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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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51 霧


「うおぉ。外からでも分かったが、デケェなやっぱ。城ぐらいあるんじゃねぇか?」


「国内で数カ所しかない魔法学院の1つだ。これくらいの規模にはなるんだろう」


 クロを先頭に、学院の中へ入る。

ガルンとエイルが話すように、相当に豪華な施設のようだ。リンとの会話に夢中で、道中は気づかなかったが、外壁の中は多くの建造物が立ち並んでいた。


その中でも、一際大きい建物へ向かい、クロは迷いなく進んでいく。

依頼の詳細を知っているのは彼のみだ。彼から説明をしてもらえない限り、とりあえず黙って後をついていくしかない。置いていかれないよう、早足で後を追った。


 黙々と道を歩く中、人の手によって生み出された自然の芸術に目をとらわれる。

奥に見える巨大な噴水までの道を彩る、等間隔できれいに整えられた並木達。

静かに揺れる木々が、朝の日差しを程よく遮り、木々の隙間から、淡い金色の光で私達の行く先を照らす。今は、私たちの足音と、風で揺れる葉の擦れる音以外何も聞こえない。

そんな穏やかな道を、クロに続いて歩いていく。


本当にここが敵の拠点なのだろうか。


そんな疑念が生まれるほど、穏やかな景色だった。並木道を抜け、大きな噴水の脇を通っている時、急に一つの足音が消えた。

「おい、どうしたエイル?」


隣を並んで歩いていたガルンが、急に立ち止まったエイルに声をかけた。


「おかしくないか?学院に入って俺たちはまだ、誰ともすれ違っていない。早朝とはいえ妙だ。生き物の気配がない。…リン、何か分からないか?」


エイルは私たちの方、リンに振り向いて声をかける。エイルの言う通り、確かにここまでの間、学院だというのに教師や生徒らしき人影を一人も見かけていない。

朝早い時間ではあるが、1人くらい出歩いていてもおかしくないだろう。

学院に入ってから、ずっと話していなかったリンをみる。

一斉に注目を集めたリンはスッと顔を背けた。…確実に何か事情を知っている。だが、言い出せない。そんな表情で、皆にはバレないように、私の方ををチラリと視た。


…私に状況を説明しろとでも言うのか。当然ながら何も分からない。彼女の赤い瞳を恨めしげに見つめ、私なりの回答をさがす。


 まずは、先頭のクロを探した。リンが話せなくとも、彼なら何か知っているだろうと思ったからだ。

すぐ前方を確認するが、クロの姿が見当たらない。辺りを見渡しても影すら視えない。

おかしい。

先程までは悠然と前を歩いていたはずなのに。



「全員!警戒!気をつけろ!」


ガルンの声で、エイル、イースが一斉に臨戦態勢をとる。背中を互いに守るように陣形を組んでいる。


思考にとらわれていた私も声に反応して呼び起こされる。どうしたというのだ。急に周囲を警戒する彼ら。何も分からない私も、とりあえず、拳を構えてみる。


「ふっ」

隣のリンの口から空気が溢れた。笑われてしまった。この状況でも特に何もしないリンにムッとした顔を向ける。リンは警戒しなくていいの?そう声をかけようとした時、イースから声がかかる。


「魔女様!リンはどこに消えましたか!」


短刀を構えたままのイースは、こちらにも目を向け、辺りを警戒している。エイルは弓を構え、ガルンは大剣を鞘から抜いた。


言葉の意味が分からず、一瞬呆けてしまう。

イースにはリンが見えていないのか?


「この霧、なんか妙だ!」

「あぁ。恐らく何かの魔法だ。無闇に離れるなよ」

「クロとリンの姿が見えないわ!分断されたのかも!」


3人は見えない何かを警戒するかのように、ジリジリと後退する。彼らに見えている何かを探すように、私も周囲を見渡した。それでも、霧らしきものは何処にも見えない。

私は、急激な状況の変化についていけずに固まった。もうなにも分からない。


リン、どうなっているの?


その言葉を伝えるために、口を開けた。

隣にいる彼女だけに聞こえる声で発したはずの音。私の口から出るはずだったその声は、空気に振動を与えない。

パクパクと口だけを動かす私は、まるで喋り方を忘れてしまったかのようだった。


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