第45話 不整地着陸
JA4169のランナップを阿久津に依頼して、波高はあるものを探していた。
『何かないかな~』
この発言を聞いたセインが
『何を探しているのでしょうか?』
『燃料を入れておくのにちょうどいい入れ物をね!』
波高が返す。
『あった!!』
波高が何か取っ手のついた缶を両脇に持っている。波高は中を確認して問題ないこととい判断し、格納庫に設置されているAVGAS100を缶に入れ始める。
『なにやってんの~?』
ロックが覗き込む。危ないので、阿久津と波高以外はAVGAS100に触らないように言っているため、触ってはこない。
『帰りの燃料の予備だよ』
波高はそういうと、2缶ともAVGAS100を満タンにしてJA4169の貨物室に置く。
波高が探していた携行燃料缶。本来AVGAS100を入れるものではないが、ガソリンを持って歩くためのものである。行った先で給油が出来ないので、帰りの分の足しに持っていく。
『ねえ、これで、どれくらい飛べるの?』
シャールカが機体に積んだ缶を指さして波高の方を見ている。
『うーん。40分くらい』
『足りるの?』
『多分』
アンクス ペイまでは2時間30分程度と予想している。そのため、JA4169ならば、ギリギリ往復できるとみているのだが、予備として持っていき、アンクスペイで燃料タンクに入れる予定である。
『恐らく、明日には戻ってくると思うので、明日また会いましょう』
波高はセインを連れてJA4169に乗り込む。
『阿久津はハイム村に1泊してくるといいよ』
そう波高は言い残すとエンジンをスタートさせて、滑走路の南端向かっていった。
・・・
パワーをMaxにして離陸する。2人しかいないので上昇が早い。
隣でセインが何か言いたそうな顔をして波高を見ている
『セイン、何か気になることでもあるのか?』
波高の問いに、
『ビスマルクが滑走路を用意してくれていなかったらどうするの?』
セインは真剣である。
『あっはは。あそこは草原だから、そのまま着陸するよ』
波高は、あっけなく答えた。
『でも、整備してもらっておいた方が安全だからね』
『草原でも降りることが出来るのですか?』
『もちろん!!』
波高は、阿蘇場外着陸場での離発着経験があった。そのためとっても気楽である。
・・・
大山脈を超えるため、一気に9000ftまで上昇してしてから水平飛行に入る。街道に沿ってと言いたのだが、街道はこの高度だとよくわからない。大山脈の近くに、城壁に囲われた街が見える。おそらくキニシアだろう。あれを右に見ながらまずはアンクス王国を目指す・・・。
『それにしてもやることがないですね』
すっかり慣れたセインがつぶやいた。
波高はVORを中央基地に合わせ、キニシアに向けて飛んでいる。VORのアウトバンドで飛行しているわけだが、大体120°といったくらいである。何故か、上空はほぼ無風なので、風の影響は考慮しなくてよいようだ。
キシニアで090に変針してそのまま進んでいく。本当は、中央基地からアンクス ペイへの方位が解ればよいのだが、この世界の地図の精度では甚だ怪しいというより、全くあてにならない。VORの電波も、大山脈の影響でアンクス王国に入ってしばらくすると入らなくなった。
『何か、赤いものが出てきたが・・・』
セインが心配そうにHSIを覗き込んだ。
『中央基地の電波が拾えなくなっただけ』
波高はあっけなくいう。
『位置は解るのですか?』
『前をみろ』
セインの問いに波高は前を指さす。そう、前方には、アンクス ペイの街が見えていた。
距離はあるが、迷うことはない状態である。VFR飛行の基本である、地上の目標物がちゃんと見えている。
『視程200kmか・・・』
地球ではおおよそなさそうな視程に何とも言えない気持ちになる。それだけ、地球の空気が汚れているということだ。雲もほとんどない絶好の飛行日和であることもだが・・・。風がほとんど吹いていない状態でのこの視程はやはり地球ではないだろう・・・。
・・・
アンクス ペイの西にできた滑走路脇にある小屋では、見張りの兵士が暇を持て余していた。
((いったいいつ来るのかわからんのに・・・))
そのとき、上空から聞いたこともない大きな音がした。慌てて小屋の外に出る。空を見上げると、大きな白っぽい鳥のようなものが通過していった。
『来た?!』
あれが、おそらく空飛ぶ馬車だろう。兵士は、滑走路に飛び出していきたい気持ちを抑えていた。それはシルダから、
『ウェブハイトたちが空からやってきたら、危ないから小屋から離れるな。大きな音がしなくなったら近づけ!』
と厳命されていたからであった。
・・・
『ありましたね』
『あったね。小屋に兵士までいた』
JA4169でセインが滑走路を確認したことに対して、波高はニヤッとしたが、セインは気が付かなかった。
『ローパスしてから着陸します』
セインに波高が言うと、一気に高度を下げていく。一度滑走路をローパスして障害物のないことを確認した後、トラフィックパターンを回って着陸した。
『よく整地されている』
思わず波高はつぶやいた。舗装こそしていないが、土とは思えないほどきれいに整備されていて、感触は中央基地と大差ない。着陸後、そのまま小屋の脇までタクシーしてエンジンを切った。すると、小屋の前にいた兵士が近づいてくる。
波高は操縦席にある小窓を開けると、
『こっちから行くから、小屋の前で待っててくれ』
兵士叫んだ。
・・・
『ようこそ、アンクス王国へ』
兵士はそういうと敬礼した。
『出迎えありがとう。シルダを迎えに来た。』
セインが兵士に伝えると
『シルダ様は王城近くで親衛隊の訓練を見ておられます』
『使いをやりますので、小屋でお待ちください・・・あれ??』
兵士が変な声を出す。そう、1台の馬車がこちらに向かってやってきていた。
『おーい』
馬車から顔をだしたのはシルダであった。
『よくわかったな』
『城に見張りを置いていたからな。見つけたところですぐやってきたわけだ』
波高の問いに自慢げに答えるシルダであった。
『こちらの準備は出来てるぞ。』
『こちらも準備は整った。作戦会議をするので、シルダを討伐基地に連れて行こうと思ってやってきた』
シルダの問いに波高が答える。隣でセインがうなずいている。
『いよいよなのだな』
『そうだ』
『瘴気を封印します』
シルダと波高の会話に、セインは自分にも言い聞かせるように入ってきた。
『さっそく来てほしいのだが・・・』
シルダが滑走路まで来てくれていたので、そのまま連れて行こうとすると、
『待ってくれ。一度ビスマルク卿と会ってくれ。何も説明していないからな』
シルダの一言で、セインと波高は馬車に乗って王宮にいくことになった。
『おい。我々が戻ってくるまで、空馬車に誰も近づけさせるな!!』
シルダは小屋の兵士に言うと、馬車を出発させた。
『行っちゃった・・・』
小屋の兵士は馬車を呆然と見送っていたが、見えなくなると、JA4169に近づき、
『どうして、こんなのが、空を飛ぶのだか・・・』
とぶつぶつ言いながら、見張りをするのであった。
・・・
『なあ。見張りが1人ではちょっと・・・』
波高はJA4169が心配であった。
『大丈夫だ。10人ほど向かわせている ほら』
シルダが指さした方を見ると、こちらに向かって馬車が走っている2台くらいいるようだ。
彼らは、こちらの馬車の前で立ち止まることもなく、小屋に向かって走っていった。
飛行機の装備は、実際のJA4169の内容になっています。




