第12話 開示された真実①
ウルサラ王女殿下がご入室されてから、あっという間に準備されたお茶やお菓子の数々。
目にも美しくて美味しそうで良い香りなのですが……一人分多いような。背後に控える侍女たちが座るわけではもちろんないでしょうし。
ということは。
「すまない、遅くなったな」
ノックもせずにどかどかと音を立てて入って来たのは、黒髪に青い瞳の背の高い男性でした。
予想通り、ユジン様……。
いえ。ジョーディー王太子殿下、ですね。背後にはラシャード様も控えていらっしゃいます。
片手を上げて、腰を浮かせかけた私を制したジョーディー様は足早に部屋を横切って、空席となっていた椅子にどっかりと腰をおろします。
「下がれ」
殿下の鶴の一声で、侍従たちがあっという間に退室しました。
部屋に残されたのはいつもの四人です。
しかし隣国の王太子サマは随分とふてぶてしいですね! この城の人間を指先ひとつで動かして!
ふてぶてしいのは元からですけれど。
「さて、何から話すべきか……ラシャード、任せる」
この人いま自分で考えるの放棄しましたよね!?
ああもう……ウルサラ様は今すぐにでもご婚約を考えなおしたほうがいいと思います!
ラシャード様が小さく会釈をして一歩前に出られました。胸に抱えていた資料らしきものをパラパラとめくっていらっしゃいます。
「ヴィヴィアンヌ様。我々は、ヴィヴィアンヌ様について調べさせていただきました」
「はい。レディズコンパニオンを任命するからには隅々まで調べるべきです」
ラシャード様の言葉にはっきり頷いて肯定します。
全く間違っていません。
隅々まで調べた結果、私がヴィーであることもバレているかもしれませんね。いえ、バレていると考えたほうがよいでしょう。
「順番が違う」
「順番?」
ジョーディー様がクスリと笑って、続きを促すようにラシャード様へ目配せしました。
「ヴィヴィアンヌ様が、ブライダルプランナーのヴィー様と同一人物であるとわかったため、レディズコンパニオンとして城へお呼びしたのです」
「ヴィヴィアンヌを調べた結果ヴィーだったから呼んだ? 逆ではなく?」
混乱してしまいました。因果関係が予想とまるで違います。
レディズコンパニオンに任命するために調べ、ヴィヴィアンヌがヴィーであるとわかったという話なら理解ができます。
または、仕事を正式に依頼するにあたってヴィーを調べた結果、ヴィヴィアンヌだとわかったというのでも納得できます。
けれどなんの脈絡もなくヴィヴィアンヌを調べる意味がわかりません。
「正確には、銀髪の貴族の娘について調べたらヴィヴィアンヌとヴィーが芋づる式に出て来た、だな」
「わたくしがお花畑でとお願いしてしまったものだから。何か思うところがあったみたいなの」
「タイミングが良かったんだ。その前にエシャーレン邸で彼女に会っていて、いろいろとピンときた」
目の前に座る美しい男女が顔を見合わせて苦笑しました。
確かに、エシャーレン伯爵家のチョコレートパーティーでお会いしました。
私にとってはタイミング最悪だったわけですね。おふたりが突然いらっしゃったのでカツラの準備ができず銀髪のままでお会いしたのも、ジョーディー様の記憶を刺激したのかもしれません。
「そういえば殿下はずいぶんお城に長く滞在されてますね」
ユジン様がジョーディー王太子殿下だというなら、隣国からわざわざこちらにいらしているということになりますよね。
最初にエシャーレン邸でお会いした日から数えると半月以上になるでしょうか。
「ああ、婚姻の儀を終えるまでは遠征はしないことにしたんだ。いま死ぬわけにもいかないからな」
「遠征……?」
今現在の状態を遠征と呼ばないなら何を遠征と言うのでしょうか。
私が首を傾げると、お三方がそれぞれに顔を見合わせました。
そのうち、声を揃えて「あ」と呟きます。なんでしょう、私だけ置いてきぼりにして何か思いついたようです。
「おまえ、まさか俺をまだジョジーだと思ってるのか?」
黒髪を揺らしながらジョーディー様が首を傾げます。ジョーディー様……じゃないんですか??
え、待って、どういうこと?
私の反応を見ながら、耐えきれなくなったのかジョーディー様はお腹を抱えて笑いだしました。
「お兄様、笑い過ぎです。失礼ですよ」
お兄様、え?
あ! 黒髪で最近ずっと城に滞在している王子って、もしかして!
腹を抱える人と、笑いを噛み殺す人との背後で、ラシャード様はこちらに背を向けてしまいました。
でも、肩が上下に揺れているの気づいていますからね!
「アーベル……王子殿下?」
「王家に仕える忠実な貴族なら、一目で気づいてもらいたいものだがな」
「なっ――。そもそも写真一枚すらないじゃないですか。それにもし絵姿や写真を見てたとしても誰も気づきませんよ、こんな失礼な方が王子殿下だなんて!」
もう! 失礼しちゃいますよね。みんなでクスクス笑って、いかに高貴な方々であっても腹立たしいったらないです。ついつい暴言も飛び出すってものです。
必死に抗議する私の顔は真っ赤になっているかも。
騙されていたことへの苛立ちは別にありません。お立場を考えれば仕方ないと言えましょう。
それでも怒った振りをして誤魔化したいのは、いつまでも気づかなかったことへの恥ずかしさでしょうか? それとも、心のどこかで感じている謎の安堵感でしょうか?
結局、やんごとないお立場のお三方が笑いを我慢できるようになるまでに、私は目の前のお茶をすっかり飲み干してしまいました。
「まぁそれで本題はここからなんだ。ラシャード」
「はい。国家間の婚姻は関係する全ての人間が賛成するわけではありません。ウルサラ王女殿下のご結婚ももちろん例外ではない。婚姻の儀は目の前だというのにまだ、白紙に戻さんと活動する輩がいます。
そして妨害工作として考えられる中には、ヴィー様のお命を狙う者もあるはずなのです」
「……はい? 私を殺しても、殿下の披露宴は必ず成功させますけど?」
ヴィー様をなめてもらっちゃ困ります。一度手を付けたお仕事、何があっても絶対やり遂げてみせます。マリーンはそれができる子なのです。
反対派とやらに私の仕事への情熱を侮辱された気がして腹が立ちますね。
「そうではないのです、ヴィー様。命を脅かされること自体がもう問題なのです」
「喜べ、奴らはおまえをド派手に殺すだろう。そしてサラの結婚にはケチがついたと言ってまわり、婚姻の儀を先延ばしにする」
ははーん、なるほど。
少なくとも普通ならプランナーが突然亡くなれば混乱するし、予定通りに催事なんて執り行えないですものね。普通なら、ですけれど。
さらに、ケチがついたとか神が認めていないとか好き勝手に言って催事を延期しつつ、婚約の撤回に向けて次の手を打つというわけだ。
不慮の事故で命を落とすのは仕方ないかと思いますけれど、誰かの野望のために犠牲になるのはイヤですね。
しかも、自分の仕事の途中でなんて! 絶対死んでなんてやりませんとも、ええ。




