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理想のブライダル、叶えます!  作者: 伊賀海栗
軽薄ナンパ師はお断りです!
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第7話 伯爵家の末娘


 仕事を終えて自宅に戻ると、すぐに夕食の時間となりました。

 テーブルには侯爵家へ嫁いだ姉を除いた家族一同がすでに集まっています。


「おお! 可愛いヴィヴィアンヌ、おかえり」

「おかえりなさい、ヴィー」


 グレーの髪をバックへ撫でつけたお父様も、チョコレート色の髪をサイドに緩く垂らしているお母様も、私を溺愛してくださいます。

 が、溺愛ぶりで言えばやはりこの人でしょうか。


「妹よ! 今日も一段と天使だな。なんだ、ちょっと疲れてないか、大丈夫かい?」


「元気溌剌ですわ、お兄様」


「ヴィーちゃん、無理はしないでね」


「ありがとうございます、お義姉様」


 そしてなぜか当然のように座らされるお誕生日席。ここは普通お父様の席では?

 が、それもいつものこと。侍従たちも眉ひとつ動かさず準備を進めてくださいます。


 まぁちょっと重いのが難点ですが、大きな愛情を注いでくださるのはとっても幸せなこと。中でもありがたいのが、私に結婚を強いないことでしょうか。


 父とそっくりな見た目のお兄様は私さえ絡まなければ冷静で真面目で堅実な次期当主です。

 華やかさこそ控え目ですが、淑女という言葉が服を着て歩いているような伯爵家のご令嬢を妻に迎え、ダルモア家の未来も安泰というもの。

 最近ではお義姉様のお腹に新たな命が宿ったらしいと発覚して、上を下への大騒ぎだったりするのです。


 さらに昨年、有力な侯爵家へひとつ上のお姉さまが嫁いだこともあって、当家の王城内での地位は盤石なものになりつつあります。

 ですから、私は気に入らない結婚はしなくていいとお考えのようなのです。おかげさまで、もうすぐ二十歳を迎えようというのに婚約さえしていなくても許されています。


 国内の貴族女性は平均十八歳くらいでご結婚されているんですけどね。ああ、これはブライダルショップ・アンヌ調べですけど。



「そういうお兄様やお父様のほうがずっと疲れているように見えますけれど」


 ワインで喉を潤しながら、左右に並ぶよく似た顔を見比べます。

 お二人とも目の下がどんよりしているようです。


「ここだけの話、王女殿下のお輿入れの件でちょっとな」

「悪い話じゃないんだが、行事が一つ増えたと思ってもらえればわかるだろう」

「ああ、それは大変ですね」


 ウルサラ王女殿下はお隣のデロア王国の王太子殿下と婚約なさっています。それに関連した催事となると国をあげて執り行うものでしょう。

 お輿入れの日取りもそう遠くはないと思うので、忙しさは推して知るべしというものですね。


 しかし。殿下が隣国へ嫁いでしまうのはちょっと心残りなのですよね。

 思わずため息がこぼれ落ちてしまいました。


「王女殿下のご結婚式なら、この先10年は貴族の挙式の定番スタイルになるっていうのに、拝見できなくて残念だわ」


 この手の愚痴を何度漏らしたかわかりません。

 私が、いえ、ダルモア家がもっと有力貴族であったなら隣国へもお招きいただいていたかもしれないのに!


 どんな結婚式になるのかしら。デロア王国では司祭様のもとまで夫婦二人の足で歩んでいくのが慣例と聞きます。ここエスパルキア王国でもそのスタイルが流行するのでしょうか。


「それがね、王太子殿下を招いて国内でも披露宴をしてからご出発されることになったんだ」


 お父様が困ったように眉を下げながら、お肉を口に放り込みました。


 えっ。


「えっ。……ええーっ!? それは本当ですかお父様っ!」


 前のめりになってお父様の右腕を掴みます。大きな音をたてて銀器が落ちてしまいましたが、それどころではありません。


 自国の文化とぶつかる可能性のあるお作法より、国内で行われた催事のほうが流行るに決まっています!

 なんとしても、その披露宴には参列しなければいけません。この目で見なくては!


「どれくらいの規模でやるか、詳細はまだ何も決まっていないんだよ、ヴィー。だから私たちが参列できるかはわからない」


 お兄様は私の心を読んだように窘めました。

 うう、そうですよね。中堅伯爵家の末娘が王女殿下の披露宴になんて、よほど高位の殿方と婚約しない限り……。婚約……。


「あ。婚約しようかしら」

「早まるんじゃあない、ヴィヴィアンヌ」


 やっぱり私の思考を読めるらしいお兄様が被せるように否定しました。むぅ。


「その準備のためかアーベル王子殿下も戻っていらしてるから王城中がピリピリしていてな」


「帝国との小競り合いで国境を回っていらしたんですよね?」


 そういえば今朝の新聞にも、殿下の凱旋の記事がありましたね。

 王子殿下は、帝国が今のように侵略政策をとる前には度々外遊などで訪れていたと記憶しています。昨日の友が今日の敵となるのはどんなお気持ちなんでしょう。



 お父様が深い溜め息をつきました。


 アーベル様は第二王子でありながら、王国騎士団長として戦場に自ら立って前線を引っ張っていらっしゃいます。

 怒らせると物理的に首が飛ぶだなんて噂がまことしやかに囁かれていたりして。


「他の王族と違って仰々しい近衛を連れて歩かないから、神出鬼没なんだよ」


 お兄様も泣きそうな顔になってしまいました。

 偉い人はいつもゾロゾロと侍従を連れていらっしゃるから、近づけばすぐにわかりますものね。特にお父様やお兄様の職場は人の出入りが多いので、もし王族がいらっしゃるなら護衛騎士の数は相当なものでしょう。


 そこに少人数でふらっとやって来たら確かに気づけないかもしれません。


「ふふ、私は王城勤務じゃなくて良かったです」


「ヴィーは王族の顔なんて誰も覚えてないもんな」


「一応、陛下の絵姿はちゃんと見てますよ。王太子殿下も……綺麗なブロンドだなーってくらいは。でもアーベル様は絵姿を残さないそうじゃないですか」


 王太子殿下のブロンドの髪はご両親のどちらとも違うので気になっていたのですよね。どうやら先王から継いだのでは、というお話でしたけど。


 アーベル様は戦線に立つせいかわかりませんが、ご自身のお写真や絵姿を残したがらないと聞いたことがあります。


「兄弟でも狂戦士のほうは真っ黒な御髪(おぐし)で余計に威圧感があるんだよな」


「へぇ……」


 真っ黒な髪といえば最近よく会う誰かさんが真っ先に思い出されますね。凄腕のナンパ師というべきでしょうか。

 でも彼は、戦場を駆けまわる狂戦士のイメージとは似ても似つかない、線の細い優男でした。同じ黒髪でもえらい違いです。


「とにかく、王女殿下の披露宴の件は詳細がわかったらまた言うから、大人しくしとくんだぞ」


「はぁい」


 実際、何もわからないうちはジタバタしても仕方ありません。

 噂だけなら私もツテはたくさんありますから、情報のアンテナを張り巡らせておきましょうか!


 まずは、王弟トルーノ様にご連絡しなければ。

 トルーノ様は領地でとても大きなお花の農場をお持ちなのです。王都からも近いですし、今回のご依頼の第一候補で考えています。


 ついでに王女殿下のお輿入れについて何かご存じではないか聞けるといいのですが!


 

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[良い点] あらー。 さっくり出し惜しみしていない!! あっさりネタバラシ!! これはアレですな?! 早目にいい感じになっていちゃいちゃターンをたっぷり見せてくれる系のヤツですな?! 強面男子の特盛砂…
[一言] 妹を溺愛するお兄様とヤンのデレなヒーロー役……うっ、頭が!
[良い点] これは期待age!
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