第36話 インガス
インガスの街に着いたものの、身寄りのない2人、セレスとベルをどうするか悩んでいた。冒険者ギルドに連れて行ってみたが、2人から
『冒険者は無理』
と言われてしまい、そのまま宿に戻る途中、露天にたくさんの芋が売られているのを発見した波高は、あるスナック菓子を食べたくなった・・・ポテトチップスである。
『ねえ、この世界に塩はあるよね。食用油はあるのかな?』
妙な話にセイン、ロック、シャールカ、そしてプレーンが波高を見る。
『食用油というか、アブラナを絞った油は普通にあるよ』
それを聞いた波高はあることを思いついた、
『ちょっと買い物して行こう!!』
・・・
露店にあったジャガイモ(のようなもの)とアブラナを絞った油、深さのある鉄製の鍋、塩、包丁の代わりになりそうな短剣・・・
波高は、他のメンバーがあっけにとられているのを無視して買い込み、宿に戻ってきた。
『すいません。厨房を貸してもらえませんか?』
戻ってくるなり、宿の主に向かって波高は叫んだ。
波高の勢いにたじろいだ宿の主は
『・・いいよ』
と思わず答えた。
『ありがとう。』
『みんな、食堂でちょっと待っててもらえるかな。セレスとベルは手伝って・・・』
・・・
しばらくして波高が作ってきたものは、アブラナの油で揚げた、薄くスライスしたジャガイモ(のようなもの)にわずかに塩を振ったものであった。面倒なので、宿に借りた大皿に山盛りにして持ってきた。作業を手伝ったセレスとベルも後ろからついてきている。
『これがポテトチップスという食べものです』
波高が説明すると、1つ自分で食べて見せた。予想通りの食感が出ている。出来はまずまず・・・。
波高が美味しそうに食べるの見て、みな食べてみる。
『美味しい。』
山盛りのポテトチップスはあっという間になくなった。
『これを2人に作ってもらったらどうだろうか・・・』
波高はその場にいたみんなに言った。
『美味しいけどどうやって・・・この2人だけで屋台はできないと思うけど・・・』
シャールカが答えると、店の奥から声がした。
『おい。この菓子をここで売らせてくれ!!』
なんと宿の主であった。
『こいつは旨い。宿に併設している売店で売れば、売れる。』
『いいですけど、この2人を従業員にしてくれないですか?』
宿の主に対して、波高が返した言葉は、全員を驚かせるものだった。
<<ええええええええええええ~>>
・・・
『・・・そういうことか』
波高は、宿の主にセレスとベルの今までに経緯を話したところ、急に静かになった。
『俺にも同じくらいの娘がいたんだ・・・だがな、魔物に襲われてな・・・だから、魔物をどうにかしてほしくて冒険者向けの宿をしているんだ。これも何かの縁だ、俺が責任をもって面倒を見るよ』
プレーンから、宿の主の人の好さを事前に聞いていた波高だったのだが、その理由までは知らなかった。しかし、思わぬことからセレスとベルを引き取ってくれることになった。
『なんでな。そのポテトチップスの作り方を教えてくれ』
宿の主の依頼に頷く波高であった。
『いもの皮をむいて、薄くスライスして、180℃くらいにした油で揚げるだけですよ』
波高は答える。今後のためもあるので、セレスとベルにやらせてみる。村で料理をしていたというだけあって、すぐにできるようになった。
『早速、店で売ってみるか・・・』
宿の主が併設した売店に持って行った・・・。
・・・
セレスとベルの引き取り先が出来そうで、よかったと皆で話していると、5分もしないうちに宿の主が帰ってきた。
『すまないが、もっとたくさん作ってくれ』
売店を覗くと、人がたくさんいる
『おい、おれにも売ってくれ!!』
店から大きな声がした。
ロックとシャールカにジャガイモ(みたいなもの)を買い付けに行ってもらう。油はまだ大丈夫そうだ。塩も十分ある(宿にもあるそうだ)。手元にあったジャガイモ(みたいなもの)を急ぎ皮むきして、スライスして揚げ始める。ロックとシャールカに買ってきてもらったジャガイモ(みたいなもの)を使って更に作る・・・。出来上がったものから宿の主が店に持っていく。
夕方、やっと落ち着いたころには、大量のジャガイモ(みたいなもの)の皮が厨房に残された。
『これなら、大歓迎だ。2人ともこれからも頼む!!』
と宿の主からセレスとベルは頼まれる事態になっていた。大好評という言葉がしっくりする売り上げだったようだ。かくして、従業員となったセレスとベルは、宿の主に迎えられ、従業員用の宿舎に案内されていった。
・・・
『セレスとベルはどうにかなりそうだね』
波高がいうと、皆が頷いていた。シャールカに至っては涙目である。
(うまくいった・・・これで、ポテトチップスが食べれる)
波高は予想以上の結果に満足するのであった。
・・・
翌日、宿を出たセイン、ロック、シャールカ、プレーン、波高の5人は商人ギルドに向かった。
商人ギルドの買取カウンターに着くなり
『すいませ~ん!!』
とロックが職員を呼んだ。
中にいた、40歳くらいの女性が
『なんでしょう?』
と聞いてきた。買取カウンターなのに、5人とも、何も持っていない・・・。
『魔物の買取をお願いしたのですが、量が多いので解体場に直接持っていきたいのですが・・・』
ロックの説明に怪訝な顔をした商人ギルドの女性は、奥に行って何やら確認している。
しばらくして
『こちらにどうぞ』
と言われて、5人はそのまま奥に通された。
裏手にあった解体場は、ちょうど休憩時間だったのか、人がない。
『ここに持ってきていただけますか?』
商人ギルドの女性はそういうと、事務所に戻って行っていった。周囲に誰もいない。
『さっさと出してしまいましょう』
ロックのアイテムボックスに入っていた魔物、オーガ、オークなどをここぞとばかり出していく。あっという間に解体場は魔物でいっぱいになった。
その異変に気が付いたのか、解体場の人が出てくる
『なんだ、この量は!!』
解体場のおっさんの叫び声に、先ほどの職員も戻ってきたが・・・魔物の山を指さして、絶句している。ありえないとか思っているんだろうな・・・多分。
・・・
いろいろ言われたが、詳細は秘密ということにして、大量の魔物は引き取ってもらった。
ロックは金貨の袋を受け取って満足そうである。
『さて、この金で装備を整えよう』
セインが武器屋に向かって歩き出した。
・・・
武器屋というより、鍛冶屋で武器が売っているといったほうがよいような店であった。
『ここが、この街で評判の武器屋です』
プレーンが皆に言う。いろいろな武器があった。
奥から、武器屋の主と思われる親父が現れる。スキンヘッドの顔から年齢を推定するのは難しいが、結構高齢に見える。
『どんな武器がほしいんだ』
スキンヘッドの主は低い声で聞いてきた。
『今使っている剣と槍の代わりがほしいのです』
セインが代表して答える。
『ほう、今使っている武器を見せてもらってもよいかな』
店の主の言葉に、セインとロックのショートソード、シャールカの槍を渡す。
『対象はこの3つね・・・結構いいものじゃねえのか。この槍は』
『実家に伝わる槍だからな』
シャールカが答える。
『槍は、このままは刃先を修繕した方がいい。まだ十分使える』
そういいながら、奥にいる弟子を呼び、何やら指示をしながらもっていかせる。
『安心しな、責任をもって修繕する』
『いくら・・・』
シャールカの問いに
『金貨1枚だ』
スキンヘッドの主が、サムズアップしながら答える。
(安いのか高いのかさっぱりわからん・・・)
『剣だが・・・こりゃだめだな。もうすぐ折れる』
『やっぱり・・・』
どうやら、セインもロックもわかっていたらしい。
『体格から見て、同じくらいのサイズの方がよいだろう。体合わせてオリジナルを作ってみるのもよいのではないか?今なら、3日くらいでできるぞ。』
『ちなみにいくらで・・・』
ロックが聞くと、
『たまたま手に入った良質の鋼があるんで、それを使えば、金貨10枚づつだな』
店主がまたまたサムズアップしてくる。スキンヘッドに似合うと思っているんだろうな・・・きっと。
『じゃそれで』
ロックが金貨を21枚出して渡す。
『前金で全額くれるんだな。信用してくれてうれしいぜ。3日後に期待してきてくれ!』
店の主は上機嫌だ。
『他の2人は要らないのか』
波高とプレーンを見て主はいう。
『あ、お前、噂の傷をつけずにモンスターを仕留める奴じゃないか。お前は要らないわな』
プレーンは既にインガスでも有名らしい・・・。
『で、そっちは・・・』
波高をまじまじと見た店主は、だんだん顔が青くなり・・・・
『失礼しました・・・!!』
と土下座し始めた。
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皆の頭に疑問符が躍った。
・・・
『召喚者様とは知らず・・・ご無礼をお許しください』
スキンヘッドの頭をさらして言う店主。奥にいた弟子たちも作業を止めてこちらも見ている。
『あの、どうして私のことを召喚者と・・・』
波高が聞くと
『はい。これが反応しているので気が付きました。初代 アンクス王から先祖が賜った家宝です。』
といって、首にかけていたペンダントのようなものを見せる。真ん中にある宝石のようなものが、何故か青く光っていた。
これは、異世界からの召喚者に反応して光るものと言われています。初代アンクス王が、先祖に、
『もし、再び瘴気が溢れたときは、我と同じ、異世界からの召喚者がこの世界にくる。その時に備えて、武器を作り続けてくれ』
と言われたそうで、実際、魔物が出るまでは、ろくに売れなかった武器なんですが、うちはずっと作り続けていたんです。
(初代 アンクス王ってすごいな・・・)
波高は感心するしかなかった。
『召喚者様。召喚者様のために作っておいた特別な剣があります』
そういって、彼は、奥に消えていった・・・。
5分後、1mくらいの長さの棒状の何かを持ってきた。
『私には、剣には見えないのですが、召喚者様なら判ると言われていたそうで・・・』
波高は、店主から受け取ってみるとそれは・・・。
(無線のアンテナ?!)
航空無線用アンテナであった、ちゃんと台座とケーブルもついている。ケーブルなど劣化しそうな気もするが、不思議なことに損傷していたり、硬化していたりはしない。
『何故、ここに・・・』
波高の疑問は膨らんでいった。
『ウェブハイトさんには、これがなんだかわかるのですか?』
セインが聞いてきた
『これは無線アンテナというもので、離れたところ同士で会話するときに使う無線機に取り付けるものです』
波高は説明するが、セインはじめ、だれも理解できなかった。
『空飛ぶ馬車についていたものにつなげるのですか?』
セインの問いに、
『飛行機にも無線機がついているが、これは飛行機には付けない。その相手側の無線機につけるためのものだ』
JA4169には、何かあったときのためにハンディの無線機を搭載していた。その無線機の通信距離を延ばすには最適ではあったのだが・・・
(何故、こんなものが用意されている・・・)
謎は深まるばかりだった。
・・・
鍛冶屋の親父、名をクロードと言うそうな・・・。
『クロードさん。どうやってこれを作ったのですか?』
波高は、無線アンテナをこの世界の鍛冶屋が作れるわけがないと思い、聞いてみた。
『実は、作ったのは私のご先祖様です。代々、召喚者様が見えられたときにお渡しするように言い伝えられています』
本当であれば、ケーブル部分が新品同様であることの説明がつかないが・・・
『この製品は、そんな昔から保存されてきたにしては、明らかに不自然な点があります。特殊な保存がされていませんでしたか?』
波高がクロードに問うと、明らかに顔色が変わった。
『正直に言います。これは、初代 アンクス王からお預かりしたものです。この袋に入っていました』
といって渡された袋・・・カモフラージュされているが、アイテムボックスに似たもので、カバンの中に、アイテムボックスを設置し、更に布で元々のカバンと同じくらいになるように、細工されていた。つまり、カバンの中の布をとってしまうと、カバンが出入り口のアイテムボックスなのであった。
(これで中の時間を止めていたのか・・・)
『クロードさん。このカバンもいただけませんか』
『申しわけありません。召喚者様のものですので、お持ちになってください』
クロードの顔はまっ青である。
『先ほどのお題もお返しますので・・・どうかお許しください』
『その必要はありません。その代わり、納得いくものをお願いします』
クロードの返金申し出を波高は断った。
『それでは、こちらの気が済まないので・・・』
と何故か食い下がってくるクロードに
『では、あるものを作ってほしいです』
波高はクロードに刃の沢山ついた変わった形状の道具の絵を描いた。
『これは何をするためのもので・・・』
クロードが用途を確認すると、
『いもを薄くスライスするためのものです』
波高の回答にクロードの頭の中は謎でいっぱいになった。
『3日後、それで何を作るのか持ってきますので・・・』
波高はクロードにそれだけ言うと、店を出た。慌てて、セイン、ロック、シャールカ、プレーンが後を追う。
『一体なにをされるんだろうか・・・』
クロードは波高に依頼された道具が何のためかに必要なのか理解することが出来なかった・・・。
ポテトチップス・・・。きっとどの世界でも受けるだろうと思い、書いてしまいました。
初代 アンクス王は、何者なのでしょう・・・。




