45 パレット
リンは首を傾げる。
「知らない?お絵かきで使うパレット。」
「それは、分かるけど…身体の中のパレット?っていうのが分からない」
それはね。と前置きして、ずいと詰め寄るように姿勢を変えてリンは続けた。
リンは首を傾げる。
「知らない?お絵かきで使うパレット。」
「それは、分かるけど…身体の中のパレット?っていうのが分からない」
それはね。と前置きして、ずいと詰め寄るように姿勢を変えてリンは続けた。
「皆、全部の色の乗ったパレットを持ってるの。でも、のってる絵の具の量とか、色の割合が違う。」
リンは、食べ終わった串を筆のように見立てて、空中に絵を描くような動作をする。
「好きな色の絵の具は真ん中に大きくとるから、他の色を使うときに混ざる。私が水色の絵の具をとっても、少し緑が混ざるの。混ざった緑が、身体から出る魔力。」段々と言いたいことが分かってきた。私なりの解釈で質問する。
「出来上がった絵が、魔法ってこと?」
リンは明らかに機嫌よく頷く。
「そう。だから、自分の好きな色で絵を描いたら、綺麗な絵になる。そして、混ざっちゃった色も、紙に残るから戻せない。」
「じゃあ、魔力は絵の具?」
「それは違う。…魔力は、絵の具を伸ばす水。かも。パレットから色をとるための。」
リンは、筆に見立てた串を、私に向ける。いつの間にか青く戻った瞳を向け、言った。
「アイリは水だけ。パレットがないから、色が混ざらない。水のままだから、また使える。けど、水だけだと絵は描けない。」
リンの説明に続けるように私は言った。
「だから、私は魔法が使えない。」
「多分。そういうこと。…わかった?」
私を覗き込むようにリンは聞いてくる。
私が頷くと、説明を続けた。
「魔法が使えない人は、普通、3つ。
1つは、その属性の適性がない。
2つは、そもそも魔力量が足りない。
最後は、魔法式や、魔法そのもの。つまり絵の描き方を知らない。
適性がない魔法を使おうとしても、他の色が多く混じってうまく使えない。そもそも魔力がない人は、筆に絵の具をつけられない。魔法式と呪文を知らないと魔法は使えない」
でも、と私を見て彼女はいう。
「アイリは特別。パレットがないの。普通、そんな人いない。」
彼女の言ってることを理解した。
私なりにまとめる。
「つまり、純粋な魔力しか出ない私には、魔法を使うそもそもの土台が揃ってない?」
彼女が頷いた。
私は、自分の体質に今度は心底がっかりした。彼女のいうことが正しければ、私は、これからもずっと、魔法が使えないのだ。縋るような思いで少しでも矛盾を探る。
そこで一つ思い当たる。
「鎖の男。あいつ、私以外にも、リンとイースの魔力も吸ってたよね?他の人の魔力なら、危険じゃないの?」
そう言うと、リンは淡々と説明を始める。
「あいつの適性は多分、闇属性。闇の絵の具は黒。黒は特別で、何色が混ざっても、最後には黒くなる。だから、別の色が混ざっても問題ない。ただし、闇属性の適性が強いと、闇以外の魔法は全部使えない。」
私とは別の話なようだ。それでも諦め悪く、うーんと声がでる。
魔法が使えない。
この事実が重くのしかかってくる。
私の中の魔法という希望の光を、一つ完全に失った。
折角魔女の家から持ってきた本も、無駄になってしまったのだ。
もう学んでも意味がないのか。多いと言われた魔力も意味はない。
所詮できるのは魔法の真似事。それもクロには一瞬で破られた。
役に立たない。
だれの言葉だったか。頭の中に浮かんだ文字によって目頭が少し熱くなり、下を向いた。机にもたれかかるようにふさぎ込む。
「それじゃあ、身体強化の魔法も使えないじゃん。」
机に寝そべりながら口を尖らせるようにぼやいた。
「身体強化は魔法じゃなくて技術。だからアイリでも使えるはず。」
ガバっと顔を上げる。さらっと言ってのけたリンと目が合う。
大きく目を見開く彼女に、食い気味に問う。
「それって!どうやるの?」
魔法が使えない私でも、出来ることがある。誰かの役に立てるかもしれない。
…役立たずではなくなるかもしれない。
驚いた顔をしていた彼女は、私の顔をみて、笑顔を見せた。
自分がどんな顔をしていたかは分からないが、少しだけ、耳が熱くなった。
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