チェックメイト~王は途方に暮れた~
「グレース!!お前は毎夜遊び歩き、男を侍らせているという証言が私の下に届いている!!」
「そんな!!何かの間違いです!!私は殿下だけを愛しています!」
「嘘つきめ!お前との婚約は破棄し、新たにこのアマンダ嬢と婚約する!」
グレースは私の婚約者で、アマンダはその不貞を最初に報告してくれた少女だった。それでも結局、私は政略の都合でグレースを側妃として迎えた。
「初夜は義務だ」
側妃となったグレースを私は手酷く抱いた。乙女だという偽装工作を仕掛けてきたが、小賢しい女だと罵ってやった。泣いていたが無視した。けれども数ヶ月するとグレースが懐妊したとの知らせがあった。
「一回限りで子を孕むものか。捨て置け」
そう言って私は更に無視を貫いた。
それから数年後、父の譲位により私は国王に即位することになった。
隣には愛する妻であり妃のアマンダがいて、可愛い子供達がいる。私は幸せの絶頂にいた。
しかし、そんな日々は続かなかった。即位式にやって来た他国の王子が、アマンダが私や王侯貴族に掛けた魅了魔法を呆気なく解呪したからだ。魅了魔法とは、言葉の通り人を魅了して支配するもの。人の精神を操る魔法は禁忌である。
王子はサッと手を振ると、目の前の霧が晴れたように視界が明るくなる。
「ネイサン様?」
恐る恐る私の名を呼ぶアマンダを見て驚いた。これまで愛しくて仕方が無かったアマンダが、取るに足らない平凡な女にしか見えなかったから。
私はすぐさま離宮へと向かった。
初夜を過ごしたきり一度も足を向けなかった場所へ人目も憚らず走る。
離宮の中には、幾人もの男達と酒を酌み交わすグレースがいた。
「グレース!!」
「あらやだ。いらしたの?」
「何をやっているのだ……」
「陛下の御望みの『ふしだらで淫売な悪女』らしい振る舞いですわ」
悪びれることも無く妖艶に微笑んでみせるグレースに、私は言葉が詰まる。
「……子供は?」
グレースの不貞は魅了魔法による虚偽の証言だった。初夜の日は真実グレースは乙女で、だから子の父親は私なのだ。
「さぁ?」
「どうして!私達の子供だろう!?」
「産んですぐに取り上げられました。生きてはいないでしょうね」
醜聞に塗れた側妃が産んだ子が生かされるとは思えない。
「……すまなかった」
「今更ですよ。誰も私の潔白を信じてはくれなかった」
彼女は笑っているが、その目の奥は笑ってはいない。
心が壊れてしまった妻を前に、私は途方に暮れるしかなかった。