第18話 中央基地へ
食堂で朝食を食べた後、格納庫から機体を昇降機に移動させる。波高一人では動かないので、3人にも手伝ってもらう。移動した後は、車止めをして、4人ともコントロールルームへ。昇降機を操作して丘の上(滑走路脇)に持ち上げる。持ち上げるといっても、ボタン一つで動いてくれるので、何の問題もない。モニタで、無事、丘の上に機体がついたことを確認して、4人でエレベータに乗り込む。ボタンを押すとドアが閉まった。
・・・
何故か、今日も風もなく穏やかな天気である。波高は機体の点検をしたのち、後席の2人に乗ってもらった。続いて波高がのり、最後にセインを右席に乗せる。ドアを閉め、エンジンを掛ける。特に異常はない。ランナップを行ってから、滑走路の南端に機体をタクシーしていく。
3人も、2回目なので、なにも説明してなくても大丈夫そうだ。出発前にトイレにも行ったようだし・・・。
朝二(午前10時)くらいに離陸。まあ、こんな状況だから正確な離陸時間はあまり関係ない。そのまま上昇して9000ftに水平飛行。あとは4時間ひたすらまっすぐ飛行するのみ・・・。
・・・
途中はつまらないから省略。
セインがアンクスペイ(アンクス王国の首都)が見えるとか騒いでいたけど・・・。途中、機内で、肉(多分オーク肉?)をパンで挟んだものを食べ、ローマンが見えたころから降下開始。VORを中央基地に合わせていたので、迷うことはなかったが・・・。一体だれが作ったんだ・・・?
離陸から4時間後の昼一(午後3時)の1時間前(つまり、午後2時)に無事着陸。格納庫前までそのまま移動した後、面倒なので、そのまま4人で押して格納庫に押し込んだ。
念のため、燃料だけは補充して置く。ここにも討伐基地と同様の燃料タンクがあった。
森を抜けてハイム村に向かった。途中、三つ目ウサギが数匹出てきたが、シャールカの槍で討伐すると、ロックが持つアイテムボックスの貯肉になった・・・。
・・・
村ではノイマンが出迎えてくれた。それと、何故かローマン王国の兵が来ている。
『セイン様。ご無事でなによりです』
兵士の中の一人がセインに話しかける。
『コルノー!!』
セインが兵士に抱き着く。10歳の坊やの姿だ。
・・・
『コルノーは私の警護をしてくれていた隊長なんだ』
『今もです!!』
抱き合う2人を見守るように波高、ロック、シャールカがいる中、ノイマンがやってきて、
『まずは家の中へどうぞ』
とコルノーを含めた5人を村長の家に連れて行った。
・・・
コルノーは、王宮でのセイン王子の警護隊長だったようだ。突然、冒険者として出て行ってしまったので、途方に暮れていたという。その後、王命で、ハイム村で発生した地震の調査をするため、部下を連れてハイム村に着いたところであった。
『コルノー。私は王命によって、異世界の方を召喚することが出来た。ここにいるウェブハイトさんだ』
『おお。では瘴気の発生は・・・魔物はいなくなるのですね』
コルノーは、セインが王命を成し遂げたことに感動していた。
『コルノー。事はそんなに単純ではない』
10歳とは思えないセインの発言にコルノーは硬直した。
『ええ~!これで、王宮に戻れるのでは?』
『私は瘴気を封印するまで王子に戻るわけにはいかないようだ』
セインはあきらめるように下を向いた・・・。
・・・
セインが黙ってしまったこともあり、波高が討伐基地での出来事を説明した。
『では、この世界では存在しないはずの設備が整った施設があって、瘴気封印装置という巨大な装置があったと・・・』
波高が頷く、
『瘴気の発生地点は5か所あり、その全てを封印しないといけないというのじゃな』
ノイマンが波高に確認する。
『いや。ちょっと違う。その5か所に瘴気封印装置を機能させるブイを設置した後に装置を稼働させないといけないということだ』
『1か所は大陸北の森にあるのは間違いなさそうだが、他はどこにあるのだろうか・・・』
コルノーは素朴な疑問をかけてきた。
『もし、大陸北の森にだけブイを設置して装置を動かしたときは・・・』
『瘴気封印装置にあった紙には、他の瘴気発生個所から瘴気が出てくるらしい・・・』
『つまり、魔物が別の場所から発生する!』
『そういうことだ』
コルノーと大葉の会話が続く・・・。
『他の4か所がどこなのか調査が必要だろう・・・』
・・・
突然、コルノーが天井に剣を突き刺した。他のものはあっけにとられている。と次の瞬間、天井から人が落ちてきた。
『何故わかったのよ~!!』
落ちてきたのは右腕から血を流す少女であった。
・・・
とりあえず、簡単な治療をしてから、この少女を縛り上げ、事情を聴くことに・・・。
『お前の名前は?』
コルノーが尋問する
『・・・』
『どこから来た』
『・・・』
『だれの指示でここに来た』
『・・・』
予想通り何も答えない。
そうしているうちに時間が経って・・・
<<グー>>
少女のお腹から音が出た。
『食事にしましょうかの・・・』
ノイマンが言うと
『なにか私にも食わせてくれ!!』
(しゃべった!!)
食い物の要求だけはしてくる少女であった。
・・・
とりあえず、コルノーの部下にこの少女は見張らせて、ノイマンの用意してくれた食事をとる。ボナとロナも同席した。もちろん、天井から落ちてきた謎の少女の分はない。
『シャールカ姉さんが無事帰ってきた』
とボナとロナは嬉しそうに声をそろえた。まだ、終わっていなのだが・・・。
『魔物が出ないようにするまで、頑張らないといけない・・・』
まるで自分に言い聞かすようにシャールカが言うと
『シャールカ姉さん、またどっかいっちゃうの?』
ロナが寂しそうに聞いてきた、
『大丈夫。きっと魔物のいない世界に戻してみせる』
シャールカはボナとロナに約束するのだった・・・。
・・・
波高は、ノイマンの用意してくれた食事を食べ終わった後、先ほどコルノーが尋問していた少女のところに戻っていた。少女の近くにはコルノーの部下が少女を監視している。
『ねえ、何か食べものを頂戴!!』
少女が波高に言った。
『あげてもよいが、コルノーの質問に答えてくれないと・・・』
波高は諭すように少女にいった。
『いうわけにはいかないのよ!!』
少女は波高を睨みつけた。とっさに波高は目をそらす・・・と気が付いた。彼女の服にあるポケットに何か入っている。波高は、コルノーの部下を呼び、少女を押さえつけてもらう。そして、少女のポケットから中に入っていたものを取り出した。
『あ、それはダメ!!』
少女が叫ぶがかまわず確認する。それは身分証のようなものであった。
波高はこの世界の文字がわからないので、コルノーの部下に呼んでもらう。
コルノーの部下は
『アンクス王国 近衛軍 シルダ特殊兵 と書いてあります。』
と叫んだ。
波高は少女に向き、
『アンクス王国の特殊兵が、こんな村に来たのは何故なんだろうな~』
と言ってみる。少女は身元がばれたせいか、がっくり下を向いていた。
『まあ、想像がつくだろうけど・・・私は異世界から召喚された、なみ・・ウェブハイトだ』
『!!!』
下を向いていた少女が突然、波高の顔を睨む。
『まさか、本当に・・・』
少女はつぶやいた。
・・・
空腹に耐えかねたのか、少女はあきらめたように話し出した。
『ビスマルク様の命により、ハイム村にある初代王様が関わったしい遺跡を調べ、ローマン王国が、遺跡で何をしているか調べることが目的だ』
アンクス王国には、いろいろ聞かなくてならない。何せ、いままで書いてあった日本語の書類たちには、“初代 アンクス王” の署名があった。初代アンクス王が、この遺跡に大きくかかわっていることは間違いない。だが、明らかこの世界のものでない2つの基地の存在、謎の“瘴気封印装置”についてあまりに情報が少なすぎた。
『シルダ、条件がある』
波高は、少女に向かっていった。
『あんたに女にされるくらいなら、死んだ方がまし!!』
シルダが叫ぶ。
『そんなことは求めない。私はロリコンではない』
『ろりこん?』
『瘴気を封印するためには、初代アンクス王の残した情報が必要だ。そのために、アンクス王国の協力が必要だ。』
『・・・』
『私をアンクス王国に連れて行ってほしい。そして、初代アンクス王のことについて調べさせてほしい』
少女は、自分の体を要求されているわけでないと理解したのか力が抜けたようだ・・・。と床に水たまりができている・・・。
『こら、漏らすな!!』
コルノーの部下が慌てて、少女を連れて行った・・・。
・・・
気が付くと、食事をしていた皆がこちらに来ていた。
『話は聞かせてもらったよ。アンクス王国に行くんだね』
セインは納得したように話す。
『セインは、ローマンに戻って今まで内容をローマン国王に報告すべきだろうと思うよ~♪』
とロックが話すと
『私も一緒に行く!!』
とセインが言い出す。どうやらアンクス王国に行く気らしい・・・。
『王子は、遺跡にいって異世界者を召喚するように陛下から命を受けておられたのだから、その報告が必要です』
コルノーは、冷静にいった。
『であれば、ウェブハイトさんもつれて王宮に行かねばならない』
セインは反論する
『なんとなく思うのだが、ウェブハイトさんは、王宮とかあまり好きそうではない気がするのだが・・・』
(ギク!!)
そんなことは言ったことはないが、権力権威とかは好きではない、波高の心をいつの間にか読み取っていたようだ。
『でも、何のあてもなく、アンクス王国が初代王のことを教えてくれるとは思えないのだけども・・・』
シャールカが話に入ってくる。
『さっき捉えた少女・・・いやアンクス王国の特殊兵シルダをこのまま放し、アンクス王国に帰ってもらおうと思う』
((???))
波高の発言に皆が波高の方を向いた。
『シルダには、アンクス王国に戻ってもらい、私の存在を伝えてもらったうえで、私が瘴気の封印に協力してほしいと思っていることを伝えてもらう』
『アンクス王国が応じるとは思えないぞ』
セインはいう。
『その可能性もあるので、ローマン国王にアンクス王宛ての書状を書いてもらう』
『つまり、ローマン王国からの正式な協力要請というやつか』
セインは妙に納得している。
『では、その使者は私が行かねばなるまい。』
とセインが言ったとたん、
『王子は大事な次期国王。そんな危険をさせるわけには・・・』
コルノーが口を挟む。
『既に、今回の王命がそれ以上に危険な気がするが・・・。今更、途中で引き下がれるわけがないだろう』
とセインがいうと、コルノーはがっくりと顔を下に向けた。
『当然、ついていくよ~♪』
『瘴気の封印を見届けるまでお供します』
ロックとシャールカは、当たり前と言わんばかりであった。
『コルノーも王子の護衛につかせていただきます!!』
『今日はゆっくりここで休まれるといいのじゃ』
ノイマンの一言でこの場は解散になった。
・・・
波高はノイマンに頼んで、シルダに食事を用意してもらった。
既に、シルダを縛っていたものはない。が、少女は、目の前の食事を一言も話さず、ひたすら食べていた・・・。
『このままシルダを開放する。アンクス王国に戻って報告してくればよい』
((???))
口にパンを詰め込んだシルダが食べるのをやめて、波高の顔を覗き込む。パンを飲み込んだ後、
『いいのか?』
とだけいうと、再び食べ始めた。
『シルダに命令したのはビスマルクといったな』
『そうだ、アンクス王国の宰相様だ』
少しは落ち着いたのか、波高の問いに食べながらではあるがシルダは答えてきた。
『その宰相様によろしく伝えといてくれ。瘴気を何とかしたいので、協力してくれと』
波高は、シルダの顔を覗き込む。
『わかった。ビスマルク様に伝えることは約束する』
ほぼ食べ終わったシルダは、波高を見ながらいった
『では、食べ終わったら出発してくれ』
『わかった』
・・・
解放されたシルダは、アンクス王国に向かって夜道を移動していた。
(なんて甘い奴なんだ。異世界からの召喚者って奴は・・・)
2022/4/14 誤記修正