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忘れ物

作者: おすし

 飛行機を乗る以外の目的で飛行場へ向かうのは今回が初めてだった。旧友が遊びに来るということだったので僕は遥々迎えにきていたのだった。せっかく空港へ向かうのだから東京ばな奈でも買って帰ろうかしらと思いながら僕は家を出た。


 電車へ揺られながら羽田空港へ向かう。この電車に乗る人たちはみな空港へ向かうのか、キャリーケースをもった外国人が多く見られた。

 その中で僕はひっそりと手を繋ぐカップルを眺めていた。大学生ぐらいだろうか、初々しさとぎこちなさが残っているような、青春というには大人びているが、まだ甘酸っぱい風味がどこか漂っていた。

 そんなささやかな幸せを味わっていたところで羽田空港第3ターミナル駅へ着いた。ここは国際線の搭乗口なのでもう1つ先まで電車にのらないといけない。キャリーケースをもった外国人たちがここでぞろぞろと降りていく。僕はそこで空いた席の1つに腰掛けた。


 ふと対面の椅子の下を見やると、スプレー缶のようなものが落ちているのが見えた。電車に揺られながらコロコロと転がるそれはカランカランと寂しそうな音を鳴らしていた。

 きっとどこかの外国人観光客の落し物なのだろう。

 電車の揺れに伴い右へ左へ揺れていた缶は対面の座席の奥深くに入り込み、もう出てこなくなってしまった。

 もう二度と持ち主の元へ帰ることはないと考えると少し寂しくなった。せめて駅員が見つけ出してくれると信じて、羽田第1ターミナル駅へ降り立った。

 駅へ降りて改札を出ると空港と直結しており、高い天井に電子掲示板に掲げられた時刻表を見るだけでテンションが上がる。

 そんな高揚感のまま、ずっと我慢していたトイレへまずは足を運んだ。

 トイレへ向かうとそこには透明に白い取っ手がついたビニール傘が置きっぱなしになっていた。こいつも持ち主の元へ帰れないのかと考えると少し寂しい気持ちになった。

 友人が来る飛行機まで時間があったので、展望台へ向かうことにした。

 そこには飛行機のもとで作業をする人が小人の妖精のように見えた。荷物を運ぶ車のようなものでコンテナを運んでいる。飛行機と比べると本当に大きな荷物を運ぶ蟻のようだった。

 1人の作業員が荷物を積み込み、移動しようとする。そこで私はまた気がついた。1つ箱を積み忘れていたのだ。本当によく忘れ物を見つけるなと感心していた。

 しかし、今回は違った。もう1人の作業員が声をかけて車らしきものを止めた。そして何回か声を掛け合ったのか、忘れ物に気がつき取りに行っていったのだ。

 僕はなんだか少し嬉しくなった。忘れたと考えると寂しくなるので、僕は「おいてきた」と考えるようにしようと思った。傘も缶もコンテナも全部置いてきたのだ。だからきっと誰かが届けてくれるし気がついてくれる。そう思うと今日出会った忘れ物たちが急に嬉しい出会いなように感じた。


 そんなことを考えたいるとあっという間に飛行機の時間になった。友人とはすぐに会えた。久々の再会に嬉しくなり今日あったことから思い出話まで、いろんなことを話しながらもと来た電車へ向かった。


 とりあえず私の家へ帰ることになり、友人と来た道を戻ろうとしていた。改札に入り、電車を待っていると、行きで見かけたカップルを見つけた。

 いや、カップルではなかった。カップルの男の方が1人でいた。よく見ると瞳がかすかに濡れていたようだった。

 ああ、彼はきっとこの空港に彼女との思い出を「置いてきたのだ」。しかし、どうだろう。僕はあんなに嬉しかったのにこう考えても切なくなるだけだった。


 その男は途中まで一緒にいたがいつのまにかいなくなったいた。僕は友人と2人で電車に揺られながら今日あった出来事を話していた。落とし物から生まれたちょっぴり切ない話を聞きながら友人は「まあ思い出ってそんなもんだよなぁ」とわかっているのかいないのか微妙な返事をしてくれた。まあ、いいかと思い最寄駅を出る。そして僕は忘れていたことを思い出した。

「あ、東京ばな奈買い忘れた」

 今日はなんというか、忘れ物が多い1日だった。

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