第26話 ウルフィンへ
波高たちの一行9名は、ティエゾの村を出たのち、今日の宿泊予定地であるウルフィンを目指していた。途中は森であったり、草原であったり・・・。
『馬車という乗り物はゆっくりですね』
波高は、あまりに暇だったので、あくびをしながらセインたちに話すと、
『ウェブハイトさん。これでも早い方なんですよ』
セインが反論する。今回は、ローマン王国の馬車を用意してもらったので、国境の街、キニシアまではこの馬車での移動である。東峠を超えるのは、この馬車では無理なので、峠は他の馬車か徒歩の予定である。その後は、カスパーの街で馬車を手配する予定であった。
『でも・・・』
波高はランニング程度の速さでしか移動しない馬車の旅にすっかり飽きていた。
・・・
途中、馬車は休憩が入る。馬を休ませるためと、長時間座っている苦痛から解放するという理由である。サスペンションもない馬車はさすがにきつい。お尻が痛くなる・・・。強烈に・・・。
そんな訳でちっとも先に進まない。
(アンクス ペイに飛行場さえあれば、1日で着くのに・・・)
コルノーの部下に紅茶を入れてもらい、街道に設置されている馬車を止めるスペースの脇でくつろいでいると・・・。
『オークが来ます』
コルノーが叫んだ。よく見ると、2足歩行の豚がこちらに向かって走ってきている。明らかにロックオン状態だ。
波高はけん銃を取り出した。ローマン王国の王宮内にある、秘密の部屋で見つけたものだ。波高以外、けん銃がなんであるか理解できていなかった。当然ながら波高も実物を見たのはこのけん銃が初めてだった。
『これを試して見ようとお思います』
波高はセインたちにいった。
『これの威力を確認するのに、丁度よいので・・・』
更に波高がいうと
『わかりました。我々は、万一に備えてはおきます』
セインが言った。
やり取りの間にも、オークはこちらに向かって走ってきていた。だいぶ近くまで来たので、照準を合わせてみる。反動がどれくらいあるのかわからないので、恰好は付けずに対ショック姿勢で、両手でけん銃を構える
(たぶん、こんなもんだろう・・・)
映画などのシーンを思い描きながら、走ってくるオークに向かって引き金を引いた・・・。
・・・
大きな音とともに、オークは1発で倒れた。
なんと、顔に命中。たった1発で即死であった。狙ったのは胸のあたりなのだが・・・。
コルノーと、その部下が倒れたオークに近づく。手には、ショートソードを持ったままだ。
そして、オークが絶命していることを確認すると
『今日はオークの丸焼きにしましょう!!』
『おおー!!やった~!!』
コルノーの声に、部下が歓声を上げる。今日の昼は豪華になりそうだ・・・。
・・・
休憩時間は延長され、解体されたオークの肉はロックのアイテムボックスに収納された。このメンバーは、皆、アイテムボックスの存在を知っているので問題ない。昼までに、もう少し先の休憩先に行くとのことで、馬車は、多少スピードを上げて走っている。
『すごいですね』
セインは波高が持つけん銃を見つめながらいう。発砲した直後は熱いので、波高はそのまま持っていたのだ。
『1発で仕留めたのはまぐれです』
波高は正直に言ったつもりだったのだが・・・
『さすが、異世界品ですね~♪』
『神聖な力・・・』
とロックとシャールカはけん銃を過大評価してしまっている。
波高が困ったといわんばかりの顔をしていると、
『素晴らしい威力だ』
とセインもわかっているのかいないのか・・・。
『たまたま、当たっただけですから・・・』
波高の説明は、セインたちには理解してもらえていなかった。
(けん銃の威力はわかったが、その威力を誤解されている。これはマズイ・・・)
波高の不安は高まってしまった。
・・・
馬車が止まった。よく見ると、街道の脇に広いスペースがある。そして、近くに小川が流れていて水が補給できる。
『ここで、オークを焼きましょう』
コルノーはすっかり上機嫌である。コルノーの部下たちも、オーク肉の食べ放題状態のせいか、異常に動作は早い。瞬く間にオーク肉の焼肉が始まった。
・・・
1時間も経っただろうか、9人で食べたがさすがに食べきれる量ではなかった。それでも20㎏くらいは減っている。波高はせいぜい500g程度しか食べていないので、他の8名が・・・(この世界の人は大食なのかな・・・って、セイン以外は昼食の習慣もないはずじゃ・・・??)。
さすがに食べすぎで、更に少し休んでから出発。馬車を引く馬さんが頑張ったのか、夕方には“ウルフィン”に到着。無事宿に泊まることが出来た。波高はオーク肉の食べすぎで、あまりお腹が空いていなかったが、他の8名は普通に夕食を食べている。それも、何故かオーク肉のステーキを・・・昼間沢山食べたはずなのだが・・・。
昼に残った肉は、途中の非常食とするらしく、宿の主と何やらコルノーが相談している。
『ちゃんと料理にしてもらった方が美味しいから・・・』
シャールカは呑気に言っている。そんなことしたら、アイテムボックスがばれるのではと波高は不安に思ったが・・・。何故か、出来上がった料理は、コルノーが用意した皿に乗せられ、ロックたちの部屋へ・・・。
(なるほど、皿ごとアイテムボックスに入れてしまう算段だな)
おびただしい量のオーク肉料理が部屋に運ばれていく・・・。
(でも、普通、おかしいと思うよな)
どういうわけか、この宿の主もその点に突っ込みを入れてくることなかった。
(王子の一行だから聞くわけにもいかないか・・・)
きっと、宿の関係者や他の宿泊者には、不審に思われたであろうが、とりあえず何事もなく夜は更けていった。
・・・
翌朝、何事もなかったかのように朝食をとったのち、出発した。
『コルノーさん、あの食器、どこで見つけたの?』
波高がコルノーに聞くと、
『部下に村の雑貨屋に行かせて買い占めたんですよ』
とあっけない返事。これで、食器には困らなくなりそうだ。
・・・
波高はベットの中で考えていた。
けん銃が使えることはわかった。しかし、今回は、まぐれあたりだ。恐らく、引き金を引いたときの反動で、オークの胸に当てようとしたのが頭に当たっただけ・・・。
火薬も存在しないこの世界では、けん銃は明らかに異世界の御業というべきものだろう。そして、このけん銃には、初代アンクス王が深く関わっているのは間違いない。でも、何故、ローマン王国に・・・。
いつの間にか、波高は眠りこけていた・・・。
・・・
翌朝、何事もなかったかの如く、皆で朝食をとり、9人はウルフィンを出発した。ふと村の商店を見ると、雑貨屋の主が急ぎ馬車を準備していた・・・。
『食器の在庫がなくなっちまった。ローマンまで買い付けに行かなくては・・・』
雑貨屋の主のつぶやきは波高たち9人に聞こえることはなかった・・・。
2022/4/14 誤記修正




