第33話 インガスへ
5分隊の編成と対魔物訓練をビスマルクに頼んでから、波高たちはアンクス ペイの冒険者ギルドに向かっていた。
『キニシアにすぐに行かないのは何故ですか』
セインが波高に聞いてくる。どうも、最近では、波高が瘴気封印の指揮を執るようになってしまったため、立場が変わってしまっていた。
『魔物剣に関する情報があるかもしれないから・・・』
波高は言うが、
(田舎から上京してくるのは首都だよ。だから、首都のギルドに出入りしている可能性もある)
などど考えていた。そのため、まずは冒険者ギルドに行って情報集めをしていた。
・・・
アンクス ペイの冒険者ギルドはそこそこ広かったが、人はあまりいなかった。
受付に女性が座っているが、暇そうである。
『すいません。ここに来る冒険者で変わった人っていますか?』
波高の質問に驚いたのか、呆れたのか、
『冒険者で変わった人以外を探すのは難しいですよ』
といったきり黙ってしまった。
『変わった剣を持っている人とか・・・』
懲りずに波高が聞くと、
『わからないですね』
とあっけない。
仕方ないので隣の飲食コーナーに行き、4人で座りながら、周囲の様子を見るが、何も珍しいそうな情報はなかった。
・・・
結局何も成果がなく、4人は城外の森に来ていた。
『魔物狩りの練習でもしましょう』
セインの提案で、冒険者ギルドで貸してもらった台車を引いてやってきたのである。
森に入ると、いきなりオーク3匹と遭遇した。あまりにいきなりだったので、波高はけん銃をいきなり発射。今度は胸部に見事命中していた。
『いきなりオーク3匹』
セインがつぶやいた。4人で何とか台車に乗せると、台車はいっぱいであった。
『すいません。練習になりませんね』
と波高は言いながら、台車を引いて城内の商人ギルドに行くことになった。
・・・
商人ギルドに到着すると、オークはすぐに引き取ってもらったが、解体担当のおっさんが近づいてくるなり
『このオーク。どうやって仕留めたんだ。剣の跡がないぞ!!』
いきなりけん銃で仕留めたので当然であるのだが、この世界には本来ないものなので、
『ここに石を打ちこんで倒したんですよ』
と波高が説明する。じっと傷口を見つめる解体担当のおっさん・・・。
『へえ~。こんなんでねえ。そういえば、傷が全くない状態で仕留めてきたやつがいたなあ~』
面白そうな話だったので、
『どんな人なんですか?』
『最近来なくなっちまったんだがね。腰に変わった剣を下げているやつで・・・なんでも、魔物専用の剣だとか言ってたなあ・・・』
<<それって、ひょっとして>>
波高とその後ろにいたセイン、ロック、シャールカの声が揃った。
『おいおい、なに驚いているんだよ。こっちからすれば、これも似たようなもんだよ』
と、解体担当のおっさんは持ち込んだオークを指さしながら言う。
『その人、どこにいるか知りませんか?』
『いや、わからねえなあ。』
『最近は来なくなったから、どこか移っていったんだろう。実力はあるみたいだったから、インガスに行ったんじゃないのか?何せ、たくさん魔物がいるらしいからなあ~』
解体担当のおっさんによると、実力のあるものに都合がよいように、インガスでは買取価格を高めにしているという。魔物の発生が他より多いための対策で、買い取った肉を燻製などの保存食にして大陸中に出荷しているらしい。
『つまり、魔物を冒険者に討伐させて間引きしている』
『ま、そういうことだろうなあ~。インガスで仕事した方が、解体の仕事も報酬がよいのだがな・・・ちょっと怖いきがしてな。』
魔物が街を襲う心配をしているらしい。
『危険手当ですね~♪』
ロックが後ろから口を挟んだ。
・・・
『インガスに行きましょう』
セインが言った。反対する者はいない。一旦、王宮に戻って、明日、インガスに出発する旨を伝えたところ、ビスマルクが波高とシャールカに軽い石板のようなカードをよこした。
見ると、冒険者カードである。
『街に出入りするとき、これがあった方が楽なはずです』
ビスマルクはいう。そういえば、この街の門番には、ビスマルクが手を回してくれたおかげでフリーパスであったが、カスパーでのやり取りを考えると、当然であった。
・・・
なんと、今回は、ビスマルクが馬車を用意してくれた。と言っても、いわゆる普通の馬車で御者はいない。
『久々に御者をしましょう~♪』
とロックが御者を買って出た。かなり器用らしい。歩くと10日はかかりそうな道のりだが、馬車なら6日といったところか・・・。
『問題は、途中の村がかなり被害に遭っていて、泊まれる状態ではないらしいよ~』
馬車を受け取ってきたロックが、引き渡しにやってきた商人から聞いたらしい。
今回は馬車もあるし、テントももう1つ購入したので問題ないだろう・・・。
アンクス ペイの北門を出ると、しばらくは草原のようなところであった。
『このあたりは見通しがよいので魔物に襲われにくいねえ~』
ロックが呑気に言っている。馬車の中では、セインとシャールカは飽きたのか、昼寝中だ。波高は暇なので、御者台に移動し、ロックの脇に座った。
『もしかして、その“けん銃”ってやつで魔物をやっつけて、アイテムボックスで回収すれば、止まらなくても済むのかなあ~♪』
ロックが妙なことを言っている。
『では試してみようか』
波高も退屈しのぎに了承した。
・・・
少し先に森が見えてきたあたりで、何かがこちらに走ってくるのが見えた。ミツツノのつがいのようだ。間違いなく、こちらに向かっている。
『美味しいのが来た~』
ロックは、今日のおかずが来たと言わんばかりである。4人しかいないので、多すぎるくらいである。
移動しながらは中々狙いにくい。最初の1発は、頭を直撃したが、もう1発は外してしまった。気を取り直して、もう1発。ロックが速度を落としてくれたこともあって、今度は命中。
(こんなに簡単にあたるか・・・?)
射撃に関しては、素人であるはずの波高は疑問でいっぱいだが、ロックはそんなことを気にもせず、2頭ともアイテムボックスに回収した。
『走りながら回収成功~!♪』
何やら嬉しそうである。
けん銃の音に目が覚めたのか、セインとシャールカが馬車から顔を出すが、魔物は当然いない・・・。
『あれ、魔物がいたんじゃないの』
シャールカが聞いてきた。
『今日は、ミツツノの丸焼きです!(~♪)』』
波高とロックが声をそろえて返答した。
・・・
森を抜けたところで、集落だった所らしい場所を発見した。建物はろくに残っていないが、井戸は使えそうだ。
村の真ん中にある広い場所(多分広場だったのだろう)に馬車を止め、アイテムボックスからテントを出すと、野営準備完了である。魔物を防ぐものはなさそうなので、残念ながら寝ずの番が必要そうだ。
井戸から水を汲み、先ほど仕留めたミツツノを解体してから焼き始める。さすがに1頭で十分だろうということで、もう1頭は解体処理だけして、アイテムボックスに再び収納した。
・・・
ミツツノの丸焼きを食べながら過ごしていると、闇の中から何かがやってきた。とっさに4人とも武器を構える。
『あのー。食事を分けてもらえませんか~』
よく見ると、15歳くらいの少女が2名立っていた。
『どこから来たの?』
シャールカが少女たちに聞くと、集落のうち、形を保っていた1軒を指さした。
『他に誰かいないの?』
シャールカが更に聞くと
『他の人は、魔物に襲われてほとんど死んでしまった。生き残った人はこの村を捨てて、インガスに行った』
わずかに大きい方の少女が答えた。
『あなたたちは何故ここに・・・』
シャールカがここまで行ったところで、2人は泣き出してしまった。
・・・
『・・・そういう訳でここに残ったのね』
シャールカがようやく泣き止んだ少女たちから、事情を聴いたのだった。2人の親は魔物の犠牲になってしまい、身寄りがなく、誰もインガスに連れて行ってくれなかったそうだ。奇跡的に形の残った家で村に残っていた食料を食べて生き延びていたらしい・・・。
『魔物に襲われなかったの?』
シャールカが少女たちに確認すると、普段は、建物の床下に隠れていて、必要な時だけ出てきたらしい。今日は、美味しそうな匂いがして耐えきれずに来てしまったそうだ。
『これからどうする気だ?2人だけでは生きて行けまい』
セインが少女たちにいう。少女たちは答えようがないのか、何も言わない・・・。
(この世界には、この少女たちみたいな子がたくさんいるのだろう・・・)
『なあ。この子たちをインガスまで連れて行かないか?』
波高の一言にセイン、ロック、シャールカが驚いて波高を見ている。
『ここにいても、魔物に襲われるのは時間の問題だろう。2人だけでは村は守れないと思う。インガスの街なら働き口もあるだろう』
波高の発言にセインがあきらめたように言う
『ウェブハイトさん。気持ちはわかります。ですが、この子たちが街で生きていけるほど甘くはないように思います』
『それは?』
波高が思わず返すと、
『なんのつてもない子を雇ってくれるところなんてないと思うよ~せいぜい売春宿くらい・・・♪』
さすがのロックも口調が重くなった。
当の少女2人は、シャールカに肉分けてもらったのを必死に食べている。よほど腹が空いていたのだろう、他のことは眼中にない感じだ。
『だが、このまま見殺しにするわけにはいかないよ』
波高がいうと、
『インガスに連れていくまでなら問題ないよ。それでもこの子たちがいいなら・・・』
セインは波高の意思が固いのを見てあきらめるように言った。
『私も連れていきたい。ボナとロナのことを思い出してしまって・・・』
シャールカも涙目だ。
『インガスの街についたら、街の代表を表敬訪問するというのはどうだい。ひょっとしたら解決策があるかもしれないかもよ~♪』
ロックが助け舟を出した。そう言いながらも、そんな甘い話はまずないとロックが思っているのは明らかな言い方だったが・・・。
『本人たちの意思を確認しなくては?』
シャールカが2人の少女を覗き込むと、満腹になって安心したのか、眠ってしまっていた・・・。
・・・
結局、波高、セイン、シャールカの3人で交代しながら、焚火の番をし、魔物の見張りをしているうちに朝になった。ミツツノの丸焼きの残りをパンにはさみ、サンドイッチのようにしたもので、朝食にした。
『君たち、インガスまで乗せていこうか?』
波高は少女2人にいうと、
『うれしいのですが、何もお支払いするものがありません』
大きい方の少女が言った。
『インガスに行くまでで良ければ、何も要らないよ』
波高は少女に行った。他3名も頷いている。
『本当ですか。ありがとうございます。よろしくお願いします。私にできることならなんでもしますので・・・』
『待っててあげるから、持っていきたいものがあればとりに行ってきな』
シャールカが少女2人にいった。少女たちは、一目散に家の方に向かう・・・そして、小さな袋と何故か鍋をもって戻ってきた。
『この鍋で、両親は毎日食事を作ってくれていました。魔物に襲われても、この鍋は無事でした。これで皆さんの食事を作ります』
小さい方の少女が言った。
『料理はできるの?』
シャールカが聞くと、ずっと親の手伝いをしていたので、この村で作っていた料理はできるらしい。鍋の蓋を開けると、調味料のようなものが入っていた。
これと、畑の野菜があれば・・・と指を刺したところには、魔物に掘り返された無残な畑があった。
『ひょっとして畑から食べれそうな野菜を食べていた?』
波高が聞くと、2人の少女は頷いた。
・・・
結局、鍋を含め2人の荷物は、ロックのアイテムボックスに収納した。2人の少女は驚いたが、絶対に他の人に話してはいけないことを伝えると納得してくれた。
そして・・・
『なんで、こんなに野菜を収穫して持っていくの~』
波高が畑からまだ食べれそうな野菜を収穫してきて、ロックのアイテムボックスに収納させる。
『この野菜で、美味しい鍋が作れそう』
何やら波高は嬉しそうである。波高は日本人なので、鍋料理は好きな方である。魔物の肉は十分あるので、野菜と、少女たちが持ってきた調味料で鍋が食べれるという算段である。
たっぷり1時間は収穫作業をしたのち、馬車は少女2名を追加して出発した。
・・・
『名前は?』
少女たちにシャールカが聞いた。インガスまで行くのに、名前も知らないのは話しにくい。
『セレスです』
『ベルです』
2人が説明したところでは、セレスは15歳とベルが13歳だそうだ。今まで、村を出たことがないため、街がどんなところかも知らないらしい・・・。
・・・
とりあえず、この4人は、インガスに人探しに行こうとしていることだけを伝えた。冒険者なので、インガスに定住することもないと・・・。
『あの、ずっと一緒に連れて行ってもらうことは出来ないのでしょうか・・・』
セレスが消えそうな声でいったのに対し、4人とも首を横に振るしかなかった。
『そうですか・・・』
明らかに落ち込むセレスとベルであった。
セレスとベルは何者・・・ただの村人(孤児)です。




