第14話 離陸
翌朝、再び森を神殿・・・いや飛行場、ファイルには中央基地(神殿)とあったのだから中央基地なのだろう・・・に向かった。村民が護衛にといったが、森にいる魔物は村民では手に負えないようだったので、セイン、ロック、シャールカ、そしてウェブハイトこと波高の4人で向かう。
『怪我は大丈夫なのですか?』
波高はロックとシャールカに確認すると
『なんのこれしき、大丈夫』
『ボナが薬草を縫ってくれたから』
と本当に大丈夫なのか疑問の残る問いに波高は苦笑した。
(こいつら、死にそうになっても大丈夫って言いそうだな・・・)
・・・
森の中には三つ目ウサギが数匹現れたが、シャールカが槍のひと突きで倒してしまった。
ロックがすかさず、アイテムボックスに入れてしまう・・・。
『今、ウサギを倒しましたよね。』
突然消えたウサギに驚く波高。
『ウェブハイトさん。これはアイテムボックスというものらしくして、無限にものが収納できるらしいのです』
ロックはアイテムボックスの説明をする。
『この世界では、アイテムボックスは普通にあるのですか?』
波高は驚いて、ロックの方を向く。
『いえ、大陸の南の遺跡に行ったとき見つけました。他に存在するいう話を聞いたことがありません』
この世界には、ファンタジーの定番である魔法は存在しないらしい・・・にも拘わらず、アイテムボックスだけは存在する。
『ひょっとして、獣人とかいたりします?』
『獣人って何?』
波高が獣人というものを説明した途端、3人が笑い出す。
『動物はいますが、獣人は聞いたことがないです』
セインが破顔状態で答える。
『危ない!!』
シャールカの槍がセインの背後突いた。
『なんじゃこりゃ』
<<4人の声が揃った>>
シャールカが突いたのは、デザードであった。森の中にトカゲ・・・。ま、いてもおかしくないかと思う波高であったが、他の3人の様子がおかしい・・・。
『こんなの見たことがない』
そう、この大陸には、デザードはいなかったのだ。
・・・
尾を振り回すデザードに苦労しながらも、何とか倒したセイン、ロック、シャールカの3人であったが、そのせいもあって、朝一に出発したにも拘わらず、中央基地の格納庫についたのは朝二を回っていた。
波高は、トーイングトラクターを使って、機体を格納庫から出した。どういうわけか、この基地には魔物は入ってこないらしい。それらしい痕跡は基地のどこにもなかった。
食事を用意する3人を置いて、波高は1人神殿という名の管制塔に向かう。階段を上り、神殿にはいると、南側を眺めてみた。
雲一つない快晴の空である。大山脈(といっても2500mくらいの山々)が遠くに見える。
ハイム村で聞いた話では、この時期はほとんど雨が降らないとのことだった。
(気象情報がないのはつらいな)
飛行機で1000km先となると、往復するだけの飛行はできないので、行った先の天気がどうであれ、討伐基地に着陸しなければならない。
(本当に飛行場があるのだろうか・・・)
いざとなったら、どこかに不時着する覚悟である。
・・・
セインたちのところに戻ると、食事が出来ていた。といっても、アイテムボックスから取り出しただけらしい、パンと三つ目ウサギの肉のサンドイッチ(みたいなもの)であった。
(これなら、飛行中でも食べれたな・・・)
波高は、セインたちに、飛行時間が4時間くらいの見込みであること伝え、途中、席に座り続けないといけないことを説明する。排泄をすまさせた後、1人づつ機内に案内する。
シートベルトも波高がセットしなければならなかった。そして、耳にヘッドセットを付けさせる。
『これは何ですか?』
セインが聞いてくるが、適格な言葉が見つからない。
『この装置を使わないと飛行中は会話ができないのです』
とりあえずそう言って無理やりつけさせた。
・・・
何とか3人の準備が終わったところで、格納庫で見つけたあるものを操作する。
『扉が勝手に閉まった!!』
3人が叫ぶ。ドア開閉のリモコンがあったのだ。
(一体どうなっているんだか・・・)
波高は深く考えないことにした。
出発前点検を行い、エンジンをスタート。その音にセイン、ロックシャールカの3人の顔が引き攣った。
『こういうものなので、慣れてください』
波高がヘッドセットを使ってしゃべると、
『声が聞こえた!!』
と更に驚くのだった。
無線で交信する相手はいないはずであるが、一応、アビオニクスの電源は全てONにした。
ランナップした後、滑走路へ。
魔物などいないことを確認して、滑走路の一番北の端へ。ランウェイ番号はさすがになかったが、何故か、センターラインだけはあった。
(不自然すぎるとしか言いようがない・・・)
・・・
朝二を1時間ほど過ぎたころ(午前11時ころ)に離陸、機体には違和感はない。飛行機を知らない世界の人たちなので、できるだけ高度を高くとって、9000ft(約2700m)まで上昇。気圧がわからかったので、離陸時に海抜0にセットしておいた。こうすれば、2500mの大山脈を超えられる。VORは熊本空港にセットしたままだったので、そのまま
アウトバンドで進路180°で飛行(磁場はあるらしい)。
水平飛行になったところで、RMIは中央基地に合わせたまま、HSI (Horizontal Situation Indicator)を112.4MHzに合わせてみる・・・。
おっと、反応があった。調整してみると、方位170°から電波が来ていることがわかる。さすがにDMEは表示されない。普通はこんな遠くまで届くはずはないのだが・・・。出力が大きいのだろうか・・・。
水平飛行になって方位を合わせると、あまりやることがない。約4時間なので、HSIの動きを確認するばかりである。ここでセインたちの様子を見ると・・・。
初めての上空に硬直していた。さっきから1言も発っさない。
『しばらく安定して飛行しますので、外でも見ててくださいね』
(・・・)
どうやらセインたち3人には、そんな余裕はないらしい。
年末年始は毎日投降予定です。1月3日まで・・・多分。