転生したらコミケだった
「コミケ?」
あまりにも聞きなれない言葉に素っ頓狂な声が出た
「大丈夫ですか? こんな真夏にそんな甲冑来ていたら倒れますよそれは......」
美人さんが呆れ顔で話す
「その甲冑脱がないんですか?」
「そうだな、うむ、いったん脱ごうか」
確かにここは暑い
この美人は私の体調を心配してくれているのだろうか
……優しい
特に闘いも起きている様子はないし、ここはお言葉に甘えて脱ぐことにしよう
そういってガサゴソと兜の緒に手を伸ばす
紐を緩めて兜を脱ぐ
...…ムワッっとした蒸気があたりを包み込んだ
「あーそれは結構蒸れますよねー……とりあえずこれ飲んでください」
美人さんは若干顔をしかめながら、飲み物を差し出してきた
私は美人さんの気配りに思わず会釈して受け取る
普通は怪しい水など飲まないのだが、目の前にいるのはやさしい美人さんだ
ここで断るのは男が廃るってものだろう
もし何かあっても腹を下すくらいだ
俺は勇者フロー、怖いものなのなにもない!
そう心の中で呟いて、水を一口飲む
……なんとも、うまい水だ
喉がカラカラだったというのもあろうが、なんとも新鮮な水である
魔王退治は毎日ドブのような水を飲んできていたから、こんな清流の川で組まれたような清らかな水は久しぶりすぎて骨身に染みるうまさであった
それにしても、ペットボトルとやらと言ったか、なにやら珍妙な容器もあるものだな
蓋を回すと閉まって持ち運べるのか
透明で中身の量もわかる
なんと便利なマジックアイテムだ
これを作った職人は天才だろう
今度俺もこれをつくってもらおう
「うむ、ありがとう、こんな貴重な水をいただけて私は光栄だ。少し飲み過ぎてしまって申し訳ない。忘れないうちにこのアイテムを返させてもらうよ」
「えー、いらないですー。飲み終わったらそこのゴミ箱にでも捨てちゃっておいてください」
「なんと、捨てるなんてもったいない。ではお言葉に甘えていただくとしよう」
返そうとしたら、断られた
いや、若干拒絶チックだった気もするが、こんな貴重なものをくれるとはなんともありがたい娘だ
こんなにうまい水と貴重な容器を惜しげもなくくれるこの美人さんは、もしかすると聖女なのではなかろうか?
そんな感覚が頭をよぎったが、聖女など天上の上の人物だ
私などが会えるはずもない
そんな取り止めないことを思考しつつ、美人が続ける
「そういえば、そこにコインシャワーあるので浴びてくるといいと思いますよ。コインもってます? なければ余ってるのあげますね」
コインシャワー、またなじみのない単語だ
しかし、なんとなく何をするところなのかは察しが付く
「身体を洗うのですか?」
「ええ、いや大丈夫ならいいんですよ。でも、ちょっと汗とかすごいなって……ほんとに大丈夫ですか?」
「うむ、風呂ならさっき入った」
「え? そ、そうなんですか?」
なぜだ、心なしか、美人さんが困った顔をしているように見える?
ところで、そういえば、私は今何をしているんだ
話を整理しよう
私たちパーティメンバーは魔王を討伐し、私は湯船に飛び込んだ
すると、いつの間にか、この場所に来ていた……
メンバーたちはどこに行ったのだろうか?
そういえば思い当たる節がある
これが噂に聞く魔王を倒した後の空間転移というやつか?
しかし、空間転移は魔王討伐直後の祝いの打ち上げが終わって、しばらくたった後に、ゲートが出てきて、そのゲートをくぐると、ホームタウンに戻してくれるというものすごく勇者一行にとって帰りの手間を考えなくていいご褒美のようなゲートだと聞いたことがある
突然、別の場所に飛ばされるものだったのか?
疑問は尽きないが、女性は困惑の表情がだんだんと強まってきた
「うむ、よくわからんが、とりあえずシャワーを浴びよう。コインありがとう」
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案内された場所に来た
それにしても不思議な設備が目白押しだ
まず、建物に光の魔法がかかっていて常に明るいというのが驚きである
気温を下げるためなのか霧吹きが出ている場所もあった
それにしても不思議なタイミングで水が出ていた
どこかに水の魔法使いがいたのだろうが、見当たらなかった
どこにいたのだろうか?
あれやこれやと疑問は尽きないが、もう何が起きているのかわけがわからん
とりあえず、シャワールームに入ろうとした……その時、
外で大きな叫び声が聞こえた
――なんだ?
フローは急いで外に出た
甲冑を脱ぐ前でよかった
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外に出たら、なんと……
弓矢をもって暴れている男が、美人さんを人質に取っているのが見えた