第4話 出発の朝
セインはいつも通り起き、いつも通り朝食を食べた。朝食後、自分の部屋に戻り、服を着替える。昨日、ミグが持ってきた“冒険者に似合う服”というものに・・・。
着替えたのち、鏡にその姿を映してみたとき、
(もう王子ではない!!)
覚悟を決めざるを得なかった。
来ているものがわからないようにマントをしていたので、王宮をすれ違うものは、誰一人その姿の異常に気が付かず、なんと、誰にも見送られることもなく王宮を出発した。
(誰も見送ってくれないとは・・・)
寂しさを感じたものの、王命であるハイム村の遺跡を目指さなけなければならない。昨日、ミグは、
『明日の朝、王都の北門で必要な装備を用意してロックに待たせておきます』
と言っていたので、北門に行ってみる。今までの生活では、自分でお金を払ったこともないので、金貨1枚持っていない・・・(ロックがいなかったらどうしよう)。
・・・
北門は人が少なかった。この王都には、東西南北の4ヶ所に門がある。人の高さの3倍はあるだろう壁が王都を囲っている。王都には川が流れていないが、井戸を掘ると数mで水が湧いてくるので水には困らない。いや今までは困らなかった。この先はわからない・・・。
『セイン様~!!』
門の近くに生えている木の付近から声がする。その方向に顔を向けると、そこには、ショートソードに木でできた盾を持った若者、ロックがいた。
『こっちに来てください~!!』
と軽~い感じで呼ばれる。仕方がないので、ロックの方に歩いていく。
『ミグのじいさんがセイン様と一緒に、冒険者になって出かけてこいと言われたので、いろいろもって来ました~!!』
(こいつやけに軽くないか、こんなやつで大丈夫か・・・)
『ロック、セインです。これからよろしく。』
『セイン様、まずは剣を装備してください。』
有無を言わずに、荷物の中から出した剣を渡される。ショートソードと言われるものらしい・・・。
細かい説明は後で、まずは冒険者ギルドで登録をしましょう。
『で、どこにギルドはあるの?』
セインは冒険者ギルドの場所すら知らなかった。
・・・
冒険者ギルドは王都の北側、すなわち北門のすぐ近くにあった。空き家になっていた建物を急遽冒険者ギルドにしたので、看板すらない・・・。
ロックが入り口の扉を開ける。音でもなるのかと思ったが、特になし。
(こういうのって、なんか鳴るようなものを付けているんじゃないのか・・・?)
ロックに続いて、セインも中に入る。
中は元々居酒屋だったらしく、テーブルとカウンターがある。そして、厨房の脇に、いかにも急に作ったと言わんばかりの受付カウンターがあった。
『冒険者の登録はこちらですか』
セインは受付カウンターに座っていた女性職員と思われる人物に話しかけてみた。
『はい。こちらで受け付けさせていただきます。この用紙に記入してください。』
どうやら、この女性は、セインが王子であることを知らないらしい・・・。
渡された用紙には、名前と、種別、所属国という3つの記入欄があった。
『あのう・・・種別というのはなにを書けば・・・』
セインは受付の女性に聞いてみると、
『剣士とか弓士とか盾士とかを記入してください。』
『貴族とか平民とかは・・・』
脇からロックが口をはさむ。
『冒険者ギルドでは、貴族も平民も関係ありません。なので、記入は不要です。』
どうやら貴族の特権はないらしい。
セイン、ロックそれぞれ記入すると、そろって提出。
『パーティーを組まれるのですか?』
受付の女性が確認してきたので、
『そのつもりだ』
『その予定です』
とそれぞれ答えると、
『では、パーティー登録をしてください。』
と言われ、もう1枚用紙を渡される。
ここには、パーティー名と、所属ギルド名、メンバーを書くようになっていた。
・・・
『実は、まだ準備ができていなくって・・・』
と受付の女性はいう。あとで、ギルドの台帳に記入していくらしい。
『今から登録カードを作るのでしばらくお待ちください。』
受付の女性は建物の奥の方に消えていった。
『大丈夫なんですかね~。』
相変わらずロックが軽~く言ってくる。
『セイン様と登録が終わったら、早速出発しましょう!!』
『なあ、そのセイン様というのはやめないか?』
『じゃなんて言えば・・・?』
『セインでいいい』
『でも、それではミグのじいさんに私が殺されてしまいますよ~。』
『これからは、貴族でもないただの冒険者だ。様は要らない。ミグに聞こえるわけがないだろうが・・・。』
『では、そうさせていただきます。ミグのじいさんに見つかったときは助けてくださいよ』
『わかった。約束する』
『ところで、旅に必要な資金は持っているか・・・』
セインがロックに確認すると、ロックは背中に背負った袋から何やら取り出した。
『ミグのじいさんから、これを貰ってます』
100枚程度の金貨と思わる袋であった。
『これはどれくらいの価値なのだ?』
セインがロックに尋ねると、
『まさか、お金を見たことがない・・・ええええええええええええ~!!』
ロックが叫ぶので、冒険者ギルドにいた全員がこちらを見る。
『馬鹿、叫ぶんじゃない!』
セインは慌てて周囲に、なんでもないと言わんばかりに手を振った。
・・・
しばらくすると、受付の女性が戻ってきた。
『登録が終わりました。冒険者カードになります』
受付の女性が何やら軽い石板のようなカードをセインとロックに渡す。
2人はそれぞれ渡されたカードを見て、登録内容と一致していることを確認した。
『では、ご武運をお祈りしています。』
『魔物の買取もここで受け付けますので・・・』
『冒険者ギルドで買い取れる魔物以外は、商人ギルドで買い取ってもらえるものもあるそうです』
サービスのつもりだろう、いろいろ受付の女性が言ってくる。2人は軽く会釈をしてから、カウンターの近くの空テーブルに2人は座る。
『ハイムの村に行く道だが・・・』
『ここから3日歩いて行った先にブリトンの街があります。ここを目指しましょう。ここにも、冒険者ギルドがあるそうです』
ロックの説明に首を縦に振るセイン。
『魔物が出れば、討伐してブリトンの冒険者ギルドに持ち込みましょう。それ以外にも、食料になりそうな獲物を見つけて、余れば、ブリトンの商人ギルドに持っていきましょう・・・。』
『解った、途中は野宿だな』
セインが確認する。
『そうなりますね』
『ただし、ローマン王国は他国に比べ、魔物が少ないので、木の上にでもいれば大丈夫だと思いますよ~。』
あまりの軽さにちょっと心配になるセインだが、ロックはお構いなしに、
『街を出てから、荷物の説明はしますので・・・』
『俺は何か持っていかなくてよいのか?』
セインが確認する。
『それも含めて、街の外で説明します』
何故か、声が小さくなるロックであった・・・。