22 路地
「ふぅ!何事もなく通れたな!」
「魔女様。アイリってのは本名ですか?それとも偽名?」
「今思いついた名前だよ。悪くないだろ?」
「ええ。とても可愛らしいと思います!エイルもそう思わない?」
「…ああ。」
「街中では…ていうかこれからはアイリ様って呼んだほうがいいか?」
「呼び捨てでいいよ。アイリって呼んでくれ。」
「じゃあアイリ!これから俺らは一旦ギルドに報告だけしてくるが、一緒に来るか?」
「んーん。まず服。いこ。」
赤い瞳をしたリンに手を取られて皆の輪から2人で離れる。
ずんずんと目的地に向けて進む彼女に声をかける。
「ちょっと、早いっ…かも。」
途中躓きかけながらも引っ張られるままついていく。ずんずんと少人通りの減った細い路地に入ると、急に振り返り、少し真剣な顔をこちらに向ける。
「門のあいつ…多分あなたのこと疑ってる。」
「この木札をくれた人?」
「うん。視て。」
赤い瞳で木札の魔力を視れば、黒い糸のような魔力が、私たちが来た方から伸びているのが分かる。
「魔女ってバレた?」
「分からない。そもそもアイツが門番みたいなことしてることがおかしい。」
「知り合い?」
「…一応昔の恩人。」
「いい人なの?」
「正義の味方。」
「じゃあ悪い人ではないんだ。」
「人殺しの常習犯。」
「…どうして正義の味方なの?」
「殺すのは、彼の中で悪とされた者だけだから。悪人だけを殺してる。」
「…嫌いなの?」
「別に。ただクソ野郎なだけ。」
「誰がクソ野郎だ。」
急に話し込んでいた背後から声がかかる。
私が振り向くより先にリンが声の主と私の間に入る。
カラン…。 音の行方を見れば、ナイフが1本足元に転がっていた。
「私が責任を持つと言った。」
リンが赤い瞳で睨むように見つめる先には
目つきの悪い細身の背の高い男がいた。
「軽い質問と警告だ。」
男は私の方を指差して続けた。
「魔女の瞳。…お前ら、嘘ついたな。」
「本当のことを言えば通してくれたの?」
「無理だろうな。それにそのローブ。本物の魔女じゃねぇのは分かるがそれ自体は本物だ。
…どこで手に入れた?」
「…貰った。」
「真面目に答える気はないか。」
男が急加速して私の前にいるリンの胴体めがけて横なぎの蹴りを放つ。
リンは、腕で胴体への直撃を防いだが、衝撃を殺し切れず壁に激突した。
そのままの勢いで私の方に腕を伸ばす。手を伸ばし防ごうにも間に合いそうもない。そのまま首を捕まれ壁に押し当てられる。
「アイリ!」
リンが起き上がりこちらに向けて魔力を右手に集めこちらに向ける。
「風しょっ…。」おそらく何らかの呪文の詠唱は、私の首に向けられたナイフを見て止まる。
魔力で首の周りを覆いながら質問する。
向こうがその気であればいつでも殺されるであろうが少しでも抵抗するために策は講じる。
「何が聞きたいの?」
「お前は誰だ。そいつと同類か。」
「アイリ。魔女だよ。こんなことしていいの?」
時間を稼ぎ打開策を探す。向こうの動きは全部視えているが、身体が追いつかない。
一か八か。魔力を直接ぶつけてみるか?助けを呼ぶ?街の中だ。誰かは来るだろうが大事になるのは避けられない。
「また嘘だな。…こいつはお前と同じか?」
質問の相手をリンに変える。
「違う。完全に別。手を放して。」
「どうしてここに来た。」
「…知り合いを探しに。」
本心を話す。それと同時に足先から魔力を出し目の前の男の足元に待機させる。
「…何を企んでいる。」
「別に。」
その瞬間男の足もとの魔力で一気に男を囲む。それと同時に首筋から魔力を出してナイフの刃に纏わせる。ナイフが首筋に鋭く突き立てられる。喉に押し込むようになったナイフで息が詰まるが、魔力の膜で柔らかく覆っているので切ることはできない。
「…!?」
驚いた表情の男が一瞬硬直した隙に魔力の膜で男を覆い、そのまま小さな球体を作るように潰していく。
瞳で私の魔力を視ていたリンがそれに合わせて走り、私の隣へときて風魔法で壁を展開した。
魔力の膜は男が少し膝をまげたあたりで潰れるのが止まる。
押しつぶす魔力増やそうとしたとき魔力の膜が弾けた。
「その魔力量。何者だ。この量の魔力の具現化など、バカげている。」
男の手には私の魔力で覆ったナイフとは別のナイフがもう一本。男の魔力を纏っていた。
もう一度仕切り直しの状態になる。
今度はリンが魔法を展開しており、さきほどより有利なはずだ。
しかし、戦いの経験のない私には、先ほどから勝てるイメージが全く湧かない。
私が動けないでいると、リンが頷き、風の障壁を大きく展開した。
突然男がこちらを見ていた視線を外し、背後から飛んできた矢を掴む。
さらに2本、3本と男を狙う矢をナイフで弾きながら建物上に男が逃げる。
矢の飛んでくる先には、
「なにをしている。」
エイルが次の矢を構えながら男を睨んでいた。




