第28話 キニシア
タミルの街を出発した後は、何もない日が続いた。何故か魔物すら現れず、馬車の中と途中の休憩を繰り返し、夜は、村の宿に泊まるというパターンを繰り返す。それぞれに村の名前はあったが、印象に残る出来事もなかったこともあり、波高は名前すら憶えていない・・・。
(もう飽きた・・・)
・・・
4日目にして城壁が見えてきた。タミルより城壁の高さは高い。
『立派な城壁ですね』
『国境だからね』
波高のつぶやきにセインが答える。
『でも、この馬車が通れない東峠があるから心配いらないのでは・・・』
波高の疑問に
『この城壁はこの国最古のものらしいですよ~。ローマンの城壁よりも頑丈にできているんですよ~』
とロックが口を挟んできた。
(何故、王都よりも立派な城壁があるんだろう・・・)
波高は何か特別な意味があるようにしか思えなかったが、その理由がわからなかった。
・・・
この街でもタミルと同じく、城門はスルーパスであった。セイン王子の馬車を止めるものはいないということなのだろう。ここでも宿に着くと、出迎えの一行がいた。
『セイン王子!!』
いきなり大きな声を出してきたは、いかにも軍人という感じの人物であった。
『キニシアへようこそ』
『隊長自らお出迎えとは・・・』
セインがいうと、
『セイン様が見えられるのに、お迎えもしないわけにはいきませぬぞ』
『アルバン隊長。魔物の状況は?』
どうやらこの軍人はアルバンというらしい。セインはこの隊長と面識があるようだが、どう見ても気に入っていないように見える。
『今のところ、大きな被害が出ていないです』
『東峠の状況は?』
『特に異常ありません』
『報告ありがとう。明日には、アンクス王国に向かわなければなりません。今日はゆっくり休ませてください』
セインは事務的にそういうと、宿に入ってしまった。他の8名も慌てて後を追う。
・・・
『どうもあの隊長は苦手でね』
セインは宿に入ると皆に言い始めた。
『悪そうには見えないが・・・』
波高が言い始めると、
『この国にもいろいろあってね・・・♪』
ロックが意味ありげな言葉で波高の言葉を遮った。
・・・
嫌な予感がした。波高は宿で食事をとった後、コルノーたちが部屋に引き上げたのを見て、セインに言った。
『この宿の周りに兵がたくさんいるが・・・』
『・・・』
『あの隊長とは何があったんだ・・・』
波高はセインに改めて聞いてみる。
『彼は、叔父なんだ・・・』
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シャールカと波高は、そのセインの言葉に驚いた。何故かロックは知らん顔をしている。
『かれは、父の腹違いの弟なんだ・・・認知されていないんだけど・・・』
『王都に置いておくは危険だということで、国境警備の隊長にしたんだそうだ・・・』
セインの父であるセント王は、この腹違いの弟の扱いに困り果てたらしい・・・。
『あまり公になっていないので、知っている物は少ないんだけど・・・』
セインはうなだれた。
『少なくとも、この宿にそのままいるのはマズイ』
しかし、9人で移動するのはさすがに気が付かれるだろう。
・・・
宿から1台の台車が出てきた。すぐさま、武装した兵士に止められる。
『おい。こんな時間にどこに行く』
兵士の問いに
『はい。今日は夕食の残飯が多く出たので、朝食の前に処分しにいってきます』
何故か残飯には布が被してあった。
『どこに行くのだ』
『はい。残飯といっても、十分食べれるものなので、孤児院に持っていきます』
台車を引いた男は答えた。
『早くいけ、ただし、夜は危険だから戻ってくるのは朝にしろ!!』
『はい。孤児院に泊めてもらいます』
男はゆっくりと台車を引いて行った。
・・・
『さっきの兵士、変なことをいってたな』
兵士が見えなくなったところで男が布をとると、そこには残飯ではなく、セイン、シャールカ、そして波高がいた。
『ロックの演技は大したものだ』
シャールカがロックをほめる。
今はそれどころではないだろう・・・早くこの街を出るしかない・・・。
『すまん。コルノー』
セインがつぶやいた。
・・・
『でも、どうやってこの街から脱出するんだ』
シャールカの問いに
『ついてきてくれ』
何故かロックが自信ありげに答えた。
『ここから外に出るよ』
ロックが来たのは、街の中心付近にある今は使われていない古井戸であった。
『ここはね、昔の脱出用の通路なんだ♪』
『???』
ロックが古井戸の蓋を開けると、何と、そこは階段になっていた。
『なんと!!』
セイン、シャールカ、波高の声が揃った。
・・・
古井戸は城壁の外側につながっていた。そして、難なく城壁の外に脱出する。もちろん、古井戸の蓋は元に戻してきたので、簡単には気が付かれないだろう・・・。
『ロック、私も知らないこの出口はどこから聞いたんだ』
セインがロックに確認する。
『ローマンを出発するときにミグのじいさんに聞いた』
(なんでミグは知っていたんだ・・・)
セインの謎は更に深まるのだった・・・。
・・・
夜中の宿に兵士がなだれ込んできた。
『隊長のアルバンだ。セイン王子の偽物がこの宿にいる』
叫んだのはアルバンである。彼は、たった9人でやってきたセイン王子を亡き者にして、次期国王の座が奪えるのではと考えていた。彼に姉が2人いることを考えれば、それが無理なことなどわかるはずなのだが・・・。
兵は一気にセインたちが止まっていた部屋に向かう。中に入った兵は、もぬけの殻の部屋を見て唖然としていた。一方、コルノーたちは寝込みを襲われ、なすすべなく捕まっていた。
コルノーたちにもセイン王子たちが見つからないことはすぐにわかったが、その理由は解らなかった。
(セイン様、どうかご無事で・・・)
コルノーはセインの無事を祈っていた。
・・・
日が昇る前に東峠に入っていたセインたちは、途中、キニシアの街を見渡せるところで振り返った。
『コルノーたちは大丈夫だろうか・・・』
セインのつぶやきにロックが答えた。
『さっき、ミグじいさんに使いを出したから、鎮圧の軍勢がくるだろう♪』
『いつの間に?』
『なに、ミグのじいさんが鳩を渡してきたんだ。伝書鳩ってやつよ~♪』
『どこに持ってたの?』
『これよ~♪』
とアイテムボックスの口を開いて見せた。
((生き物でも大丈夫だったんか~!!))
セイン、シャールカ、波高の声が揃った。
(もしかしてミグは予期していたのか・・・)
セインはロックのあまりの手際の良さに疑問を感じたのだった・・・。
『今はアンクス王国に行くことが先決だ』
セインはキニシアの街に背を向けた。
・・・
翌日、キニシアの冒険者ギルドには、緊急の依頼が掲示されていた。
依頼内容:セイン王子の偽物とその共のもの3名を捕えること
期限 :至急
報酬 :捕らえたものには金貨10枚
緊急の依頼と書かれた内容に、冒険者は皆食い入るように見ていたが、
『顔もわかんねえのに探しようもねえ』
『兵が走り回っているから、居りゃ、すぐ見つかるだろう・・・』
セイン王子の顔など見たことがないものがほとんどなので、当然の反応であった。
『それに、宿で捕まっていた5人は、明らかに王宮の近衛兵だったらしいぞ・・・』
彼らは、この近衛兵の服装は知っているので、偽物という言葉にすら疑問をもっているのだった・・・。
(こりゃ、うっかり受けれない依頼だな・・・)
2022/3/15 誤記修正




