 とりあえず顔合わせが終わったらすぐにダンジョンに向かう。

 日程の余裕の無さが上層部の人達の不安につながっているように感じた。


 ダンジョンは私が今居るこの国の王都から北西の方角にあって、山岳地帯や、その先の盆地などに点在しているらしい。数は五つ。一番近いところで王都から馬車で一日半ぐらい。

 馬車だよ、馬車! 見たことも無ければ乗ったことも無い。

 心配したけど思ったよりは揺れなかった。そりゃあ自動車よりは揺れて乗り心地は悪いけどでっかい馬車で、クッションとか色々積まれてた。

 その馬車で一緒に移動するのは金髪の王子様と青い髪のクールぶったイケメンと生意気なタメ歳の魔導士と銀髪の学者。

 そして馬車の周りを騎馬で守るのはあの赤い髪の隊長さんと騎士三人。他の人はこっそりダンジョンに向かってダンジョンの第一階層で待ち合わせなんだって。

 ダンジョンに行くこと自体秘密にしなければならない。だけど今私と馬車に乗っている人たちはみんな目立ち過ぎてダンジョンのある場所までの移動をバレずにすることは困難らしい。だからダンジョンに近い町に視察に行くっていう名目でそこまで行って夜ダンジョンまで移動するって王子様が言ってた。


「聖女様、馬車の乗り心地は問題ないだろうか?」


 王子様が聞いて来たので、私はしかめ面した。乗り心地の事じゃないよ。


「その聖女様ってやめてくれない? 私は凛香。もっと砕けた感じで喋ってくれないかなあ」

「リンカ様」

「様もいらない。私は貴方達より年下だし」


 魔導士の緑頭がふふん、って顔をしたのが気に入らない。あんただけリンカ様様って呼ばせてやる。


「そうはいきません聖女様、婚約者でもない女性の名前を呼び捨てにするなど」

「あー、えーっとヴォル、ヴォルデマールさんだっけ? うーん、なんでみんなこんなに名前が長ったらしいのよ。ヴォルでいいじゃん」


 青髪のクールが反論してきたので言い返すと今度は青髪のクールがしかめっ面した。


「私の事はアイヒンガー小侯爵とお呼びください。聖女様」

「僕の名前覚えてるー? 物覚え悪そうだよね聖女様は」


 ほーん、物覚え悪いっていうなら結界補強の呪文、忘れちゃってもいいんだけどなー。


「覚えてるよ、ボニファテ・ヒンバルだっけ? あんたこそ私の名前覚えてないでしょ」


 緑頭はけらけらと笑った後に言った。


「惜しい! ボニファティウス・ヒンデバルトだよ、セ・イ・ジョ・サ・マ」


 あんたなんてヒヒーンデで十分じゃ、緑頭! 私は覚えられないんじゃなくて覚える気が無いの。あんたたちに興味ないから。

 私が睨むと緑頭はもう一度笑った。

 そして私たちが喋っている間、銀髪の学者さんはずーっと我関せずと本を読んでいた。ここまで無関心はある意味凄い。それどころか、こんなに揺れる馬車の中で本を読めるなんてホント凄い。









 ニ十層までは順調に進んだ。

 騎士たちはとっても強くて、魔導士の皆さんも一緒に馬車に乗ってたカラフルな髪のお兄さん方もあんまり出番が無かった。そして赤い髪の隊長さんは恐ろしく強かった。

 私たちは最低限の魔獣を倒してとにかく下層を目指した。

 

「聖女様、顔色が青い、大丈夫か?」


 気づいてくれたのは赤い髪の隊長さん。だけど私は無理して笑って頷いた。

 ホントはあんまり大丈夫じゃない。だって今までは魔獣どころか本物の剣さえ見ることも無い環境で育ってきたんだよ。熊みたいな大きな魔獣とか、ぐにゃぐにゃドロドロしたやつとか一見可愛いリスみたいで急に牙をむき出して襲ってくる魔獣も怖かったけど、触れたらスパッと切れそうな剣を振り回して騎士たちが魔獣を退治していく。血も飛び散るし臭いも凄い。私は最奥で守られているから危険はないけれど、魔獣の咆哮や臭いで気分が悪かった。

 でも私は目を見開いて立っていた。私は一人、家族も、平凡で愛しい日常も、全部あっちの世界に置いて来てしまった。だからもう怖いものなんて無い。

 そう言い聞かせて必死に立っていた。


 ポン、と隊長さんが私の頭を軽く叩いた。

 ポンポン......

 叩くと撫でるの中間ぐらいの強さ。

 黙って隊長さんは私の頭を叩いて私はそれに随分慰められた。






「ここからは魔導士にも協力をお願いする」


 隊長さんの言葉に緑頭が「任せて—! やっと僕たちの出番だね」と軽い調子で頷く。

 貴族のお坊ちゃまかと思ったけどやっぱりこの世界の人は戦いに慣れているんだな、とちょっと見直した。

 だけどよく見たら握った拳が震えてる。

 私の横にいる王子様も青髪のクールも顔が強張っていた。


 ニ十層から下も戦いが続く。

 虫みたいな魔獣の大群を火の魔術で焼き払ったり、魔獣の吐き出す毒の霧を風の魔術で散らしたり、魔術が飛び交う隙間を隊長さんの的確な指示で騎士が飛び回り確実に魔獣を倒していく。


 そして二十五階層。


「ここから下は俺もどんな魔獣が居るかわかりません。今まで以上に気を引き締めてください」


 隊長さんの言葉に王子様も青髪クールも緑頭さえ素直に頷いていた。

 死闘を繰り広げて三十二階層、何人か負傷者を出しながらやっと倒したドラゴン? 向こうの世界の漫画で見たドラゴンみたいな魔獣の向こうにポウッと光る壁が見えた。


「あった!! ここが最下層だよー!」


 思わず叫んで駆け出そうとするとガッシと止められた。


「聖女様、どんな危険があるやもしれぬ、俺の後ろを歩いてくれ」


 私を抱き止めた隊長さんは辺りを油断なく見回しながら壁の前まで連れて行ってくれた。



 一度息を吸って、吐いて、心を落ち着けて呪文を唱える。


「&%$&% $$#&%Ψ」


 ぼんやり光っていた青い壁が一瞬強く光った後、その光が消えた。目を凝らしてみても周囲と同じ茶色の岩肌だ。


「……これで終わったのか? 結界は強化されたのだろうか?」


 王子様が呟いたけど、私にもわからない。


「負傷者を擁護しつつ撤退する」


 隊長さんの号令で私たちは地上に引き上げる。

 多分結界は強化された、と思う。行きに比べて魔獣が明らかに弱体化していた。騎士たちだけで倒せた二十階層くらいの魔獣しか出なかったから。

 騎士たちは怪我をしていたり疲労困憊だったから、帰りは王子様や青髪クールが頑張っていた。魔力によっぽど余裕があるのか、緑頭も。

 そして隊長さんは最後まで最前線に立ち続けた。


 帰りの十八階層

 怪我をした騎士に変わり剣を振るう青髪クールを岩陰から狙う魔獣に私は気づいた。


「えーとアイヒン......青頭! 後ろ! 岩陰に気を付けて!」


 私の声に振り向いた青髪クールは飛びかかってきた魔獣を間一髪で避け、切り倒した。


「ぷっ! 青頭って——」

「油断しないで緑頭! 足元に小型魔獣が群がって来てるよ!」

「うわっと、ちょこまか鬱陶しいなあ、ファイアストーム!!」


 魔獣を一掃した青髪クールと緑頭はげんなりした顔をしていた。




 やっと地上に戻った時、私は立っているのもやっとだった。

 辺りは夕闇に包まれている。

 ダンジョンに入ったのは深夜だった。一日近くダンジョンで過ごして食事は半数が見張りをしながら交代で携帯食を齧り水筒の水を飲んだだけ。

 それでもただ守られていただけの私は楽な方だったと思う。

 楽な方だったとは思うものの、今にも倒れてしまいそうだ。精神的にもぐったりだった。


「ジークベルト殿下、この近くにリースの町があります。そこで暫し休息をとりましょう」

「何を言うツァイス隊長、私はまだ元気だ。一刻も早く帰って父上に報告をせねば」

「……あの状態の聖女様を見てもそう言えますか?  おっと!」


 ぼんやりと隊長さんと王子様の会話を聞いていたら上体がグラッと傾いた。

 あれ? 地面が迫ってくる。

 ぶつかる、と思って目を瞑ったけど、痛みは来なくて安心する何かに支えられたような気がした。だけどもう一度目を開ける元気は無くて、私の意識は安心する何かに包まれたまま眠りの底に落ちていった。









お読みくださりありがとうございます。

次話は19:20に投稿します。

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