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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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30/55

30 過去


 わたしが目を覚ましたときには、彼女は、アイリは姿を消していた。



起きたばかりわたしは、回らない頭がゆっくりと回転するのをぼーっと待つ。

昨晩は、何をしたんだっけ。…アイリとズズさんのお店でいっぱい服を着せてもらって。それからいつものお店でご飯を食べて…。泊まる場所がないってことで、一緒に宿に泊まったんだ。ソファで寝ようとした彼女にベットに来るように呼んで…。あれ、呼ぼうとする前に寝ちゃったんだっけ。


ソファにいるはずの彼女が見えない。恐らくトイレにでも行っているのだろうか?

ベットから降りて伸びをする。その際、枕元に大金貨が1枚置いてあることに気が付いた。

なんでこんなところに、財布に戻そうと自分の鞄の下へ向かって気づく。


…アイリの荷物がない。まさか、一人でどこか向かったのだろうか。

急に身体が芯から冷え込むのを感じた。



あの日と、重なる。


 大切な皆をなくしたあの日と。


 目を覚ましたときには全てを失っていた、最悪の日を。


 あいつと出会ってしまったからだろうか。それとも、アイリが皆の姿と重なってしまうからか。


クロに首を掴まれるアイリの姿を思い出す。


もう、乗り越えたと思っていた。自分のなかで、折り合いをつけて。

納得もした。恨んでいない。嫌いだけど。どう考えてもそれしかなったのだから。


忘れようとした。いやな気持ちを思い出さないように。


ジジさんは、多分気づいてくれていた。だから、予定になかった品評会を開いてくれた。


色んな服を着るのは楽しい。あの子の、夢だったから。

ご飯も美味しいものをいっぱい食べる。やりたいことをやる。楽しく生きる。



実際、アイリに言われるまで、忘れることができていた。


彼女と過ごすことで、できなかった何かを拾い戻しているようで、本当に楽しかったから。


彼女は違う。大丈夫だ。それが分かってはいたが、クロが門番としてアイリと出会ったときは、逃げてしまった。もっともらしい言い訳で誤魔化したが、ただ彼女を連れて、逃げてしまった。


結果としては正解だった。

もし、あいつがやると決めたなら、絶対に護り通せなかった。それでも、あいつは殺さなかった。

だから大丈夫。大丈夫なはずだ。分かっている。それなのに、胸に残るどうしようもない不安は、消えてはくれない。大丈夫。彼女は魔法は使えないそうだが、あり得ない魔力量を持っている。

実際、彼女はクロの動きを一瞬でも止めた。

常人では絶対にできない。魔力に質量を持たせることすら相当な魔力量と技術がいるのに、それを自在に操り、あいつを覆いこんだ。あんな芸当、見たことがない。彼女は特別なのだ。


それでも、不安は消えてはくれない。


わたしはローブを羽織り、窓から外に飛び出す。

すぐに浮遊の魔法を自分のローブにかける。風を使って高く舞い上がる。


ただ、一人で出掛けているだけだ。確認だけしたら、部屋にもどろう。

彼女の魔力は見つけやすいから、すぐに見つかる。


街の上空で魔女の瞳を開く。 私から全てを奪った要因の力を使う。


街全体を見渡すと、すぐに見つけることができた。あり得ない密度の魔力の塊。密度だけで言うのであれば、最強の龍型の魔物すら軽く凌駕するであろうそれが、街の大通りの真ん中で光り輝く。


ひとまず、安心した。

見間違う訳もないが、一応近づいて確認する。


彼女の姿がしっかりと視認できた瞬間、心臓が凍り付く。大男に襲われそうになっている。


彼女の肩に男の手が伸びる。このままじゃ間に合わない。急加速で落下しつつ、最速の魔法を詠唱する。


「落雷!」


けたたましい音と共に閃光が男を貫く。倒れ伏す男に対して、感情のまま質問する。


「なにしてるの。」



当の彼女は呆けた顔で私を見つめていた。






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