3日前-①
煌びやかな世界に、目を瞑りそうになる。
自身の唐突な衝動に、目を背けそうになる。
ドアの向こうの景色は、俺が知っていたものではなかった。
俺がかつて暮らした街ではなかった。
溢れんばかりの人が行き交い、混ざりあった音たちは耳を壊そうとしている。
都会から少しだけずれた、何の変哲もない住宅街だったはずの俺の小さな世界は、もうどこにもなかった。
そんなに楽しそうに、皆どこへ行くんだろうか。
そんなに笑顔になれるほど、行きたい場所があるのだろうか。
そんな場所があることを心底羨ましく思った。
『やり残したこと、ぜんぶやる!!!!!』
……さて、どうしようか。
勢いで飛び出してきたのは良いものの、行き先の検討は全く付いていなかった。
俺がやり残したことってなんだろう……。
目を閉じ、元から少ない記憶をじっくりと思い出す。
俺の、小さな小さな世界。狭くて、なんにもなくて、誰もいなくて。ゆっくりと、世界の軌跡をなぞる。
公園にでも行こうか。
そう思った。
近所の小さな公園。ブランコと、シーソーと、滑り台があるだけの、小さな公園。
幼い頃の俺は、あの公園が大好きだった。
目を開けると、履きふるしたスニーカーが視界に入った。あの頃はもっとずっと綺麗だったはずなのに。
父親に買って貰ったスニーカー。
もう随分と、一緒に歩いていたみたいだった。
人々は皆、駅へ向かっていくみたいだった。
その流れに逆らって、俺はゆっくりと公園へと歩き始めた。