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召喚聖女は我儘らしい?  作者: 一理。


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1/9

侯爵令嬢ローザリンデ・ヴェッセリーの事情 1

 新連載です。よろしくお願いいたします。

 二十話以内には完結する予定です。

 お話は王太子の婚約者、侯爵令嬢視点から始まります。

 誰視点の話なのかはエピソードタイトルをご覧ください。


 両親と共に夜会の会場に足を踏み入れると会場にいる方々が一斉にこちらに注意を向けたのを肌で感じました。

 関心を向けながらも視線はこちらに向けず、隣の者と談笑しながら様子を窺っている紳士淑女の皆様。


「あら、やはりあの噂は本当でしたのね」

「王太子殿下に婚約破棄をされたとか」

「ええ、ローザリンデ様は今までならジークベルト殿下とご入場でしたもの」


 扇の下からそんなささやきが聞こえてくるような気がしました。

 いえ、実際に耳に届いたわけではないのですけれど、皆様の視線や態度がそう語っておりました。

 もちろん全ての方が揶揄するような眼差しを向けているわけではございません。ほとんどの方は心配そうな瞳で見守ってくださっています。

 そういう方もわたくしと視線が合いそうになるとパッと目を逸らし、我関せずを装っていらっしゃいますが。


「ローザリンデ、やはり夜会を欠席した方が良かったのではないか?」

 

 お父様の言葉にわたくしは首を横に振ります。心配そうなお母様に微笑みかけて「大丈夫ですわ、わたくしは人に恥じるような行いは致しておりませんもの」ときっぱり申しました。


 王太子であるジークベルト殿下との婚約が白紙撤回されたのは一週間ほど前の事。

 王宮に呼び出されたお父様が青い顔をして帰ってきた後にわたくしはこのことを告げられました。

 理由は……理由ははっきりとは告げられませんでしたが、聖女様に対し相応しくない行動をとった、そのような事をオブラートに包んで告げられました。

 〝相応しくない行動〟それが何を指しているのかは分かりません。わたくしは侯爵令嬢として、そして王太子殿下の婚約者として極めて常識的な行動しかとっていないのですから。


 お父様が素直に婚約の白紙撤回を了承したのも意外でした。お父様はわたくしとジークベルト殿下の婚約を喜んでおりましたし、応援してくださっておりました。少なくとも聖女様がこの国にいらっしゃる前までは。

 

「仕方のない事だ。婚約は〝破棄〟ではなく〝白紙撤回〟つまり双方に瑕疵はなく、ただこのまま婚姻するのは無理だとジークベルト殿下が判断され、それを陛下が了承された」


 お父様は苦虫を噛み潰した顔でその後はむっつりと黙り込んでしまいましたが、わたくしは納得できませんでした。けれど、王太子の婚約者としての地位を失ったわたくしはその後ジークベルト殿下にお会いすることが敵いませんでした。

 王宮に面会を申し込んでも、ジークベルト殿下はお忙しい、との理由で全てお断りされてしまいました。

 あら、ジークベルト殿下にお会いできなくなったのは白紙撤回される前からでしたわ。そう、聖女様がこの国にいらしてしばらく経った頃からでしたわね。


 「忙しい」を理由に日々の何気ない触れ合いも、決められていた〝婚約者同士のお茶会〟でさえも欠席されるようになって、聖女様にべったりくっついてどこかへ出かけていらっしゃるようでしたわ。

 もちろんお断りの理由は〝聖女様の視察に同行する為〟だの〝聖女様のお仕事のお手伝いをする為〟聖女様のお仕事とやらがどれほど重要なのかわたくしには分かりません。ただ、王宮でお会いしたジークベルト殿下にもう少し交流を、とお願いしたときに「ローザリンデすまない、今は出来るだけ聖女様のお役に立ちたいんだ。君ならわかってくれるよね」と慌ただしく告げられ踵を返したジークベルト殿下の瞳が輝いていたのを覚えております。わたくしに向けられたのではないその瞳は誰に向かって輝いていたのでしょう。誰を思ってその頬はうっすら染まっていたのでしょうか。


 わたくしは我儘でもう少し交流を、と言ったわけではございません。ジークベルト殿下は公務をずっと休んでおられました。……聖女様のお世話をする為に。

 そのほとんどは国王陛下と王妃様が肩代わりしておられましたが、正式な婚約者であるわたくしもそのほんの一部ですが負担しておりましたし、王太子の婚約者としての今後に関わる問題もありました。それらのご相談をさせていただきたかったのです。もちろん寂しくなかったと言えば噓になります。激しい恋でなくともジークベルト殿下とわたくしは幼い頃からの婚約者として築いてきた絆があります。

 いえ、あると思っていました。厳しい王太子教育、王太子妃教育に二人して涙し、励まし合い、切磋琢磨した思い出も、四季折々の庭園を散歩して日常の様々な出来事に笑い合い、相談し合い、愚痴を漏らした思い出も。八歳の頃より十年間、育ててきたその絆、その信頼が初めてわたくしの中で揺らいだ瞬間でした。






ーー♦♦♦ーー


 十か月ほど前の事でございます。


 まだまだ寒風が窓の外を駆け抜ける季節、 その日の政務を終えられ、わたくしと温かいお茶で一息ついたジークベルト殿下がポツリと仰られました。


「近々聖女様がこの国にお越しになる」

「聖女様……ですか?」


 初めて聞く言葉でした。どんな方なのでしょう、女神様のような御方なのでしょうか。

 この王国、いえ、この大陸のほとんどの人々が信仰する女神様、イシュリエ神様は太古の昔、恐ろしい魔獣で溢れるこの大地から魔獣の脅威を消し去ったお方だと言い伝えられています。一説ではここではない他の世界から来られた方とも言われており、幼児向けの童話には神々の世界から舞い降りたイシュリエ神様が魔獣を一掃して神々の国にお帰りになるお話が慈悲深い微笑みを湛えた女神様の挿絵と共に書かれております。


 聖女様とはそのような御方でしょうか。

 そう言えば、このところずっと暗いお顔だったジークベルト殿下の表情がいくらか明るく感じられます。どこかお加減でも悪いのではないかと心配をしておりましたが、久々に晴れやかなお顔のジークベルト殿下はわたくしに仰いました。


「私は聖女様をお迎えして、そのお世話をさせていただく責任者となった。聖女様がこの国に慣れるまでの期間だが、余所の世界からいらっしゃる聖女様は心細い思いをされることだろうから精一杯お世話させていただこうと思う。ローザリンデ、もしかしたらあなたに寂しい思いをさせてしまうかもしれないが我慢してくれないか」

「お仕事なのですから心得ておりますわ。それよりもジークベルト殿下がそのような重要なお役目を任されるなどわたくしも誇らしい気持ちですの。わたくしにお手伝いできることがございましたら遠慮なくお申し付けくださいませ」

「ははっ、私の婚約者は頼もしいな」


 そう言って微笑み合った頃が懐かしく思い出されます。




 それからしばらくジークベルト殿下とお会いできない日々が続きました。

 なんでもお迎えした聖女様が部屋に閉じこもったままでジークベルト殿下は何とか聖女様の心をお慰めして信頼していただこうと必死に努力していらっしゃるそうです。

 今まででしたら王太子妃教育の終わりに、少しずつ始めているジークベルト殿下の政務のお手伝いの折に、ジークベルト殿下とお話する機会が沢山ございました。ジークベルト殿下は物事がうまく運ばない時など、他の方には漏らせない愚痴や本音も時折わたくしには漏らしてくださいましたので、ご相談にのらせていただいたり、お慰めすることもございました。

 ジークベルト殿下のお心をお慰めできないもどかしさを抱えながら日々過ごしておりましたが、二週間ほど経った頃ようやくジークベルト殿下からのお誘いが届きました。



「ローザリンデ、私は引き続き聖女様のお手伝いをすることになったんだ」

 

 冬の厳しい寒さがやわらぎ、降り注ぐ日差しが春も近いと思わせる日の事でした。日当たりの良いサロンに腰を落ち着けると直ぐにジークベルト殿下はそう切り出されました。


「聖女様はお部屋に閉じこもってしまわれたとお聞きしておりました。それでは聖女様はようやく?」

「ああ、今回私は自分の至らなさを痛感したよ。私などがどれだけ聖女様のお役に立てるかわからないが、将来この国を統べる者として力の限り尽くすつもりだ」


 ジークベルト殿下は頭脳明晰で勤勉、既に国政の一端を担っておられます。五か国語を操り他国との外交でも功績を上げられ、また、日々の鍛錬も欠かさず騎士団の精鋭と匹敵する剣の腕前だと聞き及んでおります。王族でいらっしゃるので当たり前なのかもしれませんが、魔力も多く、魔導士団長であらせられます王弟のヒンデバルト公爵様やそのご子息のボニファティウス様ほどではございませんが高位の魔導士の資格をお持ちです。眩いばかりの黄金の髪、端正でともすれば怜悧に見えそうなお顔立ちですが、長いまつげが縁どる山間の深い湖の湖面のようなアクアマリンの瞳と上品で優雅な物腰が温和な印象を与え、貴族のみならず民衆にも非常に人気の高い王太子殿下でいらっしゃるのです。

 そのジークベルト殿下が「至らない」などと仰る聖女様はどのような方なのでございましょう。


「聖女様のお役目がどのようなものかは存じませんが、ジークベルト殿下ならご立派にお努めされると確信しておりますわ」

「詳しく話す事は出来ないけどね、この国を、民を守る大切な仕事だ。私は持てる能力全てで聖女様をお守りし、お役目を果たす所存だ」


 ジークベルト殿下の口元は固く引き結ばれ、瞳は輝いておりました。





 数日後、ジークベルト殿下は聖女様と視察に向かわれたそうです。

 招かれた侯爵家のお茶会で早速聖女様やジークベルト殿下のお話が話題に上っています。


「聖女様はどんなお仕事をされていらっしゃるのでしょう」

「このハイムズ王国を守る崇高なお仕事とお聞きしましたわ」

「私、恥ずかしながら聖女様という名称は初めてお聞きしたのですけれどイシュリエ神様と何か関係があるのでしょうか」

「私も初めてお聞きしましたわ。きっとイシュリエ神様の使途様でいらっしゃるのではと推測しておりますの」

「まあ! それは素晴らしい事ですわ。イシュリエ神様の使徒様が我が王国にいらっしゃたなんて! 女神様の奇跡で我が国に繁栄をもたらしてくださるのかしら」

「慈悲深く気高く素晴らしいお人柄なのでしょうね」

「ローザリンデ様は聖女様にお会いになられましたの?」


 伯爵令嬢に訊ねられ、わたくしは首を横に振りました。

 

「いいえ、ジークベルト殿下もお忙しくしておられますのでまだお会いしたことがございませんの。ですけれどわたくしもお力添え出来ることがあればと考えておりますわ」

「あの……」


 末席にいらした子爵令嬢が遠慮がちに声をあげられました。


「私の従兄弟が王宮女官をしておりまして、聖女様をお見かけしたそうなのですが……」

「「「まあ!! どんな御方なのですの?」」」


 一斉に皆さま食いつきましたわ。可哀そうに子爵令嬢は緊張して扇を持つ手がプルプルと震えております。もちろんわたくしも興味がございますので優しい言葉で子爵令嬢を促して差し上げましたわ。——早く喋れと。


「あ、あの……聖女様は……とても個性的な方みたい......です」

「個性的な方?」

「どのように個性的なのでしょう? 他に類を見ない御美しさ? それとも威厳に満ち溢れていらっしゃるのかしら?」


 言葉を選んでお話されていた子爵令嬢は目を瞑って一気に仰いました。


「大きな声で元気よくお話される方で、その、お召し物は異国の見たこともないお召し物で......おみ足を......おみ足を膝の上までさらけ出していたそうで......」

「「「膝の上まで!?」」」


 皆さま絶句してしまわれました。

 わたくしも言葉が出てきません。淑女は足首より上を殿方に見せる者ではありませんわ。子供の頃でさえ膝より下のスカートを履いております。

 ジークベルト殿下は腿まで足をさらけ出した聖女様と行動を共にしていらっしゃるのでしょうか……


「せ......聖女様のお衣装は斬新でいらっしゃるのですね。……何か……崇高なお考えがあるのではないかしら」


 わたくしが引きつった笑顔でそう申し上げますと他の方々も焦ったように頷いていらっしゃいました。

 その日のお茶会は微妙な空気のままお開きになりました。





お読みくださりありがとうございます。

しばらくは一日二話~三話投稿する予定です。

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