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魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


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14 朝食


コンコンコン。


優しいノックの音で目が覚める。

「魔女さん。起きてる?」


「…んあぁ。起きてるよ。もう出発するのか?」

あくびを噛み殺し伸びをしながら返事する。身体中からパキパキと音がする。


「そう。だけどその前に朝食。…一緒に食べる?」


そう言われてから気づいたが、とてもいい匂いがする。


昨日から、というかいつから食べていないのだろうか。


恐らく初めての食事だ。


「もちろんだ。大盛りで頼む。」


すぐに扉を開けておこしに来たリンと顔を合わせる。



「…ふふっ。魔女さん…寝癖、それによだれ。 とりあえず顔、洗おう?」


リンに手を掴まれ、そのまま引っ張られるようにして外へ向かう。


この建物から出て初めての外だ。まだ日は昇ったばかりで足元の草木は朝露でキラキラと輝いていた。


「…こっち。」


言われるがままに家前の泉の縁へしゃがみ込む。


リンが私の背後に回り、髪に櫛をいれる。


私はその間ぼーっと、泉を見つめる。


そこには、初めて見る自分の顔が映っていた。


私を見つめる私の瞳は、鮮血のような赤色をしていた。


真っ黒い髪は肩まで伸びていて、後ろでリンが夢中で梳かしてくれている。


昨日拝借したローブは左肩のほうががずり落ちている。


何回か元の位置に戻すが、すぐにずり落ちてしまうためそのままにした。


袖をまくり顔を洗う。


冷たい水をすくい上げ両手でぴちゃぴちゃと顔に水をかける。


後ろのリンが髪が水につかないように耳に髪をかけてくれる。


奥の森から鳥のさえずりが聞こえてくる。


とても平和な時間が流れる。


昨日まであんなに神経を張り巡らせていた相手とは思えない。


顔を洗い終えて泉の淵から離れると、リンにタオルで顔を挟まれ、されるがままに拭かれる。


懐かしい気持ちが胸を温める。こんなことが過去にあった気がする。


「はい、終わり。」


「えっと、ありがとう」


横並びで家の方へ歩いて向かう。


「これからどうする?本物の魔女さんとは知り合い?」


「…多分、知らない人。これからは…決めてない。でも、本棚の本は読んでいきたいと思ってる。」


バレているようなので正直に話す。


口調も取り繕うこともしない。彼女の前でだけは、楽をさせてもらおう。


「…そう。でも帰ってきたらどうする?」


「考えてないけど、家があれだったから、多分あんまり帰って来ない…と思う。」


「確かに…部屋中埃だらけだった。…行く当てないんだ。」


リンが考えるような仕草で黙り込む。


もう全てばれているのだ。私のこと、全て話してもいいだろう。

意を決して話しを切り出す。

「…目的はあるよ。まず…」


「聞きたいけど、着いた。…皆には本当のこと、はなす?」


間の悪いことに、玄関に着く。完全にタイミングを失った。


「…考えとく。」


話すのは、二人きりの時だ。


「…そっか。まあ、ご飯、食べよう。」


そういって家の中に戻った。


「お、戻ってきたか。目は覚めたか?魔女さん?」


「あぁ。朝は弱いんだ。すまないね。皆は元気だね。」


ガルンに声をかけられ、頭を切り替える。自分の思う、自信に満ちた魔女として取り繕う。


正直、もう本当のことを話しても良いような気がするが、念のためだ。


「冒険者だからな。依頼は早朝からが多いんだ。慣れっこだよ」


「なるほどね。私には向いてなさそうだ。」


そう言って座っている輪の中に入る。


リンの隣に腰を落とすと、イースがどうぞ。と言って木のお椀と匙を渡してくれる。


お椀の中には豆がいっぱい入った赤いスープが並々注がれていた。

湯気にのったスパイスの香りが、私の鼻孔をくすぐった。


席を立ったリンがパン2つを手に取って戻ってきた。


みんなが手を組んでいるのを見て同じように真似をする。

「恵みに、感謝を。」「「感謝を。」」「…感謝を」


ガルンの掛け声のあと、それに続く皆に続いた。


それが終わると一斉に食べだした。


皆に習い

スープにパンを浸しながら食べる。

パンは岩のように硬かったが、スープは香草の香りが食欲を掻き立て、大変美味しかった。




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