20 魔女様
まだ日が昇りきっていない早朝。
朝の支度をリンに手伝ってもらい出発の支度をする。完全に支度を整えたとき、エイルから「お礼の一つとして受け取ってくれ。」と一足の草履を渡される。
聞けば、火の番でもないのに、夜中のうちに作ってくれたそうだ。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ!」
早速履くと、サイズもぴったりでチクチクすることもない。とても丁寧な仕事だった。
「とてもいい履き心地だ。サイズまでぴったり…。本当にありがとう!」
握手を求め手を差し出す。彼は、少し躊躇いながらも握り返す。
「サイズは、足跡から確認した。決して変なことはしていない。それと、街に入ったらちゃんとしたのを買ってくれ。それまでのつなぎだ。」
早口でそう言い残していってしまった。
その場で地面を踏みしめてみる。
少し不思議な感触だが、しっかり足を守ってくれそうだ。昨日の旅の中で傷ついた足を心配してくれたのだろう。
今では傷も治りつつあるが、生傷だらけの足を優しく包み込んでくれる。
初めて人からの贈り物を貰った。その事実がたまらなく嬉しかった。
街を目指して移動を再開する。
リンから、昨日のように飛んでの移動を提案されたが断らせて貰った。
理由としては、街に近づく前には、目立つから降りたほうが良いと言われたこと。
そして、せっかく貰った草履でいっぱい歩きたかったからだ。
「よかったじゃない。すごい嬉しそうよ?」
イースがニヤケ顔でからかってくる。
「相当裸足が堪えたんだろう。」
そう伝えるが、彼女の顔は変わらない。
「魔女様って可愛らしいわよね。なんだろ、見た目通り?院の子達に似てるかも。優しくしたくなっちゃう気持ちも分かるわ。」
後ろでフンフンと鼻歌を歌いながら歩く彼女をみる。
「確かに、威厳はあまり無いかもな。お前らが言うから信じるが、あれが本当に悠久の時を生きる魔女なのか?」
「エイルは見てないもんね。あの異常な魔力。たぶん魔女様が本気を出したら一撃よ。一撃。あんなの、普通の女の子が出せるわけないわ。あ、あと彼女…これは言うべきじゃないわね。頑張って!」
「何が頑張ってだ。勘違いするな。」
それだけ言い残して、イースは逃げるように先頭のガルンの隣へ走る。
誰にも聴こえない溜息をしながら後ろをさり気なく確認する。
何がそんなに気に入ったのか、明らかにハイテンションな彼女見ていると、自分の仕事を褒めたくなる。
楽しそうに道を踏みしめる彼女。
俺を助けてくれた彼女は、西の森の魔女様だと自らを名乗る。
噂に疎い俺でも知っている。魔女とは歩く自然災害。と揶揄されるような存在で、機嫌を損ねたらその日が命日とすら言われている。
具体的な話はあまり聞かないが、出会ってしまったら警戒しなくてはならない相手。
そういう位置づけだった。
しかし、出会ってみるとどうだろう。俺から見た魔女は、俺の命を救い、たかが草履のプレゼントに子供のように喜んでいるただの女の子だ。
それでも、仲間たちは彼女を魔女様だと信じている。何でもとんでもない魔力での威圧を受けたらしい。
その話だけでは信じることが出来なかったが、彼女のローブは魔女しか着ることを許されないローブだそうだ。
俺には学がないから分からないが、
貴族や一部の商人。魔法を極める者の中では常識とのことだ。
魔女様。そう呼ばれる彼女のことが気になった。何百年と生きてきたらしい彼女は、何を経験してきたのか。
何が好きで、何が嫌いか。
そして、どうしてあんな森の奥で一人で過ごしてたのだろうか。
まずは、名前でも聞いてみようか。
そんなことを考えて歩いていると、俺たちの拠点がある街『アールイ』が見えてきた。




