第27話 タミル
ウルフィンを出たのちは何事もなかった。いや、馬車に乗り続けているせいでお尻が痛い・・・。機内にあったクッションを持ってくればよかったと後悔する波高であった。ヨシュアで1泊し、そのまま進んでいくと、昼過ぎには、城壁が見えてきた。
『城壁が見えますね』
『あれが、タミルの街です』
波高の問いにセインが反応する。
『この街では絨毯が名物なのです~♪』
ロックが突如話し出す
『この街では絨毯の生産が盛んで、ローマン王国のみならず他国にも販売されていますよ~♪』
『峠を越えて?』
『そうです。それほど有名なのですよ~♪』
『王宮の絨毯も・・・』
『もちろんタミルで作られている物です』
最後は、セインが口を挟んだ。
『家の客間にあったのも確か・・・』
シャールカが思い出したように言い出した。
『子供のころ、絨毯の上で遊んでいたら怒られた記憶しかない・・・』
『タミルの絨毯は高級だからな』
ロックが何か言う前にセインが答えた。
・・・
ローマン王国の用意した馬車だけあって、街に入る手続きはなし。門番はこちらに敬礼している。街の宿についたところで、出迎える一行がいた。その中で、明らかに最長老と思われる老人がセインに近づき、
『坊ちゃま。大きくならましたなあ~』
態度は臣下の礼であるが、言っていることはちょっと違うようだ。
『タミルのじいさん。お久しぶりです。』
セインが答える。どうやら面識があるらしい・・・。
『坊ちゃまに、折り入ってお願いがありまして・・・』
老人はそういうと、宿に用意してある部屋に一行を案内していった。
・・・
『・・・というわけで、大事な絨毯の材料である綿を収穫に行けないのです。』
セインを坊ちゃまと言っていた老人は、マルキスという名で、タミルの街を収めているらしい・・・貴族というわけではなく、国王から任命された代官という立場らしい。そのマルキスがセインに向かって、先ほどから懇願している状態である。
『タミルのじいさん。いやマルキスよ。この街にも手勢はいたと思うが・・・』
『坊ちゃま、それが、とても固い鱗をもつ生き物がおりまして、剣も弓も通りません。地を這うように移動して、大きな口で襲われてしまうのです・・・』
タミルのじいさんことマルキスは力なく語った・・・。
『絨毯を作れなければ、この街はさびれてしまいます。どうか、あの化け物を討伐していただけませんか』
放っておけば、泣き出しかねない感じである・・・。
『それって、ハイム村付近で出たあれではないのか?』
シャールカが思い出したようにセインに話かける。
『ウェブハイトさんがいっていた、デザードってやつか♪』
ロックが答える。ハイム村から中央基地に向かうときに出くわした魔物だ。
『いや、いるのはクロテウスという生き物らしいのです。アンクス王国から来た旅人によると、肉はとっても美味しいので、アンクス王国では高値で取引されるそうです』
『もしかすると、ウェブハイトがデザードと言っていたのって・・・クロテウスだったのかも』
シャールカが反応する。“肉はとっても美味しい”に反応したらしい・・・。
『ウェブハイトさん。ここはクロテウス討伐をしましょう。いやさせてください』
セインが波高に話し出す。
(セインも肉目当て・・・?)
懇願するマルキスを見ながら同意するしかない波高であった。
・・・
城壁の北側に9人は案内された。城壁の上に登って外を見ると、綿の原料である綿花が街の北側に広がっていた。
(広い・・・)
『あの白い部分を回収するのです』
マルキスはセインたちに話始めた。
『そして、クロテウスは小川付近にいるらしいのです』
一面の綿花の中に、流量がそこそこある川が流れていた。クロテウスは、川の近くに岩があるあたりに住み着いているらしい。
『数はどれくらい・・・』
波高がマルキスに問うと、
『複数いるらしいのですが、正確な数はわかりません』
とマルキスがいう・・・。
『ということは、あの付近一帯を探して倒す必要があるのですね』
シャールカがつぶやく。
『人間が城壁の外に出てくると襲ってきますのですぐわかるでしょう』
マルキスが補足する。
『でも、そうだとすると、綿花にも被害が出るね』
『はい。でも収穫できない現状ではそんなことは言ってられず・・・』
セインの発言にマルキスが答える。
『川から移動すれば・・・』
波高はこのまま城壁の外に降りて戦うのは、綿花もあってやりにくいので、別の提案をした。
『舟はありますか』
セインがマルキスに言うと、
『探してきます!!』
と言って、どこかに行ってしまった。
『ま、一旦宿に戻ってマルキスの返事を待とう・・・』
セインはそういうと、宿に向かって歩き出した。
他の8名も慌てて後を追う。
・・・
翌日の朝、セインたち9名はマルキスの用意した舟に乗っていた。そして、波高は先を輪にしたロープをいくつか用意して、それを棒の先端に付けていた。
『ウェブハイトさん、一体どうするのですか?』
『あの口さえ防げれば何とかなると思ってね』
波高はワニ退治の方法として口をロープで縛る作戦である。果たして、この世界のクロテウスに通用するのか疑問ではあったが・・・。
まだ日が出ていないので、クロテウスはおとなしくしている。恐らく眠っているのだろう・・・。念のために、小石を投げてみるが、全く動かない・・。
波形は川辺にいた5匹のクロテウスの口にロープをかけて行った。口を縛ると、暴れるだろうということで、5匹全てにロープをかけた後、陸に上がって、一気にロープを引っ張った。
5匹のクロテウスの口を一斉に縛ることに成功した。さすがにクロテウスも気が付いたが、5本のロープをコルノーとその部下に引っ張らせ、セインとロックはショートソードで、シャールカは槍で腹を突き刺した。
・・・
あっけなく、勝負は決着した。波高の予想どおり、腹の部分は、剣や槍が簡単に刺さった。コルノーたちに引っ張らせた瞬間、腹が丸見えになったところを襲った結果、5匹のクロテウスを討伐することが出来た。
(こんなにうまくいくとは・・・)
多少呆れ気味の波高に対して、セインたちは大喜びで、
『美味しいお肉~♪』
などと騒いでいる。
そんな中、コルノーたちが、他にクロテウスがいないことを確かめて、
『これで全てみたいです』
とセインに言う。
・・・
あまりに重かったので、マルキスに頼んで、ギルドのメンバーを動員してもらった。
『こうすればよかったのか・・・』
などと冒険者たちはつぶやいているが、聞こえなかったふりをするセインたち・・・。きっと、今後は、彼らで退治できるだろう。かくして、綿花に被害を出さずにクロテウスを討伐したのだった。
・・・
(クロテウスは変温動物なのかも・・・)
波高は考えていた。朝方に言ったので、まだ日が出ていないので、気温は昼間より低かった。恐らくこれが、クロテウスの弱点なのだろう・・・。
背後から、背中を叩かれたところで振り返ると、
『せっかくのお肉がなくなっちゃうよ~』
と上機嫌のシャールカがいた。彼女が指さす方向を見ると、クロテウスの大ステーキ大会が開かれていて、大サービスで街の人に振舞われている。
『セイン王子がクロテウスを討伐してくれました。これを食べて、綿花の収穫に行きましょう~!!』
よく見ると、マルキスが大声で叫んでいる。
セインの提案で街の人に振舞われることになったクロテウスの肉であるが、ここぞとばかりにマルキスが張り切って宣伝しているらしい。
波高も出来立てのステーキを頬ばった。
(これは旨い!!)
・・・
結局、この日はお祭りのような状況になってしまい、そのままもう1泊することに・・・。クロテウスが討伐できたので良しとしよう・・・。
2022/3/15 誤記修正




