表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の使えない魔法使い  作者: 只野 凡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/55

10 逃避


 エイルのほうを視る。傷口の近くに少し。へその上あたりにある魔力の中心点、小さく渦まいている中に色の違う魔力を視る。傷口側は大部分は摘出されたのだろうか、ほとんど残されていない。


私がするべきはこちら側だろうとお腹の上に両手を重ねる。とりあえず、自分のできることをやってみる。自らの魔力を手のひらからエイルの方に流してみる。


「…ぐあっ!!」

 エイルの身体が跳ねる。それと同時に周囲が武器に手をかける音が聞こえる。


 急いで魔力を自分の方へ引っ込める。冷や汗が止まらない。

周りと目を合わせることができず、エイルの方を視たまま弁明する。


「おっと、すこし荒かったかもな、すまないね。今度は優しくしようか」


 再度魔力を込めようとしたところで手首を捕まれる。身体が小さく飛び跳ねた。

顔をそちらに向ける前に声をかけられる。


「…密度が高すぎる…そのままだと…毒物と変わらない…。」

それだけ言ってリンは手首をはなしその場で床に伏せる。

相当無理をしたようだ。呼吸は荒く、汗で前髪が額に張り付いている。


「リン!」

すぐにイースが駆け寄り彼女を壁の方へと私から引き離す。

彼女に伸びかけていた手が行き場を失い、地面に落ちる。


すぐに自分の失敗を悟る。魔女としての期待に応えられなかった。


彼女たちの方をみることができない。


彼女たちへの恐怖なのか、騙している罪悪感からか、それとも自分の無力さを恥じているからだろうか。


彼女にかけようとした言葉は喉の奥で詰まって、ため息となって外へ漏れる。


私は何と声をかけようとしていたのか。心配だろうか。謝罪なのだろうか。


私はちゃんと謝りたいのだろうか。

騙していてごめんなさい。私、なにもできないんです。


それを伝えることができれば、何か変わるだろうか。殺される可能性のが高いだろうが、ここから逃げ出すことができたなら、また新たなスタートを切れるかもしれない。

 

 どれくらいになるだろうか、手紙の主を探して、この世界を回る。そうやっていつかきっと見つかるその人に、自分のことを教えてもらう。そこからは考えていないが、きっと私は魔法に触れている。そんな幻想が頭を巡るが、こんなことは逃避でしかない。


 私は自分で選択してしまった。


臆病な私は、何者でもない自分を隠すために、他人の皮を被って生きていくことを決めてしまった。


すべて成り行きだが、あったかもしれないもっとよい可能性をつぶしてここにいる。


であるならば、こんな形でも彼女たちに関わってしまったなら、私は責任を果たさなくては。


あたまの奥で、そんな使命感が、義務感が、自分を揺らす。これが私なのだろうか。


この思いは私の本質なのか。それとも誰かから植え付けられたものなのか。


 役目を果たせ。


私の中のなにかが私に告げる。


ずっと昔に聞いたことがあるような声だ。懐かしさと、悲しさが同時に襲ってくる。


私は役目を果たさなくてはならない。何かを為さなくては。


私は倒れているエイルに向き直る。これが、今私が任されたこと。彼を救う。果たさなくてはならない。


私が私でいるために。私がここにいるために。


…胸の奥で棘が突き刺さるような痛みを感じた。私ではない誰かが泣いている。そんな気がした。






 
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ