第68話 作戦前日
作戦前日のもろもろ・・・
(一人は寂しいな・・・)
阿久津は格納庫から一人Cessna172を出しながら思っていた。今日は、5か所の瘴気発生個所に向かう各隊に決行前日であることを伝えるための飛行をしなければならない。にも拘わらず、波高は、瘴気発生装置の確認といって討伐基地に行ったままであった。
いつものように、出発前の点検を行い、燃料が満タンであることを確認して、一人Cessna172に乗り込み、エンジンをかける。当然、周囲には誰もいない。
朝二(午前10時)に離陸、特に回る順番は決まっていなかったので、まずは南西に向かった。反時計周りで飛行する予定である。特に理由はない、なんとなく最初に機首が南西に向いてしまったからである。迷子にならないようにVORを中央基地にセットし、アウトバンドで飛行する。大山脈に内側では特にVOR電波を遮るものもないらしく、非常識なほど距離であるが、全て受信できることを発見していた。
無線は特にセットしていなかったが、前回、波高と連絡を取っていたままにしていたのだが、
しばらくすると
『おーい 聞こえるか』
122.6MHzにセットした無線機から波高の声が聞こえてきた。
『はい聞こえます。これから、南西から反時計回りに飛行します』
『了解。こっちは討伐基地上空9500ftにしばらくはいるから、異常があったら伝えてください』
今日の飛行コースの説明に上空待機しているとの波高であった。
『あの~。明日もそうするのですか』
『そうだよ。5か所からブイを設置した連絡である発煙筒が確認できたら、無線で連絡してね。多分、ここからでは、5か所全ては見えないと思うから・・・』
『了解・・・』
・・・
『確か、作戦決行日は明日だったよな・・・』
『そのはずですよ』
ローマンの南西、大山脈を少し登ったところに陣を作っているセインは、そばにいたコルノーと共に空を見上げていた。
『予定では、空馬車が飛んでくるんだよな』
『そのはずですね』
そう、作戦前日に上空を飛んでくるはずのCessna172を探していたのだった。
『魔物もちょくちょくやってきますので、早く決行したいですね♪』
陣地には、魔物が断続的に襲って来ていた。アンクス兵は、これを見事に撃退し、結果として連日、宴のような食事になっていた。そう、食料事情は良かったのである。ただ、分隊長の話によると、魔物がだんだん強くなっているらしい。
『空馬車発見!!』
セインとロックの隣にやってきていたコルノーが叫んだ。彼が指さす方向には、間違いなくCessna172が飛んでいた。
『予定通りですね』
コルノーはそういうと、何か思い出したのか、陣地に戻っていった。
『陣地に戻って明日に備えよう』
『そうですね♪』
セインはコルノーの戻っていった後を追うように陣に戻った。
・・・
『空馬車は見えないか?』
ローマンの北西、ロンジンの国境近く(といっても大山脈のため明確になっていない)に陣を張り、作戦決行日を待っているシャールカとアンクス兵たちであった。王都を出発するときは護衛をしてくれたローマン兵だったが、大山脈を上り始めた途端、足手まといになってしまい、陣地にはアンクス兵しかいない。ローマン兵は物資を背中に背負って陣地までやってくることになっているが、1回来たのち、2回目はまだ到着しない。
『ローマン兵はあてにしていないけど・・・』
そう思いながら、自国の兵士の不甲斐なさが悲しかった。
幸い、水の湧き出るところが近くにあったので、水には困っていない。そして・・・
『オーク5頭接近』
『石でもあてておいて』
アンクス兵の報告に、ぞんざいに回答するシャールカ。陣地は少し高台になっているため、オーク程度であれば、陣から大きめの石でも投げれば仕留められたのである。
(いい場所を見つけた)
この場所は、Cessna172で上空を見ていた(見させられた)ときに見つけていたのであった。
空を見飽きたので、オークの様子を見ようと思い始めたそのとき、東の空から飛んでくる空馬車・・・Cessna172を発見した。
『予定通りだな』
シャールカはそういうと陣地に戻っていった。
『今日は、オーク肉で宴会だ!!』
それを聞いたアンクス兵は事情を察したのか、
『おお~!!』
を叫ぶと、先ほど仕留めたオークを解体し始めた。
・・・
『空に何かいます』
アイシア村跡の拠点にいた見張りの一人が叫んだ。瓦礫でちょっとした高台を作ってそこに立って四方を見張っているが、時たま空も確認するようにプレーンに言われていていたため、なんとなく空を見たときに発見したのだった。地下からプレーンが慌てて出てくる。見張りが指さす方向を見ると、
(間違いない。あの狭苦しい空馬車だ)
プレーンはボンネヒルからカーゴに乗って移動したこともあって、あまりCessna172を快適だと思っていなかった。JA4169の方は普通に座っていたので快適だったのだが・・・。
『間違いない。作戦は明日だ!!』
そう叫ぶと周囲を見渡す。Cessna172はアイシア村跡を3周すると南に向かって飛んで行ってしまった。
『あれが合図なのですか?』
分隊長が寄ってきた。
『そうだ。作戦の前日に飛んでくることになっていたからね』
そういうと、地下室に向かって歩き出す。
『今日は宴だ。明日は作戦決行だ!!』
プレーンがそう叫ぶと、
『おお~!!』
20名のアンクス兵が一斉叫んだ。
・・・
『セインは大丈夫だろうか・・・♪』
ローマンの北東の大山脈に陣を設置したロックはつぶやいていた。とりあえず、魔物が弱そうな南西にしたので大丈夫だと思うが・・・。
『ミツツノが3頭突進してきます』
アンクス兵が叫ぶ。
『罠発動♪』
ロックがそういうと、アンクス兵がロープを切る。すると、大きな岩が数個、突進してきたミツツノめがけて飛んで行った。そう、波高が持っていたけん銃を見て、木に弾性のある蔓を見つけ、巨大パチンコのようなものを作っていたのである。ロープを切ると発射するようにしていた。
ミツツノは飛んできた岩にぶつかり、その岩と共に飛んで行ってしまった・・・。
『ロックさん。すごいですよ、3頭ともどっかいっちゃいました』
ロックの近くで見ていてアンクス兵がロックに話掛けてきた。
『うまくいったね♪』
『そうでもないです』
意外な返事がアンクス兵から帰ってきた。
『え?』
『ミツツノの肉もどっか行っちゃいましたよ・・・』
今日の宴(食事)になるはずだったミツツノは回収不能の彼方に消えてしまったのであった。
北西は大山脈に入ってからの道のりが厳しく、食料も最小限しか持ってこれなかった。途中で仕留めた魔物が主食になっていたのだった。
『今日は、ミツツノの肉かと思ったのに・・・』
アンクス兵が呟いていたとのとき
『おーい!!』
下の方から声が聞こえた。よく見ると、ローマン兵たちである。どうやら、途中で狩りをしていたらしい。何か大勢で、巨大な塊を担いでいる。
『オークを持ってきたぞ~!!』
アンクス兵たちが一斉に声の方向に向く。皆が、その姿を確認したとき
『おお~!!』
アンクス兵から歓声が聞こえてきた。
『これでミツツノのことは忘れてくれそう♪』
タイミングよくやってきたローマン兵に感謝するロックであった。
アンクス兵の見張りに注意しようとしたとき、上空に空馬車を見つけた。
(空馬車みつけ♪)
予定通りに飛んできたCessna172を見たロックは空馬車に手を振った。
『今日は、オーク肉の宴だ♪』
そういうと、オーク肉で湧く陣地に戻っていった。
・・・
『今日は空馬車が現れるはず・・・』
西の空を見ながらシルダはつぶやいた。
大山脈の南東に陣を作ったシルダであったが、連日、魔物が襲ってくるのに疲れていた。
『南側でこんなに襲ってくるのであれば、北側が大変だろうな・・・』
シャールカやロックの状況を知らないシルダは、北側のことを心配していた。実際には、南側の2ヶ所の方が多く発生していたのだが・・・。ローマン兵が補給物資を運んでくれるので、物資には困っていない。ただ、ローマン兵は魔物退治には役に立たなかった。南側にはオークも滅多に現れなかったせいか、兵のレベルが低すぎた。
(ローマン兵では、瘴気発生個所にはたどりつけなかっただろうな・・・)
ビスマルク親衛隊の戦力をもってしても、オークやオーガへの対処は厳しい。ローマン兵はオークを見るなり逃げ出す始末・・・。
陣の手前につくった落とし穴に魔物が落ちてくれるので、難なく討伐できているが、何時までも持つとは思えない・・・。
(本当に空馬車はくるのか・・・)と思って西の空を見上げていたとき、北の空からやってきて西に旋回するCessna172を発見した。
(空馬車みつけ・・・そっか、北東側から回ってきたのか)
シルダには、空馬車の翼が左右に振れたような気がした。
(あいつは鳥だったっけ?)
シルダは陣に向き直って
『今日は、ありったけの肉を使って宴をするぞ~!!』
そういうと、陣に向かって走っていった。




