僕、婿入り前に洗われてる!?婚前調査狂騒曲【case A 公爵家に婿入りする侯爵家の三男の場合】
爵位を継がない貴族の子息などを対象に、婿として適格か秘密裏に調査をしているらしい。
そんな噂が国内で流れ始めたのは二月ほど前のことだった。
噂の出所は定かではないが、貴族や商家が調査を行っており、なんとすでに婿が決まっている家も調査をしているらしい。
そして、商家の入婿になることが決まっていた子爵家の三男の婚約が先月解消になったことにより噂が真実味を帯びた。
男たちは戦慄した。正しくは家を継がない者たちが戦慄した。
婿入りが決まっているからとあぐらをかいてはいられない。いつどこで調査が入り、不適格のレッテルを貼られ婚約がなくなるかわからないのだ。
解消ならまだマシ。自分有責の破棄なら絶望的。
逆に婿入りの打診をされていた家から、今回は見送ることとなったという書面が届いて一家で真っ青になるケースもあった。
実態は不明瞭ながら、確実に自分たちは品定めをされている。そして具体的に何をどうすれば良いのかもわからないのは、婚約者がいようがいまいが同じ。
もちろん噂が流れる前も、婚約前に調査はされていたはずなのだ。しかし、どうやらそれとは何かが違う。
婿になり得る者たちは戦々恐々としながら日々を過ごしていた。
果たして調査員は実在するのか。
調査員を見つけようとするもの、疑心暗鬼になる者、依頼をしたい者などの思惑が絡み合う。
「参ったな……」
読んでいた本に栞をはさみ、テーブルに置くと深くため息をつく。
僕の名前はアストレイ。ジョクール侯爵家の三男だ。
帝国の皇女だった祖母と同じ青い瞳を持つ僕は、美男美女である両親の子だと一発でわかる顔をしている。二人の兄も美形ではあるが、長兄は男らしく鋭い目を持ち、次兄は穏やかな面立ちだが近衛騎士をしていることもあり身体が厳つい。
末っ子三男の僕は、いかにも優男といった印象を持たれやすい。中性的な顔立ちに細身の身体。優男のイメージを体現してはいるが、実際の僕はあまり優柔不断ではない……と思う。
継ぐ爵位もない三男坊だ。自由に生きれば良いと両親は言ってくれていた。
祖母の祖国である帝国へ数年間留学していたので、このまま帝国で歴史研究をするのも良いなと思い、実際に準備を始めようと一時帰国していたところに降って湧いた幼馴染との婚約話。
歴史学のレポートを、同じく歴史学を趣味にしていらっしゃる王弟殿下が気に入ってくださったのが縁組のきっかけと聞いてしまっては、断る理由が見つからず、婚約を了承した経緯がある。
理由が顔ではなく、僕が好きな歴史学であることも良かった。決して権力差に屈したとか、そういうことではない。
「アストレイ様ぁ、どうかなさいましたか?」
目の前でそんな僕に微笑みかけるのは、婚約者でもなんでもない、ガルニエ伯爵家のカミーユ嬢だ。
本人にも宣言されていることなのではっきりと言う。僕はカミーユに狙われている。
『お顔が大変好みですの!』
失礼な話だ。
カミーユが大変な面食いだというのは有名な話である。過去に我が国の王子に執拗につきまとい厳重注意が下ったため、再教育と称し数年間王都から姿を消していたが、実際に再教育が施されていた可能性はゼロだとにらんでいる。
これがもしも再教育後だというのなら、僕が親だとしたら恥ずかしくて表に出せない。野放しにしている時点でガルニエ伯爵家の程度はお察しなのだ。
「参っているのはここにあなたがいることです。どうしてカミーユ嬢がここにいらっしゃるのか、不思議でならないのですよ」
「それはもちろん、アストレイ様がこちらにいらっしゃるからですわ!」
答えになっていない。第一どこから僕の行動が漏れているのか。深くため息をつくと、本を片手に立ち上がった。
「どちらへ行かれるのですか?お供いたします!」
「婚約者と待ち合わせなのですよ。ついてこないでください」
「そんなことおっしゃらずに!」
「お断りします!」
やっとのことでカミーユを振り払うと、馬車に乗り込む。
やれやれ、と、額の汗を手の甲で拭い、窓の外を眺めた。
僕の婚約者はヴィルロワ公爵家の一人娘である、オーロラ。僕は婿入りが決まっている。
入婿に対する秘密調査の噂を聞いた時に感じたのは、僕も調査対象になるのだろうか、という不安だった。
しかし付き合いは長い家だ。ましてやお互いの家の性質的に、誰かを使って調べるようなまだるっこしいことはしないだろう。
だとしても、だ。執拗に関係を持とうとしてくるカミーユにどう対応していくか……。
婚前調査について、議会で調査の事実を問い質された際に国王は否定も肯定もしなかったという。
つまり、婚家の依頼などではなく、国が主導の可能性もあるのだ。
「まあ、破棄されてしまったら今度こそ帝国に行けるようにお願いする手もあるか……」
なるべくなら避けたいけれど、婚約破棄なんてされてしまえばこの国に居場所なんてないしな、と自嘲した。
===
馬車は学園の馬車止まりに到着したようだ。外で御者が門衛と話している声がする。
オーロラはまだ学生のため、約束をしている日はこうして下校の頃に迎えに行く。
カミーユ嬢に関して、当然公爵家と侯爵家より伯爵家へ苦情は入れている。一度や二度の話ではない。その都度謝罪は来るが、あくまで形式的なもので根本的に解決させる気がないのは明白だった。あわよくば、なのだ。
それこそ王弟殿下にお願いして、王家から厳重注意をしてもらう必要があるかもしれない、と考えていると、外から御者の声がした。
「アストレイ様、まもなくオーロラ様がお見えになります」
「ありがとう、開けてくれ」
開いた扉から馬車を降りると、きゃぁと歓声が上がった。校門を見ると、オーロラが友人たちと歩いて来るのが見えた。高めのポニーテールに結われた薄茶色の髪が揺れている。
「お疲れ様、オーロラ」
目の前に来たオーロラに手を差し伸べると、オーロラはにっこりと微笑み手を差し出した。
「お迎えありがとうございます、アストレイ様」
「それじゃあ行こうか」
うなずいたオーロラが馬車に乗り込む。僕も馬車に乗り込むと、窓を開けてオーロラの友人たちに微笑みかけた。
「皆さん今日もありがとう。オーロラをよろしくね」
きゃあああ!という悲鳴を聞きながら窓を閉めると、すぐに馬車が走り出した。
「相変わらず、呼吸するように気障なことを言うわね」
オーロラがこちらを一瞥して扇を広げる。
「こればかりは仕方ないよね。この顔で気が利いたことを一つも言えないと、それはそれで角が立つんだよ」
はあ、とため息をつくと、オーロラが声を出して笑った。あまり扇の意味がないよ、オーロラ。
婚約者であるオーロラ=ヴィルロワ嬢は俗に言うお転婆タイプ。公爵家のご令嬢であるためマナーや教養は十分に身に着けているが、剣技を好み、毎朝庭で家の護衛騎士たちと走り込みや素振りなどの鍛錬をしている。
手の皮膚が固くなることを公爵夫妻や使用人からうるさく言われたと嘆いていたので、帝国皇族御用達の手入れ用クリームをプレゼントしたところ、大変喜ばれた。本人ではなく使用人に。ちなみに本人は全く気にしていない。
「そういえば聞いたわよ、覆面調査?婚前調査?の話」
「ああ、あれね。僕も調べられていたりするのかな?」
「うちはやらないと思うのよねえ……アストレイとの婚約を白紙にしたら、次に誰を入婿候補にするの?って話になりそうじゃない」
「僕もそう思う。僕は歴史研究にかこつけて帝国に逃げられるけど、オーロラはそうじゃないからね」
「第一、剣を続けることを許容してくれる殿方が、この国にいると思えないのよね……」
「帝国にはそれなりにいるからね。抵抗はないよ」
話をしている間に馬車はジョクール侯爵家へ到着したようだ。
オーロラをエスコートし馬車を降りると、中へ入る。
玄関には母と次兄が立っていた。
「ルイーズ侯爵夫人、ガブリエル様、お出迎えくださりありがとうございます」
「こちらこそわざわざ来てくださってありがとう、オーロラちゃん」
「久しぶりだね、オーロラ嬢」
「ご無沙汰しております、ガブリエル様」
後で少しお邪魔するわ、と見送られながらサロンへ向かう。
オーロラ嬢とは週に一度、互いの家でお茶をする時間を設けている。我が家は帝国式、ヴィルロワ家では王国式といった感じで、お互いのルーツである文化を実践しながら関係を深めていた。
紅茶を飲みひといきつくと、そういえば、とオーロラが切り出した。
「あの伯爵家の彼女。一昨日かしら、学園に乗り込んできたわよ」
「え!?まさかカミーユ嬢?」
顔を上げてオーロラを見ると、こくりとオーロラがうなずく。
「そうそう、カミーユさん。アストレイ様は共有財産なんだからなんとかかんとか、って。彼女大丈夫なのかしら。私が言うのも変な話だけれど、オツムが心配ね」
「……本当にね。そろそろ王弟殿下のお力を借りなくちゃいけないかなと思ってるよ」
「ああ、確かシャルル王子殿下に以前やらかしていたんだったわね。懲りない人なのね」
「羽虫の話をしているの?」
背後から声がして振り返ると、母が笑みを浮かべて立っている。
「羽虫?」
首をかしげたオーロラに教える。
「カミーユ嬢のことだよ。ブンブン飛び回ってうるさいだろう?」
「ああ、なるほど!確かに。申し訳ありません夫人。公の場を離れると遠回しな表現の理解に頭が働かなくて」
「良いのよ、それがオーロラちゃんのいいところ」
ニコニコと笑みを絶やさず、僕とオーロラの間に入ってくる。
「今日のクッキーは、南国のナッツを使っているのよ」
「そうなんですか!初めての味わいだなと思ったんです」
「帝国の伯父が送ってくれたの。ちょっと変わった風味だけど癖になるのよ」
「わかります」
母はオーロラをとても気に入っている。オーロラが比較的厳粛と言われる我が家でくつろげるほどに肝がすわっていることも、理由の一つらしい。
あと、我が家は母が当主で父が入り婿ということもあり、他の家に比べて婿入りすることに対してあまり抵抗がないのかもしれない。
「それで、羽虫の話だけれど」
母が手癖で扇を開く。
「他国、おそらく帝国の誰かが入れ知恵しているんじゃないかと思ってるの」
「……母さん、それは確かなの?」
「伯父に調べてもらっているわ。可能性としては十分あると思う。帝国との関係は悪くないのよ?でも、私を嫌う勢力というのがありますからね」
先程から伯父、と言っているのは帝国の元公爵である。子どもが男しかいなかった大伯父は母を大変可愛がっており、何かと便宜を図ってくれるのだ。僕の留学もそのひとつだった。ちなみに母の従兄弟に当たる現公爵との仲も悪くはない。
「抗議しても全く改める気がないでしょう? あれはバックに帝国がついているから問題ないと思っている気がしているのよ。愚かよね。我が家の方が帝国とのつながりは深いのに」
「では、私はどうしたら良いのでしょうか?」
オーロラが少し不安そうに尋ねた。
「オーロラちゃんは何も変えなくて大丈夫よ。変えてしまうと、あちらを調子に乗せてしまうわ。いつもの通りでお願いね」
「心がけます」
「むしろ心配なのはアストレイよ。疑われるような状況を作らないでちょうだいね」
「わかってるよ。……ところで母さん、覆面調査の話は知ってる?」
「ああ、知ってるわよ。婿だけじゃなくて嫁も対象になってるから安心しなさい」
「えっ」
オーロラが声を上げる。
「お詳しいんですか?」
「……あれ、他の国でもやってるところは多いみたいよ。ラヴァリア教が一枚噛んでるとかなんとか」
「ラヴァリア教が?」
「ラヴァリア教は噂レベルだけどね。ただ、やってる国がうちだけじゃないのは確か」
「そうなんですね」
「後ろ暗いことをしていなければ大丈夫。その点は二人とも問題ないでしょう?」
「はい」
「当然だよ。ただ気になっているのは、あのカミーユ嬢がその調査員なんじゃないかってことなんだ」
数年王都を離れていた。その間に教育などをされていてもおかしくない。愚かな演技をしている可能性だってゼロではないのだ。
「さすがにそれはないと思うけれど……」
母が頬に手を当てて首をかしげた。
「新しいことがわかれば知らせるわね。オーロラちゃんを娘と呼べる日を楽しみにしてるんだから、しっかりしてちょうだいよ、アストレイ」
……と、言われていたのに。
ある日気がつくと、僕は知らないベッドの中にいた。
「……やられたな」
後ろから誰かに呼びかけられたところまでは覚えている。おそらくその直後に意識を刈り取られたに違いない。
――ベルトのバックルに手をやる。特に外された形跡は、ない。
「アストレイ様ぁ!お目覚めですのね」
扉が開き、カミーユが入ってくる。
「……どういうことだい、これは」
「大変でしたのよ?いうことを聞かせる魔道具を手に入れるのは」
カミーユが大きな魔石がついたペンダントをこれ見よがしにブラブラと揺らした。
「アストレイ様には全然効果がないから、それなら周りの人にいうこと聞かせれば良いんだと気が付いて!ほら、みなさん入って?」
みなさん?と疑問に思う間もなく、ぞろぞろと十人ほどの人間が入ってくる。
その中には、オーロラの友人や兄の仕事仲間などの見知った顔もあった。そして、当然知らない顔も。
みんな、目が虚ろになっている。
禁忌魔法、の文字が頭をよぎる。
これは、ガルニエ伯爵家を徹底的に洗ってもらわないといけないようだ。
「……どういうつもりだ、カミーユ嬢」
「言ったではありませんか!アストレイ様は共有財産なんです!みんなで共有しないと!」
ベッドから降りようとすると、ジャラリと音がして足がピンと引っ張られる。
布団をめくると、両足首にはめられた革の拘束具とベッドが鎖で繋がれていた。
「芸術のようにお美しいアストレイ様がたった一人のものになるなんて許せませんわぁ?シャルル殿下の時は失敗してしまいましたけれど、今回は失敗いたしません。これから一生、可愛がって差し上げますからねぇ」
幸いまだ何もされていないらしい。ベルトに触れるとカミーユがきゃあと声を上げた。
「ようやく観念してくださったのですね!毎日アストレイ様に愛されるシーンを想像しておりましたの!」
「悪いがそれは見当違いだ。僕はここで辱められるつもりなど毛頭ない」
「この状況で何を仰っているのですかぁ? 多勢に無勢、いくらアストレイ様でもこの状況から逃げ出すのは無理」
ドーン、と部屋が揺れ、カミーユが言葉を止める。
「なんですの!?」
「……あいにく、こういう事態は初めてじゃないんだ」
そう、誇れることでは決してないが、初めてではないのだ。母について行ったお茶会で寝室に引き込まれそうになったことも、他国の奴隷商にさらわれそうになったこともある。
ドッドッドッと足音が聞こえ、勢いよくドアが蹴破られた。
「……最近はないと思っていたのに、またですか、アストレイ」
「いい大人になってまで助けてもらって、申し訳ないね、オーロラ」
そんなピンチにいつも助けてくれたのが、僕の婚約者であるオーロラなのだ。
数分後。
部屋の中にいた男女はすべて伸されて倒れていた。
「まさか魅了の魔道具を使ってくるとは思わなかったな」
「ほんとね。それにしても残念だわ、友人関係を見直さないと」
「兄さんたちに言うのも気が引けるよ……」
かくして、僕の貞操は守られ、オーロラは両親に大変感謝された。
魅了魔法にかかっていた人たちは病院で処置を受けた後、記憶消去の処置を施され解放された。
魅了魔法は遥か昔に禁止された禁忌魔法。魔道具を使用したとしても、現在も扱えると知られてはいけないからだ。
ガルニエ伯爵家は取り潰し。
カミーユ嬢は拘束され、研究施設に連行された。
「研究施設?」
ヴィルロワ公爵家のサロンで、オーロラと公爵夫人、そして僕と母の四人。
「精神干渉魔法が心身に与える影響を調べたりするの」
と母が答えた。
「他国にあるのよ。非人道的な扱いを受けるらしいという噂もあるわね。あくまで噂だけれど」
「それにしてもアストレイに何事もなくて良かったわね」
公爵夫人が扇で口元を隠しふふふと笑った。
「あれほど気をつけろと言ったのに」
母は渋い顔をしている。
もっと直接的に貞操を守ってくれる魔道具があるとすすめられたが、そこまでは必要ないと断っていたのだ。しかし、さすがに着用を考えないといけないのだろうか……いいや、できれば避けたいな。
「メルグリス様にくれぐれもお礼を言っておいてくださいね。本当に助かりましたと」
「……検証のために魔道具の現物をお送りしましたし、礼も兼ねて寄付も上乗せしましたから、それだけで十分だと思いますわよ」
メルグリス様とは、帝国屈指の魔道具師。ご自身も魔法使いであり、嘘が本当かは定かではないが、齢数百と言われている。
「ごめんなさいねオーロラちゃん」
「いいえ、むしろ張り合いが出て大変ありがたいです!」
オーロラの言葉に夫人がため息をつく。
「こちらこそごめんなさいね、アストレイ」
「とんでもない。オーロラには感謝してもしきれないので。頭がおかしい人間はこちらの想像を軽々と超えてきますから、オーロラのように物理的に制圧してくれる人がそばにいると本当に心強い」
「アストレイも決して弱いわけではないのにね」
オーロラがため息をついた。
「式は早めましょうか。オーロラが卒業した翌月はどう?」
「こちらは構わなくてよ。ドレスは間に合うの?」
「なんとかなるでしょう」
「ええ……ひと月くらい南へ修行に出るつもりだったのに」
オーロラが悲鳴をあげた。修行って、道場破りでもするつもりだったんだろうか。
「新婚旅行を兼ねればいい。僕も遺跡に行きたいしね。剣にはめる魔石をプレゼントするから、それで手を打ってくれない?」
「魔石! 仕方ないわね、手打ちにしましょ」
その後、僕たちは余計な横槍が入ることもなく、無事に式を挙げ、夫婦になった。
婚前調査なんて都市伝説だったんだろうなと思っていた矢先に、調査員を名乗る人物に会うとは思いもしなかったが。
===
「……なんだツェリ、お前が噛んでたのかい」
「違うんですよメルグリス様、たまたま、たまたま居合わせちゃって。まさか仕事中に魅了の魔道具に出くわすなんて、普通思わないから」
メルグリス様に、回収してきたペンダントを手渡す。
「なるほど。これは外装は古いが中身が新しいのう」
「ボクもそれが気になって。おそらくですがロゼナス崇拝派じゃないかと」
「……そうか、ありがとう。あとはこちらでも調べよう。それにしても楽しんでいるようじゃないか、幻貌の魔女ツェレリアよ」
その名前で呼ばれるのは久しぶりだ。なんだか嬉しいな。
「楽しいのは否定しないですけど、適材適所でしたっけ?ボクは引っ掻き回すのは向いてないですからね、自分の得意な魔法を生かせるから悪くはないです。それにしても今回狙われてたアストレイ君、彼はやばいですね。彼が本気を出したら、おそらく国が滅びる」
「ヴィルロワ家の婿だな?美人で男女から狙われるってバックル型の魔道具をオーダーされて製作したんじゃが、そんなにか」
「あれは女装もいけますね……あ、魔力量はそれなりでしたが魅了持ちではなかったです。ヴィルロワのご令嬢は剣士で冒険好きみたいだし、仲良くなってみようと思ってます」
「ふぉふぉふぉ、ほどほどにな」