第34話 エミールとアルバン
キニシアはどうなった・・・。
西峠を急ぎ、ローマン王国に向かう1人の男がいた。
(危なかった・・・危うく手打ちにされるところだった)
そう、モスビス国のエミールである。キニシアでセインたちを見失うまでの報告をベルミーヤにするまでは良かったのであるが、それが、ローマン王国の意図なのか、そうでないのかという大事な確認を忘れてしまったからだ。失態と言っていい内容である。
(幸い、モスビス=ベルミーヤ閣下が再調査の指示を先に行ってくれたおかげで、手打ちにされる前に出てこれた・・・今回、納得いく報告が出来なければ、命はなさそうだ・・・)
そう、彼にとっては命がけの任務になってしまった。とにかく、早くローマンに行かなくては・・・。
・・・
ローマン王宮を爆走する老人・・・ミグがセント王の執務室に駆け込んだ。衛兵も、ミグだとわかっているのでミグが見えた時点で、セント王に取次済みで、ミグが執務室の前に辿り着いたときには、衛兵によって執務室の扉は開けられていたのである。
『陛下!!大変です!!』
『ミグ、どうした、体によくないぞ』
『キニシアのアルバン隊長が謀反を起こしたようです』
『なに!!』
セイト王の顔が急に引き締まる。
『ロックの寄越した情報によると、セイン様の一行をキニシアの街で襲ったようです』
『で、セインたちは!!』
『ロックの報告によると、無事、街にある非常用の脱出口から城外に出て、東峠に向かったようです』
セインは無事脱出したらしいとの情報に、セント王は安堵したのか、椅子からずり落ちそうになる。何とか持ちこたえた後、
『直ちに討伐の軍をだせ!!』
・・・
ミグは配下幹部を招集したのち、
『アノード、お前は先行してキニシアの街に行き、アルバンの様子を確認するのだ』
『はは!!』
アノードと呼ばれたものは、ミグに一礼して退出していった。
『他のものは、王都の主力を率いキニシアに向かえ。街を包囲できるだけのものを集めよ。』
『はは!!』
他の幹部もミグに一礼して駆け出して行った。
・・・
アノードは馬車で8日掛かる道のりを4日でキニシアまでやってきた。見た目は、冒険者のように見せかけて・・・。
キニシアの門番に異常は見られない。アノードが門番に冒険者カードを見せて通ったが、特に呼び止められることもなかった。
(特に異常はないようだが・・・)
門番は、アルバンの指示で、王都の兵士が来たら中に入れずに報告するように言われていたが、門番はミグの配下幹部を知らなかったため、そのまま冒険者だと思って素通りさせてしまったのである。
(あの冒険者、たった一人で、馬に乗って・・・妙な冒険者だったなあ・・・)
門番が異常に気が付いたときは、アノードは街の中に消えていた。
・・・
キニシアの冒険者ギルドに馬を連れた冒険者がやってきた。さすがに馬は入れないので、入り口で待たせた状態で冒険者は中に入る。
そして張り出されている依頼に目を通し、気が付いた。
依頼内容:セイン王子の偽物とその共のもの3名を捕えること
期限 :至急
報酬 :捕らえたものには金貨10枚
((なんじゃこりゃ~))
そう、アノードである。依頼には心底驚いたが、何とか声を出さずに済んだ。
そして、エールをもって、ご機嫌に飲んでいる冒険者の席に行き、
『今、田舎から出てきたんですが、あの緊急依頼の話って本当ですか?』
すっかり出来上がっている冒険者は、アノードを一瞥した後、
『おう、ローマンから王宮の馬車が来た翌日に張り出されたものだ。街の兵が宿に乗り込んだらしいんだが、4人は見つからなかったらしい。今も行方不明らしいぞ』
『大変な出来事のようですが、動員はかかってないのですか?』
当然、半ば強制的に捜索に駆り出されてもおかしくなさそうだが、酔っ払いの冒険者はアノードを見ると
『ああ、街の兵がかなりいろいろ言ってたが、セイン様もみたことがないんでな。探しようもないって断ったんだよ』
『なるほど』
アノードは納得した。冒険者は依頼があれば受けれるが、対象を知らなければどうにもならないからだ。
『似顔絵とか持ってきたが・・・さっぱりわからんかった』
どうやら、街の兵はアルバンの指示に従っているらしい・・・。
(こりゃ、完全に謀反だな)
・・・
アノードがキニシアに着いたころ、ローマンでは、ありったけのローマン王国軍が集結していた。
『陛下、国境警備と王宮警備を除いたほぼ全てを投入しました』
『ミグ。よくやった。ただちにキニシアに向かわせろ!』
『先に伝令を送ってアルバンに降伏勧告をしようと思いますが・・・』
『ならん!キニシアを囲ってからだ。先に伝令を送っては奴は逃亡するだろう・・・』
セント王にしては、思い切った発言であった。腹違いといえ弟である。事情があって公表してないが、セインに牙を向けた以上、生かしておくわけにはいかない・・・先王の負の遺産に頭を抱えるセントであった。
・・・
エミールがローマンについたとき、王都は閑散としていた、冒険者ギルドに行ってみると、中は以前とほとんど変わらない。エールを飲みながら周辺の会話を聞いていると、
『先日集められた、王軍って凄かったな』
『この国にあんなに軍がたくさんいたとは知らなかったよ』
『キニシアの隊長が、セイン様を襲ったらしい・・・』
『そりゃ、無事で済むわけがないわな・・・』
『でも、なんでセイン様をおそったんだろうな。』
『聞いた話だがな、キニシアの隊長って、先王様の子らしいぞ・・・』
『ええ、では陛下と兄弟・・・』
『声がでかい!!』
『すまん』
エミールは黙って冒険者ギルドを出た。
・・・
8日後の朝、キニシアの街はローマン王国軍に取り囲まれた。街の門は朝になっても開門するわけにもいかず閉められたたままとなり、商人たちは驚くばかり・・・。
城門を取り囲んだ軍から城門内の兵に指示をだすものがいた。
『キニシアの街の兵に告ぐ。直ちに門を開放して投降せよ!!』
城門を守っていた兵たちは、突然のことで混乱していた。
『街を取り囲まれた。取り囲んだのは、味方のはずのローマン王国軍だ。いったいどうなっているんだ??』
『すぐに門を開けて投稿しろって言ってるよ。俺たち、反乱軍の扱い?』
『ひょっとして、偽セイン様というのは、実は本物のセイン様だったのでは・・・!!』
『てことは・・・やばくない。俺たち・・・』
街の兵はパニックになってしまい、1時間もしないうちに門は開かれ、大半のものは投降してしまった。
全体を指揮していたミグは配下幹部を集め、
『第一隊はアルバン隊長の確保。手向かうようであれば、生死は問わん!!』
『第二隊から第五隊は投降者の確保と事情聴取』
『第六隊は脱出口で待機』
そう、セインたちが使った街からの脱出口をアルバンに使われないように、出口を抑えたのだった。
(ここでアルバンを捕り逃がすわけにはいかないからな・・・)
ミグは、先王の負の遺産というべきアルバンをここで断ち切るべく、万全を期していた。
・・・
『隊長、街が兵に取り囲まれてます。』
キニシアの街の隊長であるアルバンは、執務室に座ったままである
『来たか・・・』
事は、そんなに時間がかからず露見すると思っていたが、街をいきなり囲ってくるとは思わなかった。王都からの使者が来たところで、逃亡すればよいと思っていたのである。
『セインを捕えることさえできれば・・・』
そう、彼はセインを捕え、それを交渉材料にしようと思っていた。うまくすれば、セント王から領土の割譲を受けることも出来ると踏んでいたのである。
『各門の兵が投降しています。包囲している兵が来るのは時間の問題です』
アルバンの側近たちからの報告を受けたが、アルバンには脱出する先がなかった。更に、戦う勇気も持ち合わせていなかったのである。
アルバンは、執務室及びその周辺にある兵を集め、
『皆は、ここから街中に隠れるか、投降するように。彼らの目的は私だ。他は関係ない。』
とういうと、一人執務室に籠ってしまった。
・・・
ミグの指示でアルバンの確保に向かった第一隊が街の隊長執務室のある建物に着いたとき、既に誰もいなかった。第一隊の精鋭が隊長の執務室に突入したとき見たもの・・・それは、建物の天井から首をつって死んでいたアルバンであった・・・。
・・・
ミグは、アルバンの死体を確認した後、別室で、投降者から情報を集めていた。その結果、街の地下牢にとらわれていたコルノーたち5人を救出することに成功していた。
『第一隊に暫定で街の管理を任せる。逃亡したアルバンの側近は捕え次第、王都の護送にせよ』
ミグはそう宣言すると宿に引き上げた。
『早く王都に戻った方がよい。老体には堪えるわ』
ミグは、紅茶を持ってきた側近につぶやいた。
こんな時に申し訳ありません。セイン様からの書状を持ってきたというものが来ております。
『通せ!!』
ミグは嫌な予感がしていた。セインたちがアンクス王国に逃れただろうとは思ったが、キニシアの反乱が収まるのを待たずに使者がくるということは・・・。
『お連れしました』
側近に連れられてきたのは、冒険者のように見えるものであった。
『ミグ閣下とお見受けします。ローマン王国のセイン様より書状を届けるよう、ビスマルク閣下より命を受けてまいりました』
というと、1通の書状を出した。目の前でミグの側近が受け取り、ミグに手渡す。
『・・・わかった。セイン様は瘴気封印に参加されるのだな』
ミグは使者を睨むように見る。使者はその眼力に硬直したが、
『詳細は存じません。ですが私も急ぎアンクス ペイに戻って、魔物討伐の準備に加わることになっております』
使者は背中に冷たいものを感じながら答えると、
『そうか。今日は宿に泊まっていくがよい』
とだけ使者に伝え、ミグは
『直ちに王都に戻る。緊急馬車を準備しろ!!』
(これは大変なことになった。急ぎ王都に戻らねば・・・)
事情が分からない側近は、慌てて準備に飛び出していった。
・・・
そのころ、ロンジン国のエミールは、ハイム村を目指して歩いていた。ブリトンまでは、馬車があったのだが、その先は歩いていくしかないと言われたからである。
(橋くらい早く架けろよ・・・)
資材が積まれたまま、工事の始まっていない川の脇でエミールはつぶやいていた。




