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等価的な恋

作者: 一華花


私は充実していないことがなかった。


充実のハードルが低いのかもしれないけれど、まあ、思い悩みすぎることがなくて。


だから少し鈍感なところがあった。


気兼ねなく人に頑張れと言えたし、

あなたならできるよ、と日々無責任な言葉の安売り三昧だった。


そしてその日も、いつも通り人の繊細な部分に無責任にどかどかと入り込んだ後だった。



彼女の恋人が浮気したそうで、とても悲しそうだった。


あまりに辛そうだったので、別れたほうがいいよと言った。

彼女が恋人のことで私に相談してくるのは、少なくなかったからだ。


というよりも、私と彼女が会う理由の9割が彼女の恋愛相談だった。


この時点で私は気づいてもいいものだったけれど。何しろ鈍感だったから



「別れなさい、それがあなたにとって一番よろしい」の一点張りだった。



最近では彼女が私のことを軽んじているから、こんなくだらないことでばかり呼び出されているのかと思っていたくらいだ。


(今思えば、恐らく彼女は私のことを意外なほどに信頼し、好いていてくれたのだ。)



だから、彼女を失った直後は、泣くこともできなくて、逆に憤慨していた。


そんな馬鹿な私だったから、彼女を殺してしまったのだ。



『たかが恋愛のために、なんで自分を殺そうとするのか、まったく理解できないよ。』



彼女は理解してもらおうなんて考えてもいなかったし、理解しなくてもいいとも考えていなかった。


ただ、私が「たかが」と言った恋愛に、彼女は命を懸けられたということだ。


「…たかが恋愛のために、なんで自分を殺したのか、全然理解できないよ…」


眠る彼女に憤慨しながら放った言葉。


今では、彼女のいないこの世界で、その言葉に涙している自分がいる。


老衰で死んだじいちゃんの時には感じなかった命の「価値」を感じた。


命の等価って、なんなんだろうか


どうしても私は彼女の命と彼女の恋を等価価値とすることはできないけれど


でも、そんなことは関係ない。


彼女の命を育み、慈しむのは彼女だけなのだから。


彼女はきっとその死の時に、私のことなんてこれっぽっちも頭をよぎらなかったろう。


それどころか、彼女を正しく愛した家族のことさえ、彼方に置き去りにして、


衝動的に彼女は命を恋人に捧げた。


まるで、彼女が彼に恋したときのように、衝動的に死を愛してしまった。


それでも私はやっぱり、命の等価の正解を知らないから。


彼女が憎くて、愛しくて、悔しくて、ただ、寂しい。



fin.




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