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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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50 魔法学院


 支度を整えて宿を出た。

荷物は最低限に、手紙と魔女のローブ。

手紙はポケットに、ローブは着ていくことにした。魔法学院という、魔法を究める者たちの集まる学び舎にこのローブを着ていくという行為。相当リスキーだが、リンとの話し合いの末に決めた。


 風でたなびくローブを身に纏い、リンと魔法学院へ向かう。隣にいるリンは、魔法学院という言葉を聞いてからずっと表情が硬い。何か考え込んでいるようだ。

いつもと雰囲気の違う彼女がなんだがむず痒い。どうしても耐えられなくなった私は、彼女に聞いた。


「魔法学院が敵ってありえないことなの?」


「…うん。あそこで一番偉い人。知り合いだから。だから多分、敵は魔法学院の一部。」


「それって、どういうこと?」


「学院にも、派閥がある。大きなもので言うなら、貴族派と庶民派。今回のは、貴族派連中の仕業…だと思う。」

歩く足は止めずに、淡々と説明する。

聞けば、魔法学院には常に派閥の争いが存在するらしい。高度な魔法技術は貴族のみが扱うべきであるという理念の貴族派。そして、学長をもとに、才のある者全てが等しく知識を求めるべきとする庶民派があるらしい。


「学長は学院で一番偉い人なんでしょ?何で理念に合わない派閥をそのままに?」


「分からない。わたしがいたときは、貴族派はあんまりいなかったんだと思う。でも、わたしが居なくなった後、第二王子が入ったってのは聞いたから。多分それが原因。」


「え。リンは魔法学院通ってたの?」


「そう。1年と少しの中途半端な間だけど。卒業証書もある。」

驚き立ち止まった私を見ることもなく、前を歩きながらリンは言った。

すぐに駆け足で隣に並び、興奮気味に尋ねる。

「どんなところだった?魔法って何を教わったの?やっぱり先生たちって皆凄いの?」


私の質問に、一瞬呆け顔を浮かべたリンの表情が笑顔に変わる。その笑顔に恥ずかしさを覚えたが、言いようのない安心がすべてを包み込んだ。

あぁ。いつものリンだ。笑われてしまったが、この顔が戻ってきたのであれば悪くない。久しぶりに目が合った彼女は、少し照れくさそうに話し始めた。


「わたしの場合、入学も卒業も特例中の特例。学長が勝手に入れたから。授業もあんまりでてないし、わがままで卒業したから正直、あまり覚えてないの。」


なかなかとんでもない生徒だったようだ。

それでも、卒業までできたというのは、彼女の才能が優れているからか。それとも、瞳が関係しているのか。


「おぉーい!遅いぞリン!アイリ!」

まだまだ尽きない質問を消化しようとしたところで、遠くから声がかかる。


声のほうには、立派な門を背景にガルンたちが集合していた。少し離れた場所にクロもいる。まだ結構な距離が離れているが、ガルンの元気な声だけが響き渡る。


「この話はここまで。行こ、アイリ。」


リンは、質問から逃げるように皆のもとへ走る。私も、その後ろ姿を追いかけるように走った。数秒で追いついたリンの隣から顔を覗き込む。短く息をはきながら走るその横顔は、もう。いつものリンに完全に戻っていた。


✽✽✽

「よし、これで全員だな!早速開始だ!」


重厚な門の前で集まった私達。ガルンの合図を皮切りに、誰かが動き出すわけでもなく、ただ、ガルンの声だけが響き渡る。

「…で、どうするのよ。何でここに集められてたかすら聞いていないのだけれど」


イースが、ガルンの合図をさらっと流し、鋭い目つきでクロに問う。


「内部には連絡済みだ。慌てるな。」


「何で私達にはなんの説明してないのよ!早朝急に現れて、「魔法学院にこい」だけ言って!気取るなっつーの!」


ロンの件がまだ後を引きずっているようだ。イースは常に喧嘩腰。しかし、当の本人であるクロは、問い詰めるイースから顔を背け、素知らぬ顔で何かを待っている。イースの声なんて一切に耳に入っていないような顔だ。

ガルンは頭を抱え、エイルは私たちと同じく、我関せずの姿勢だ。

そうやって学院の前でガヤガヤと賑やかにやっている中、クロが急に門の方へ歩き出す。


そんな彼を招待するように、今まで動く素振りすらみせなかった重厚な門が、ゆっくりと開き始めた。


「行くぞ」


クロはそれだけ言ってスタスタと学院に入っていった。











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