第5話 王宮にて
セントはいらいらしていた。
『セインは出発したか?』
玉座・・・といっても王の執務室にある椅子である。謁見の間にある煌びやかなものではない、ただの椅子に座り込み、呼び出したミグに問いただす。
『それほど気になるのであれば、見送られればよかったのでは?』
ミグは長年の付き合いか20歳も年下の国王に対して、公の席以外では友達のように話している。これは、セントが国王になるときにミグと約束したものだ。もっとも、気安く話す相手がほしかったセントの申し出によるのだったというのだが・・・長い年月の間に、そんなことはどうでもよくなっているらしい・・・。
『セインは冒険者の姿で、王子としてではなく、冒険者としてハイムの遺跡にいってもらうのだ。王子だと悟られないためにも、王族が見送るわけにはいかないのだ!!』
『ですが、冒険者には危険が付きまといます。最悪、これが最後のお別れに・・・』
『何を言っているのだ!!そんなことはない。あってはならない。あってほしくない・・・』
玉座という名の椅子に座っている姿は、50歳にしてただの老人の姿であった。やっとできた、たった一人の王子がかわいくないはずがない。だが、王子としてハイムに派遣することはできない状況である上、王子として派遣できない理由があった。
『ミグ。実はな、異世界からの召喚を行えるのは、冒険者として認められた我が王家の若者でなければならないと記されているのだ』
『え、セイン様はそのことをご存じで・・・』
『いや、本人には伝えていない』
『なぜ?』
『遺跡内でのクエストを達成したとき、はじめて召喚が可能になるからだ!』
『まさか・・・本人が事前に知っていると達成できないクエストだとか・・・』
『そうだ』
『ロックに限って、気が付くはずもないので大丈夫だと思っている』
『セイン様が護衛を断り、ロックと共に冒険者として向かうというのも・・・』
『セインのことだから、護衛は断ると思ったのだ。であれば、冒険者として出かけるのは、自然の流れ・・・しかし、セインに冒険者ができるかが問題だ・・・』
『孫のロックを共につけさせました。あいつであれば修行に出ていたこともあり、大丈夫かと・・・』
ミグは内心ほっとした。事情を知らされていなかったが、ロックを付け、冒険者登録するということを昨夜セインに話していてよかったと・・・。セインを冒険者にしなければならないのに、そのことを本人に伝えなかったセントに呆れながら・・・。
『ミグ。ロックを信用してもよいよな?』
『はい。少々、能天気ですが・・・』
『セインよ。何とか無事ハイム村にたどり着き、異世界からの召喚をおこなうのだ!!』
セントはぶつぶつと念仏のように自分に言い聞かせていた。。。
・・・
『ダメです。国王のご命令です』
『は?父が・・・なんで、セインが危険な旅に出るのに、見送ることもできないのですか!!』
王宮の自室から出ようとしたところ、近衛兵に止められたのは、2人の王女であるミントとエレスであった。
『父上のところに連れて行きなさい!!』
ミントとエレスが近衛兵に命ずる。近衛兵としても、王女に楯突くわけにもいかず、国王の部屋に2人の王女を先導した。むろん、中間の近衛兵が王女の後ろにも付き、逃亡されないように・・・。
『これじゃ、護衛というより囚人のよう・・・』
ミントから不満が漏れた・・・。
・・・
『なんで、セインを見送ることもできないのですか~!!』
国王の執務室に入るなり、ミントが叫ぶ。隣でエレスも頬を作らませている。
『セインが王子であることを伏せるためだ』
セントは椅子に座ったまま答える。だが、声が小さかったため、ミントとエレスには聞こえてなかったらしい・・・。
『なんて言ったのですが。ちゃんと説明してください!!』
ミントとエレスが、執務室の机を同時に叩いた。
その勢いに圧倒されたのか、セントは椅子から飛び立つように立った。
『だから・・・セインが王子だとばれると危険だろうが・・・』
『王子でなくても危険です!!』
2人の王女の声が揃った。
セントの脇にいたミグも、王女の勢いに圧倒されながらも、
『陛下のセイン様への配慮ですから・・・』
2人の王女が同時にミグを睨む。
(2人揃って、母親似か・・・)
セントとミグは、既に他界された王妃の性格を思い出していた・・・。
『もう出発されてますので・・・』
実際は、どこにいるのかミグは把握していなかったが、2人の王女にあきらめさせるための方便であった。
『既に城外ということですか・・・』
『はい』
2人の王女は王宮からほとんど出たことがなかったので、王宮の外のことをほとんど知らなかった。ゆえに、出て行ってしまった弟のセインを追うのを諦めたのである。
(たしか、セインも王宮からほとんど出たことがなかったはず・・・)
2人の王女は不安に思いながらも、王宮の外には出ようとしなかった。