23 影
「なにをしている。」
「……チッ。」
屋根上に逃げた男は私へ向けてナイフを投げつけた。それは、私の方に飛んでくることなく、エイルの矢によって落とされる。
エイルが次の矢を構えている間に、男は屋根づたいに飛んで逃げていった。
「…何があった?」
エイルが矢を回収しながら質問する。
「襲われた。」
「それは分かる。相手は誰だ。」
「…王国の影。」
「!? なぜだ。ア…彼女を狙ったのか?」
「門番の振りをしていた。待ち伏せされていたみたい。」
エイルが私の方を向いた。
「知り合いか?」
「…知らないよ。そもそも私を襲ってくるとはね。命知らずなヤツだよ。」
強がってはみせるが、実際は本当に危険な状態であった。相手が魔力を視る目がなかったことにより成功した奇襲。初見ではうまくいったが、2度目はないだろう。あれがなかったらどうなっていたか…。
それと肝心なことを忘れていた。
エイルに近づく。
「今度は私が助けて貰ったね。ありがとう」
「…!いや、気にするな。」
ちゃんと感謝を伝え、事情を知っていそうなリンへと向き直る。
「ところで、王国の影…?だっけ、それがあの人の名前?」
「王国の影は、監視や情報収集をして支配階級の不正を見つけたり。場合によっては暗殺なんてをやる奴ら。他にも色々やる。要は、国の便利屋。名前は知らない。他のやつからはクロって呼ばれてた。」
「私はなんで襲われた?」
「…多分。怪しいやつだと思われたから。」
…。身元不明の住所不明の魔女のローブを着た人物。疑わない方が無理があるかもしれない。
「ところで、なんでリンは二人で離れたんだ?俺らと行動すれば襲われなかっただろう。」
エイルがリンに質問する。
「一応、顔見知りの私なら、おびき出せば話ができると思った。アイリには申し訳ない。おとりにした。でも、街中で一人はぐれたときに襲われるよりマシだと思った。」
頭を下げて謝られるが、むしろ私が感謝をする側である。ずっと何が来るかも分からない者を警戒しながらの生活より数段マシだ。襲撃者の顔が分かっただけで随分警戒しやすくなる。
「…今度からは俺らにも伝えといてくれ。」
「ごめん。ところで、どうして分かったの?」
「魔女の瞳を使っていたからな。問題が起こったときに加勢できる距離にだけはいた。」
「そっか。ありがとうエイル」
「構わん。…どうする?服は買いに行くのだろうが、護衛は必要か?」
「人通りの多い道だけ通るから大丈夫。診療所、行かないと。頭の傷治ってないし。」
「もう大丈夫なんだがな。まぁ問題ないならいい。気をつけろよ。」
そういってエイルは別れていった。
リンと私は二人で人通りの多い道へ戻る。先ほどまで緊迫した状況が続き見ることができなかった街の様相が目に入る。とても活気あふれる光景だ。そこかしこで集客の声が飛び交っている。店は、果物をかごに詰め込み大量に売る者、魚をまるごと閉じ込めた氷塊を積み重ねて売る者。 そして、なにやら用途の分からない顔の彫られた壺を売る者など、多種多様なものが売買されていた。
そのすべてが珍しく、全てが未知の光景に目を取られていると、隣のリンが笑いながら声をかける。
「全部終わったらいっぱい見て回ろうね。」
「…早く面倒ごとは終わらせよう。」
手を伸ばすリンの手を掴んで、歩く。なぜか顔を見られたくなくて、そっぽを向いて続ける。
「これ以上面倒事が増える前に服、買いに行こ。」
「服、可愛いの選んであげる。」
「おかしくなければなんでもいい。」
冒険者ギルドの最上階。
ギルド長である白髪の大男。ジェイルの部屋に、一人の男がノックして入ってくる。
「怪しい人物を確認した。」
「クロ。ノックは相手の返事を待たねば意味がないだろう。」
「報告は完了した。任務に戻る。」
「待て待て。分かったオレが悪かったから詳細を聞かせてくれ。」
「魔女のローブ着た魔女を騙るガキだ。」
「もちろん子供のオイタではないんだろ?」
「瞳を持ち、異常な魔力をしていた。」
「…。今回の件に関係していると思うか?」
「ない。よっぽどのバカか、オトリではない限り。」
「まぁ。目立つ必要はないからな。その子を連れてくることはできるか?」
「実験体のガキと冒険者と一緒にいる。相当手荒でいいなら構わない。」
「…リンか。西の森に向かったと聞いたが…また変なものを拾ってきたな。確かに今回の件とは関係なさそうだ。ご苦労だった。この件は任せてくれ。お前はお前の任務を引き続きよろしく頼む。」
「お前がどう言おうが関係ない。任務はこなす。」
そういって部屋と後にした。
「西の森から連れてきた魔女か…。面倒ごとが増えた…。」
そうぼやいたジェイルは、部下を呼んだ。




