17話 相棒
地元の人間の土地勘とは侮れぬ物で、強力な助っ人5人のお陰で広範囲を探せる様になった灰は、人質ではなく、伝達係であるリーダー格のチャラ男と共にハジメを探していた。
「ボス、情報入りました。2番地区の路地裏にそれらしき人物が男2人にやられてるそうです」
「よくやった。案内しろ」
「はい!!」
リーダー格のチャラ男は携帯端末で仲間から受け取った情報でヨウコが通う幼稚園近くの路地裏にそれらしき人を見つけたと灰の耳入ってからの移動は迅速だった。
灰は位置情報を教えてもらい手下のチャラ男Bをその路地裏の入り口付近に立たせて全力移動を開始し物の数分で目撃情報があった路地裏に辿り着く。
「ここです」
「ありがとうな!!後でコーラ奢ってやる」
「いえ、お気をつけてぇ!!」
「ああ!!」
灰は路地裏の奥にいる3人の内手前にいるのがハジメである事を目視で確認し、凛の読み通り面倒ごとに巻き込まれている事を確信する。
(あれだけ強かったあいつが、地面に寝っ転がってるって事はあいつら相当強いのか?それとも手を出すと面倒な奴等なのか?まぁ、凛のオーダーはハジメに恩を売って仲間にする事なんだから誰でもいいか。それに俺の仲間に手出しやがって)
灰は全力で地面を蹴り加速すると背の高い弱そうな奴の顔面目掛けて膝蹴りをかます。背の高いヤクザの男の歯は折れ意識を失ったのか仰向けに倒れ伏す。
倒れ伏した背の高いヤクザには目もくれず残った小さい中年ヤクザの方を睨みつけながら、ファイティングポーズを取る灰は威圧する様に声を荒げる。
「お前、俺の相棒に何してんだ?!」
その言葉に反応したのはハジメだった。ボロボロの身体をふらつかせながら、片膝を地面につけて起き上がり、未だ社員になった訳じゃないと抗議する。
「勝手に相棒にすんじゃねぇ…」
「お前凛から逃げられると思ったのか?おめでたい奴だなー」
「後でお前ぶっ飛ばす」
「成程、仲間がいたか…どうだ?お前もヤクザやらねぇか?お前なら楽しくやっていけると思うぜ」
灰とハジメが軽口を交わしているのをジッと眺めていた小さい中年ヤクザは、仲間がやられて怒るかと思いきや、特に気にした様でもなくハジメだけでなく灰にも勧誘し始める。
「お前イカれてんのか?仲間が1人やられてんだぞ」
「はぁ?俺達は利害が一致してるから組んでるだけだ。情なんかねぇよ、俺は頭が足りねぇから奴を頼り、奴は力がねぇから俺を頼ったそれだけだ。それでどうだ?俺とヤクザやるのは?」
あくまでもビジネスの関係であると語る中年のヤクザは、勧誘を続ける。
「断ったら?」
「力づくで従わせる。それが俺のやり方だ」
中年の男ヤクザはそう言い切ると同時にファイティングポーズを取る。灰は気合いを入れ直し向かい合う。お互いの初動を探りどう攻めるかを考え沈黙が路地裏を支配する。
数秒後いきなり飛び出してきたヤクザの拳を左手で受け止める。しかし、予想以上の余力を受け止めきれず少し後ろまで吹っ飛ばされる。
「ッ?!」
「お前ヤクザに入る奴が腕っぷしに自信がねぇ訳ねぇだろ?!当然、俺みたいな下っ端でも位階は上がってる」
「…第2位階」
全力かは不明だが、今受けた拳の威力を逆算して、ヤクザ男の位階は自分と同じ第2位階だと仮定した灰は、苦い表情を浮かべる。
逆にヤクザ男は笑みを浮かべ距離を詰め、拳と蹴りの乱打を繰り出す。灰はそれを後ろに飛んで回避するが当たったらタダじゃ済まない程に繰り出された攻撃は凄まじく。
躊躇なく繰り出された純粋の第2位階の全力の膂力は当たればただじゃ済まない事が風切り音でわかる。
(あいつ喧嘩慣れしてるな。多分あいつは殴り合いの世界を生き抜いて位階を上げた人間だ。戦闘経験の点では、俺より上)
灰は冷や汗を浮かべながらどうやって倒そうか考えているとボロボロの状態のハジメが、いつの間にか立ち上がり灰の隣に並ぶ。
「なんだ立てる様になったのか?それならとっとと家に帰ってな。俺はこいつとー」
「もういい、お前が逃げろ。」
「はぁ?!」
「今回の問題は俺の問題だ。まだ会って間もない奴をこんな危ない事に巻き込ませる訳にはいかねぇ。俺の魔術でかたをつける」
「お前が帰れよ!!ボロボロじゃねぇか?!」
「丁度いいハンデだ。お前が帰れ」
「お前等俺を忘れてんじゃねぇよ?!」
「「グホッ」」
どちらが先に帰るかで言い争う2人、どちらも譲る事を知らないのか、どんどん喧嘩越しになっていく。だがヤクザの男がそれを黙って見ている筈もなく、右の中段蹴りが灰のガード越しに入り、ハジメの方に吹っ飛ばされる。
「イッツー」
「いつまでも上に乗ってんじゃねぇよ」
「あぁ、わりぃ」
いつの間にか下敷きにしていたハジメから立ち上がり離れた灰は、反撃にと飛び上がり全力の回し蹴りを放つ。しかし、それを簡単に受け止められ放った右足を掴まれ投げ飛ばされる。
次に攻撃を仕掛けたのは、ハジメだった。「渦巻け」と灰と戦った時の魔術を行使しようとするが、それにいち早く気付いたヤクザの男に十分な威力の達する前に鳩尾に拳をくらい吹っ飛ばされる。
2人は地面に這い蹲りながら奇しくも同じ事を考える。((強い、けど2人なら勝ち目はある))
「おい」
「ん?」
「何分いる?」
「…1分時間を稼げそしたらあいつを吹っ飛ばしてやる」
「わかった」
灰の言葉足らずの提案をすぐさま理解したハジメは1分間の猶予を求める。了承した灰は立ち上がりハジメの前に立ち構える。そして、後ろでハジメは立ち上がり詠唱を始める。
こうしてこの時初めて組んだ2人が凛の右腕でと左腕として世間を騒がせる程に活躍していく事とを未だ誰も知らない。