第60話 準備が勝手に・・・
インガスに残った分隊長は、ただ、呆然としていた。
ギルドマスターや宿の従業員が協力してくれると言っていたが、まさかこれほどとは・・・。
水の樽、オークの干し肉、炊き出し用の調理道具に野菜、小麦粉・・・。何台もの台車に満載の荷物が何も言わないのに集まっていた。
『分隊長はいるか!!』
宿に入るなり大声を出したのは、ギルドマスターであった。
その声を聴いて、慌てて分隊長は部屋を飛び出て、ギルドマスターのところに駆けて行った。
『おう。いたな。明日が出発だよな』
『はい、明日出発します』
『台車はボンネヒルまでは冒険者に運ばせる。さすがに、洞窟の中までは無理なので、そこから先はお前たちが運ぶことになる。俺の記憶では、あの洞窟では魔物に出会わなかったから大丈夫だろう』
ギルドマスターは、やや興奮気味であった。彼にとって、思うところがあるのだろう・・・。
『プレーンさんたちが、洞窟を通ってボンネヒルに来てくれることになっていますので・・・』
『わかった。ちなみに俺も行くからな!!』
((ええ~!!))
最後のギルドマスターの発言には、周囲にいる他の宿泊客まで驚いていた。
『あの・・・お仕事は・・・』
分隊長はや心配になって話してみると、
『大丈夫だ。職員に留守は任せてある』
『危険なのですよ』
『わかっている』
・・・
少し時間を遡って・・・。
プレーンと10名の兵士は、徒歩でアイシア村のあったところ目指していた。
『プレーンさんはアイシア村を知っているので・・・』
兵士の一人がプレーンの脇にやってきて話掛けてきた。
『ああ。一度アイシア村跡に行ってきたし、ボンネヒルにつながる洞窟も通ってきた』
『ご存知だったのですね』
兵士は少し安心した。魔物剣の威力はインガスに来る前に見ているので心配はしていない。だが、アイシア村からボンネヒルにつながる洞窟は本当にあるのか不安であった。
『分隊長は、ボンネヒルの待ち合わせ場所がわかるのでしょうか?』
兵士はさらに、疑問をプレーンに投げる。
『だよね。説明はしたけど、たぶんわからないと思うので、ちょっと情報をギルドに流してきておいた。今頃・・・』
聞いていた兵士は、慌てて聞き返す。
『それって・・・』
『今頃、台車に満載の荷物に驚いているはずだよ』
そういうとプレーンは少し小走りに先に行き、兵士に振り返って
『もうすぐ、アイシアの村跡に到着する。以前の記憶では、この先少し行くと、魔物に襲われるはずだ』
プレーンの言葉に10名の兵士に緊張が走る。あからさまに顔が強張っている。何せ、1万人の兵士がほぼ壊滅(全滅)したところなのだから・・・。
『背後から襲われる可能性もあるので、そのつもりで警戒するように・・・』
プレーンは指示に頷く10名の兵士。ここまで、ほとんど魔物に出会わず、ピクニック同然の状態だっただけに心配らしい。
・・・
プレーンたちが警戒するなか、アイシア村の入り口付近まで来たところで、それは発生した。
『後ろから、オークの集団が接近してきます』
『前方から、オーガが集団でやってきます』
左右を見ていた兵士から、同時に
『ミツツノの集団がやってきます』
(お出ましか・・・待ち伏せしているとは、誰か統率者がいるようにしか思えないな・・・)
プレーンは四方から襲ってくる魔物をどうするか考えていたが、
『全員、私に続け。一気に洞窟の入り口まで移動する!!』
そういうと、前方にいたオーガに向かって魔物剣を振る。
魔物の接近に反応して、既に光り始めていた魔物剣から三日月上の光の斬撃が突進してくるオーガに向けて飛んでいく。光にあたったオーガはそのまま倒れていった。
倒れたオーガを踏み越えて進んでいくと、以前見つけた地下への入り口をみつけることが出来た。幸い、先日見つけた状態から特に変わっていない。
『あそこに地下室がある。そこに入れ!!』
そういうと、プレーンは地下の入り口おいていた板をどかす。
・・・
『え!』
地下室への板をどかした途端、中からデザートの集団が這い出してきた。幸い、兵士たちは犠牲になる前に気が付いたので、入り口を囲み、出てくるデザードを倒していく。そうしているうちに、オークとミツツノが混ざった集団が迫ってくる。プレーンは再び、魔物剣を集団に向かって振ると、今度は、かなり広範囲の三日月上の斬撃が魔物に向かって飛んで行った。
・・・
1時間後、周辺から襲ってくる魔物はいなくなった。地下室にいたデザードも、地上を掃討したプレーンが地下室に斬撃を放ち、全滅させていた。兵士は、慌てて、デザードを地下室から外に出し、オーク、ミツツノと共に解体し始めた。
『それにしても、凄い量だ。インガスで売ったらすごい金額になるんだがな・・・』
作業をしながら兵士の一人がつぶやいた。当然、食べきれないので、解体が終わると、仮説の干場を作り、干し肉にしようとしていた。プレーンは気が付かれないように、数匹のオークとミツツノをアイテムボックスに収納した。
(とりあえず、食料の心配はない)
続いて、周囲の瓦礫を積み上げ、陣地を作る。瓦礫は多数あったので、地下室入り口を囲うように陣地を作ることが出来た。
(これで、しばらくは大丈夫だろう・・・)
地下室を念入りに調べたが、洞窟以外につながっているところはなく、デザードがどこから来たのかはわからなかった。念のため、洞窟にも陣地を作り、地下室にいきなり魔物が浸入して来ないようにはしたが・・・
『デザードはどこから来たのか分らない。なので、地下室も警戒が必要だ』
プレーンそういうと、見張りの2名を外に残し、地下室に皆を集めた。
『これから、洞窟を通って、ボンネヒルまで行ってくる。魔物が襲ってきたら、無理をしないで、この地下室に隠れてるいるように・・・』
プレーンはそういってから、兵士の様子を見る。あからさまに不安という絵にかいたような顔をした8名がそこにいた。
『地下室を支えきれなかったら・・・』
兵士の一人がいう。
『その時は、洞窟を移動してボンネヒルに向かってください』
プレーンがそういうと、兵士たちはやっとほっとしたようだった。
不思議なことに、この地下室に元々あったらしい、食料の一部はそのままであった。あまりお勧めできないが、いざというときに籠城用食料にはなるだろう・・・。
結局、その日は残る兵士を落ち着かせる必要もあって、プレーンを含め11名で焼肉大会を開いた後、就寝した。見張りは一晩中立てていたが、魔物の襲撃はなく、平和な朝を迎えていた。
・・・
翌朝、
『戻ってくるまでよろしくお願いいたします』
とプレーンは10名に告げ、一人洞窟に向かった。本当は数人連れていきたかったが、これ以上少なくなると、兵が不安になると考え、ボンネヒルには一人で向かうことにした。
(確か3日掛かるんだよな・・・)
洞窟は、途中から討伐基地の通路そっくりになっていた。
(どこかに転送装置があったりして・・・)
などと想像しながらプレーンは歩いていく。前回は気が付かなかったが、討伐基地に行った経験から、壁の様子を観察していると、何やら、標識とボタンらしきものがある。
何か文字が書いてあるのだか、プレーンにはわからない文字だった。
そして、床には円形の謎の紋様が書かれており、何かボタンと関連がありそうだった。
(試しに押してみるか・・・)
円形の紋様に上に立ったプレーンは壁にあったボタンを押た。すると、床の紋様から光の柱が発生し、プレーンを包んだと思ったとたん、次の瞬間、違う場所に移動していた。
いや、たぶん移動していたというのが正しい。なんとなく違う場所のような感じがするからだ。見た目には、床に円形の紋様、壁にボタンと同じ配置で存在しているが、床の微妙な色合いが違うような気がして、ここが違う場所のように思えた。
(よくわからないが、とにかく進んでみよう・・・)
プレーンはそのまま進んでいくと、しばらくして前方に見覚えのある壁が現れた。壁に近づくと、それは自動で動き出し、光がプレーンを指してきた。
(まぶしい・・・)
しばらくして目が慣れると、プレーンはボンネヒルについていたことに気が付いた。
3日掛かるはずであったが、まだ歩き出して1時間も経っていない。
外に出てみると、台車の列がこちらに向かって歩いているのが見えた。




