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Life 夢の軌跡  作者: 伊藤ヲカシ
第1章
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18話 残された物

 タッグを組んだ灰とハジメは前衛と後衛に役割を分担する。

 魔術を構築し始めるハジメを確認した灰は前に出てヤクザの男と向かい合う。


「俺とやる気か?お前じゃ、ただじゃすまねぇぞ」

「俺だけならな」


 それが戦いのあいずだったのか、灰はいきなり繰り出されたヤクザの男の蹴りを左腕で受け止めつつ牽制目的で右で連続してジャブを打つ。全て捌かれてしまうが、ハジメの魔術完成の為の時間稼ぎの為問題ないと割り切る。


(やっぱりコイツ強い!!だけど時間は俺達の味方だ。焦らずあいつの攻撃を捌いてこの状況をキープだ)


 河川敷での喧嘩でその威力を身をもって知っている灰は背中越しでも分かる風の躍動を信じ、集中力を高めていく。一方ヤクザの男は焦りから動きが悪くなっていた。


 パワーも経験も自身が勝っていようとも灰も自身と同じ第2位階、本気で壁役に徹されると中々抜けられる物ではない。しかもさらに後方では自分を一撃で葬れるであろう魔術が構築されているのだ。焦らない方がおかしいだろう。

 

 ヤクザは心を乱しつつもフェイントを仕掛け経験の浅い灰を釣り何度も良い一撃を入れるが、灰は腰を折り悶える事はせずヤクザの両手を掴み押さえ込もうとする。


 ヤクザは蹴りを入れようと考えるが、灰が倒れなかった場合片足だけでは馬力が足らず押し倒され、確実にハジメの魔術を食らってしまう。そう考え、ヤクザの男は腰を落とし力比べに移行する。


 「「うぉぉぉぉぉ!!」」


 体格差や筋力量の違いから拮抗状態は数秒保たず灰が押され始める。だが、此処で後衛の準備が完了する。


「灰ィー準備完了だ!!そのまま逃すなよ。」


 その言葉に両者反応する。完成前に潰したかったヤクザの男は、ハジメの方を本能的にみる。ハジメの右拳の前に出来た小さな風の円錐が出来上がっていた。


 見た目は大したことはないが、それを食らったやばいと感じ取ったヤクザの男は逃げようと灰と取っ組み合っている両手を振り解こうとするが、笑み浮かべる灰が逃さない。


「放せッ、クソォ、放せぇー」

「やだね!!」

「クソガキがぁーーーーーー」


 生意気な態度を取る灰に激昂しかけるが、目の前に現れた脅威にヤクザの男は意識を傾けざるをえない。


「よそ見してんじゃねぇよ」

「ま、まてぇ、まってくれー!!」

「人の家族に手ェだそうとして甘い事言ってんじゃねぇーーーーーー!!『槍風』」

「グホォォーーーーーー?!」

 

 風の円錐の先がヤクザの男の鳩尾に叩き込まれた瞬間爆風が指向性を持って路地裏を突き抜ける。ヤクザの男はあまりの威力に灰と組み合っていた手を離し白目を剥き路地裏の奥の方へ吹っ飛ばされる。


「おい、大丈夫か?立てるか?」

 

 静まり返った路地裏でハジメは先程まで壁役を担っていた所為であちこちアザを作っている灰の怪我の具合を聞きながら手を差し伸べる。


 地べたに寝転んでいる状態の灰は痛そうに上体を起こしハジメの手を取り立ち上がる。


「取り敢えず俺ん家に戻るか」

「あぁ、凛にこの事報告すんの面倒だな」

「まぁ、言い訳は帰る最中に考えろよ」

「…そうする」


 路地裏から出てきた2人は疲れて重い身体を動かし葉山家に向かう。一時的にタッグを組んだといっても未だ知り合って間もない2人は、会話する事なく沈黙が続く。

「さっきは助けてくれてありがとうな。お陰で道を踏み外さず済んだ」


 最初に口を開き沈黙を破ったのはハジメだった。硬派な彼は、礼を言わないのは筋が通らないからと立ち止まり頭を下げる。


「頭あげろよ。社長命令に従っただけだ。」


 灰も立ち止まるが、気にした風でもなくあくまでも社長である凛の指示に従っただけど言う。しかし、それでもハジメは、中学生くらいの歳下に要らぬ怪我を負わせてしまったと頭を下げ続ける。


「だが、お前はボロボロに」

「良いよ別に、死んでねぇし。それより俺お前に一言、言ってやりたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「あんまり、我慢すんなよ。我慢し続けられる奴なんていねぇ。いつか限界が来てブッ壊れちまう。だからやりたい事があるなら相談してやりたい事やれよ」

「あ?ふざけんな。下の兄妹達に辛い思いなんかさせねぇ。長男の俺が我慢しねぇでどうすんだ?!」

「しらねぇよ。家庭はそれぞれだしな。これは俺の実体験からの言葉だが、相談されずにブッ壊れられんのも結構辛いぞ」


 それだけ言って灰は、再び歩き出す。その背中の後ろをついて行く形で跡を追う。ハジメは灰に言われた言葉を頭の中で反芻させていた。


(見るからに中坊のあいつが会社の社員だって事はそれ相応の事情があるんだろうな。…あいつ等は今の俺をどう思ってんのかな?)


 ハジメは家に着くまでの間、夜空を眺めながら灰の言葉によって新たに生まれた考えを元にこれからの家族接していこうかと思考をし続けるのだった。

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