第35話 インガス郊外
アンクスペイの北門を出た馬車は何事もなく進んだ。途中、オークやオーガは現れたが、波高の“けん銃”の練習用の的になっていた。仕留めそこなったのは、シャールカの槍とセインの剣により討伐され、ロックのアイテムボックスに収納された。
『魔物をインガスで売れば、結構な資金になりそうね』
シャールカの言葉に、
『装備を更新しなくては・・・』
とセインがいう。波高がセインの剣を見ると、刃がボロボロだった。
『もう限界だな・・・』
波高がセインの剣を見ていう。
『この世界には、もっと強力な剣はないのか・・・』
波高の問いに
『鋼を鍛えることによって、より強力な剣ができるらしいが・・・』
セインが力なくいう。
『オリハルコンやミスチルとかは・・・』
波高はファンタジーの世界で読んだ知識で、聞いてみたが・・・
『ウェブハイトさんのいた世界にはあったのでしょうが、ここでは、そのような素材は聞いたことがありません』
セインはが答えると、
『オリハルコンやミスチルってすごいんですか~』
とロックも聞いてくる。
『この槍も、そろそろ限界・・・』
シャールカも槍の先を見ながらつぶやいた。
セレスとベルは、興味がないのか熟睡である。揺れのひどい馬車の中でよく寝てられると波高は感心していた。
・・・
波高は馬車の中で、居眠りをするふりをして今までのことを思い返していた。
アイテムボックスや、討伐基地、中央基地があるのに、獣人もいなければ、魔法もなく・・・いや、魔方陣の話はあるらしいが・・・。ファンタジーの定番であるオリハルコンやミスチルもないらしい・・・。よくわからん。
魔物用の剣、魔物に外傷を与えずに仕留めることが出来る謎の剣・・・。恐らく、アンクス王宮にあったICレコーダーの内容にあった、“魔物剣”だろう。この剣を持つ冒険者を見つけなければ・・・。それにしても、今くいかなかったときは召喚者に任せるようなことを言っていたが、そのヒントは、ローマン王宮に残されていたメモであろう。中央基地の最深部に魔方陣があるのだろう・・・そんなものあったか?
それに、失敗したとき以外は行くなと書いてあったし、詳細はアンクス王国の秘密の部屋でもわからなかった・・・いや、その時は、召喚者の判断で中央基地の最深部に行けということか・・・。でも、その時何が起こるのだろうか・・・。
『あっ・・・』
思わず波高は声を出した。セイン、ロック、シャールカが何事かを波高を見る。
『すいません。なんでもないです・・・』
波高は3人に申し話なさそうに話した。セレスとベルは爆睡中で聞いてもいない。
(そうだ、アイテムボックスに入れた本を見ていなかった)
アンクス王宮にICレコーダーと共にあった本。見出しか見ていないが・・・。
見出しにあった文字は覚えている
<Cessna172取扱い説明書>
その中身は見ていないが、波高には検討がついた・・・。小型機としてはあまり有名な、セスナ172の飛行規程に相当する内容の書類である。諸元、構造、外部点検方法まで記載がある本である。波高も初めて操縦したのはセスナ172であったのでよく覚えている。しかし、あの状況で、今回この世界に来るときに乗ってきた機種でもないセスナ172の資料は意味がないと思って、そのまま、アイテムボックスにいれてしまったのだ。
(インガスの街についてからこの本の中身をちゃんと確認しよう・・・)
初代 アンクス王は、明らかに回りくどい方法で未来の召喚者本人にだけわかるように指示をした。そして、周囲の者には、初代アンクス王が、未来の召喚者に特別な指示をしたことがわかるようにしている・・・。
瘴気の発生個所を確実に確定させないといけない。北の森はほぼ間違いないが、他は一度確認してみないといけないだろう・・・。それと、なぜセスナ172の資料があったのだ・・・。初代 アンクス王はセスナ172に乗っていたのか・・・。であれば、シャールカが話していた話は可能だ。セスナ172なら、何もない草原には降りることはできるだろう・・・。
セスナ172でもロングレンジタンクの仕様であれば、1000kmは飛べるだろう。向かい風でなければ・・・。
・・・
『起きてください』
セインに波高は起こされた。
『なに・・・?』
『寝ぼけている場合じゃないです。オーガに囲まれました。』
『え?』
インガスまであと半日くらいのはずのところで、オーガに囲まれたらしい。その数20匹。
『どっから出てきた?』
波高は驚きのあまり妙なことを言った。取り囲まれているので、けん銃を立て続けに放っても倒しきれない。人数的にもあまりに不利である。
『ここは、馬車を捨てて脱出するしかないですよ~』
ロックがわかったような、わかってないような言い方で話してくる。シャールカはまっ青になっていて声も出ない。セレスとベルは意識があるのかも怪しい状況だ。
『けん銃で目のまえのオーガを倒して、そのままその先に逃げよう』
波高の言葉に、とりあえず一同うなずいている。
波高が馬車を出て、けん銃をかまえたとき、インガスの街の方から、謎の光オーガに突き刺さった。そして、立て続けにいくつもの光がオーガを倒していく。どういう訳か、馬車や波高たちの体は素通りしてオーガを倒していく・・・
<<なんじゃこりゃー>>
波高と馬車にいた一同の声が揃った。
・・・
『大丈夫ですか』
馬車に一人の冒険者が近寄ってきた。手には、光り輝く剣のようなものを持っているまるで、SF映画に出てくるレーザー剣のような見た目である。
オーガが20匹とも外傷もないのに絶命していた。
『ひょっとして魔物剣?』
波高は近寄ってきた冒険者につぶやいた。
『この剣のことを知っているのですか?』
冒険者は波高に向かって話しかけた。
『ああ。初代 アンクス王が作り、この国のある一族に保管させたという剣だ』
波高は、アンクス王宮にあったICレコーダーの内容を思い出していた。
(間違いない、これが魔物剣だ)
・・・
『・・・というわけで、私が異世界からの召喚者、ウェブハイトです』
冒険者に馬車に入ってもらい、ここまでの経緯を説明した波高に、解らないような、理解できないと言わんばかりの顔をした冒険者、魔物剣を持ったプレーンの姿があった。
再起動したプレーンは、波高の方を向いて、
『私はプレーン、この国の南にあるヴァイクという漁村のものです。当家に伝わる剣をもって召喚者様をお助けするように言い伝えられております。』
『・・・ではやはりあなたが・・・』
話を聞いていた、セイン、ロック、シャールカが揃って何か言おうをしたその時、馬車にいてもわかるような地響きが起きた。
『まずい、今度はオークの大群だ!!』
シャールカが槍をもって、馬車を飛び出した。ロック、セインも剣をもってあとに続く、
『今日は大漁ですねえ~』
プレーンは平然と馬車を降りた。
・・・
オークは、50匹はいたようだ。馬車の前で構える3人の後ろから、一筋の光の筋が半円状に広がっていった。それは、セイン、ロック、シャールカの体を素通りして、オークに届くや、全てのオークはその場に倒れてしまった。
『全て絶命しているよ~』
ロックが驚いている。
馬車の出入り口で見ていた波高は、セインたちを素通りして魔物だけを絶命させるのがよく見えた。
『魔物だけ倒している・・・』
その謎の力に波高はつぶやいていた・・・。
『とりあえず・・・っと』
ロックが、片っ端から、オークとオーガを回収して回った。
合わせて70匹の魔物は、全てロックのアイテムボックスに収まった。
『いまのは・・・』
呆然とするプレーン。
『驚かせてすまない』
回収に忙しいロックに代わり、セインが答える。
『あれは、アイテムボックスという特殊な入れ物だ。』
『はあ・・・』
セインの説明に理解が追い付いていないプレーンであった。
・・・
馬車は無事にインガスの街についた。とりあえず、プレーンが泊っている宿に向かい、全員ここに宿泊することにした。セレスとベルは、街に入るとき、面倒だったので馬車の中に隠れてもらい馬車ごと街に入ったのだが、何時までも隠れているわけにもいかないので、宿に部屋をとって入ってもらった。
『ええ・・・ということは、あなたはローマン王国のセイン王子・・・』
セイン、ロック、シャールカの紹介を終えた時点で、プレーンは驚いていた。よその国の王子様どころか、貴族にもろくに会ったことがない平民にしてみれば、当然であった・・・。
『でね、ここに来る途中の村で、この子たちを拾ってここまで来たの』
シャールカがセレスとベルを見ながらプレーンに言った。
『身寄りがないらしいのだけど、何か良い方法はないかしら』
そこには、いつもの女傑の姿ではなく、少女2名を心配する女性の姿のシャールカがいたであった。




