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No.62【ショートショート】グッドバイ

作者: 鉄生 裕

目に留めていただきありがとうございます。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

「一緒にお父さんとお母さんを探してくれませんか?」

時刻は深夜の1時をまわっていた。

土砂降りの中、少年は傘もささずに両親を探し回っていた。

少年が目を覚ますと、彼の両親は既に姿を消していたらしい。

私は少年を連れて交番へ行き事情を話したが、警察官は私たちの話に聞く耳すら持ってくれなかった。

飲み会帰りの私を質の悪い酔っ払いと思い、早々に追い返したかったのだろう。

こんな幼い少年を家で独りぼっちにさせるわけにもいかず、仕方なく少年を私の家まで連れていくことにした。

そしてその日から彼の両親が見つかるまでの間、少年は私の家に居候することになった。


私は少年と一緒に、彼の家の周辺を中心に何日も何日も彼の両親を探し歩いた。

彼の両親の居場所を聞くために役所へ行っている最中も、彼は一人で街中を探し回っていた。

両親の住所は今もまだ彼が目覚めたあの家のままだったので、それ以上のことは役所の人も分からなかった。

しかし、”その場所”が何処にあるのかは数日で調べがついた。

ここまで調べがつけば、あとはその事をどうやって彼に伝えるかが問題だ。


「ねぇ、私と一緒に来てくれる?もしかしたらお父さんとお母さんに会えるかもしれない」

今までの経験から、こういうのはダラダラと先送りにしない方が良いということは分かっていた。

分かってはいたけれど、どうしてもこの瞬間が苦手だし大嫌いだった。

”その場所”へ行くと、予想通り彼の両親はそこにいた。

少年は一目散に両親のもとへ駆け寄るだろうと思っていたが、彼は私の真横で遠くから二人の姿を見つめていた。

そんな彼を見て思った。

そうか、この子はちゃんと分かっていたんだ。


私に話しかけてくる人のほとんどは、自分が死んでいるということに気付いていない。

そういう人たちは自分が死んでいるという事実に気付くと、「どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ」「死んだことにすら気付いていないことを、心の中ではずっと笑っていたんだろ?」「生きてる人間がそんなに偉いのか?馬鹿にするのも大概にしろ」と、まるで呪いの言葉を吐き捨てるかのように私に罵詈雑言を浴びせ姿を消してしまう。

だけど、彼は違った。

彼は自分が死んでいることを最初から知っていた。

「お姉ちゃん、ありがとう。最後の友達がお姉ちゃんでよかった」

彼は全てを知っていたうえで、最後にその言葉を遺して私の前から姿を消した。

それは自分が死んでいることに気付いていない人たちよりも、よっぽど残酷だと思えた。

いっそのこと、いつものように呪いの言葉を遺してから姿を消される方がよっぽど気が楽だった。


私にできることはもう何もない。

「突然すいません、海斗くんの親御さんですか?」

私は彼の墓前に手を合わせていた両親に声をかけた。

「そうですけど、失礼ですがどちら様ですか?」

私にできることはもう何も無いけど、どうしても誰かと一緒に彼の話をしたかった。

「・・・私は、」

だから、頭のおかしな奴だと思われるかもしれないけど、不謹慎な奴だと思われるかもしれないけど、私だけが知っている彼を誰かと共有したかった。

「私は、海斗くんの友達です」


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