55 空へ
「えぇ!?」
「はぁ!?ぶっ飛んでったぞ!?」
「あれじゃあ魔女ってより超人だな…」
地上に残された3人が、遥か彼方に飛び上がったアイリに目を奪われる。彼女のいた場所は巨大な落石があったかのように地面が凹み、
影たちは、衝撃でほとんどが吹き飛ばされていた。ボサボサになった髪をかき上げながら、エイルは溜息のような深い息を吐いた。今もなお、目で追う彼女はどこまでも上へと上がっていく。一体何をするつもりなんだ…
「はははは!!すげぇな魔女って!おかげで霧がだいぶ晴れたぜ!」
「常識外れにも程があるわね……」
アイリの突飛な行動をガルンが笑い、イースが呆れる中、遠距離を狙うことに慣れたエイルだけが、飛んでいく彼女の表情を捉えていた。今もなお上昇していく彼女に対し、ぽつりと、誰にも聞こえないような声で呟く。
「何で本人が一番驚いているんだ…」
✽✽✽
「あああああ!!」
こんなはずではなかったのに!
喉が裂けるほどの叫び声をあげながら、自分の迂闊な行いを後悔する。とてつもない風の抵抗を受けながらも止まらない身体。今や学院の建物すら小さく見えるほどのはるか上空に私はいた。
ただの確認のつもりだった。
ガルンの言う霧の届かない高さまで飛べば、なにか分かるかもしれないという思いつきが原因だった。
実際、その目論見は上手く行った。
飛んですぐ、私の足元には限りなく薄い魔力が広がっているのが視えた。
中にいた時は分からないほど薄く引き伸ばされた魔力が、私達のいた付近全体を覆っている。さらには、声も戻ってきた。つまり、あの薄い魔力が、ガルンたちの言う霧であり、私の声を封じる魔法だったのだ。
そのことが分かったのだから、結果としてこの跳躍は、大成功なのだ。
ただ一つの問題点。
予想以上に飛んでしまったことを除けば。
上昇の止まらない身体は、雲すらも突き抜けた。だんだんと周囲の気温が下がり、寒さを感じてくる。
まずい。このままでは絶対にまずい!
身体強化を使った全力の跳躍。まさかここまでとは思わなかった。
とにかく勢いを止めなくては…これが私史上最大のピンチかもしれない。
脚の身体強化を解き、両手をなんとか上に向けた。
「とまって!!」
天にめがけて、体内の魔力を出し尽くすつもりで解き放った。
魔力を噴射する勢いで上昇する身体を押し留める。
身体から抜けていく魔力に比例して上昇の勢いが弱まっていくのを感じる。
このままなら…。
次第に上昇がする速度は落ち、魔力を3割程残した状態で放出を止めた。残った推進力でふんわりと浮かぶ身体。勢いを完全に殺し切ることに成功した。
両手で小さくガッツポーズする。
後は着地をどうするかだ。
同じように魔力を放出する?
恐らく足りなくなるだろう。魔力が切れたらそれこそ助からない。何か工夫をしなくてはならない。どうするか…
重力に引かれて背中からゆっくりと落ちていく中開かれる、着地のための脳内会議。
その会議は、結論が出る前に、視界に入った光景に、完全に中断されてしまう。
「すごい…綺麗」
口から自然と溢れた感嘆の声。
白の海がどこまでも広がる。波打つ雲の合間から、朝の光が静かにこぼれていた。昇りきっていない太陽の光。
淡い金色と薄桃色の光が溶け合い、空そのものを染め上げていた。
とても美しい景色だった。
本格的な落下が始まるまで、壮大な自然の神秘から私は目を離すことが出来なかった。
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