第12話 話し合い
セイン、ロック、シャールカ、そして波高は森を抜け、ハイム村に移動した。森など歩いたこともない波高は、3人に守られるように移動している。
『ここって、熊とかでないですようねえ』
ウェブハイトが隣にいたセインに聞く。
『熊は見たことがないですが、魔物はいます』
セインは真面目に答えたが・・・
『ええええええええええええ~危ないじゃないですか!!』
思わず、波高は叫んでしまった。
『ちょっと、魔物がきちゃうでしょうが!!』
シャールカが声を荒げる。
『すいません』
事情が判らず、ただただ恐怖を感じる波高であった。
・・・
ハイム村は混乱していた。突然の地響き、大きな地震、この世界では、地震など普段は起きないので、村人は
『神殿の祟りだ~!!』
などと口走りだした。その後、空から聞いたこともない大きな音が響き、西の空に診たこともない鳥の姿を村人が見つけた。
『無事。召喚できたのだろうか・・・』
ノイマンはつぶやいた。ノイマンの両手はボナとロナがそれぞれ握り、ノイマンにしがみついている。
『怖い』
ボナとロナが同時につぶやいた・・・。
・・・
日も落ちかけたときに、セイン、ロック、シャールカがハイム村に戻ってきた。
『帰ってきた!!』
ボナとロナが同時に叫んだ。その声を聴いて、皆が出てきた。
皆は全身傷だらけのロックとシャールカを見て驚くが、無事そうな姿に安心したようだ。そして、見たこともない人物がセインたち3人に守られるよう現れた。見たこともない恰好でしている・・・。
・・・
『おかえりなさい。シャールカ姉さま』
ボナがシャールカに駆け寄る。
『ボナ。大丈夫だ。父上に召喚者を連れてきたと伝えてくれ』
ボナが、慌ててノイマンのところに走っていく・・・。
ボナはノイマンを見つけるや、
『シャールカ姉さまが召喚者を連れてこられました!!』
と叫んだため、村人全員が知るところとなった。
『とにかく、家に案内するのだ。それと怪我の手当てが必要じゃ』
・・・
村長の家に4人は収容された。というのも、村長の家に入るなり、気が抜けたのか、4人とも倒れこんでしまったのである。
『とにかく部屋にお連れして、治療をするのじゃ』
ノイマンの指示が家中に響いた・・・。
・・・
しばらくして4人は気がついた。そして、怪我の治療が必要なロックとシャールカを除いて、セインとウェブハイトこと波高が応接室(のような部屋)に連れてこられていた。
『セイン殿、こちらが、召喚者殿なのじゃな』
『はい、ウェブハイトさんと言うそうです』
波高は黙っていた。どう見てみても、中世の田舎、それも多分、西洋の田舎のようにしか見えない村に、おそらく村長を思われる人物(西洋人のような姿の老人)を前に、警戒せざるを得なかった。
『ウェブハイト殿、わしはノイマンじゃ。この村の代表をしている』
予想通りの内容に安心した波高であったが、
『初めまして、日本のなみ・・ウェブハイトです』
『にほん?』
『私が住んでいる国です』
『興味はとってもあるがの。セイン殿、まずはウェブハイド殿にこの世界のことを説明せねばなるまい・・・』
『そうですね』
セインは、この世界のこと、瘴気のこと、召喚のこと・・・。
・・・
『私がこの世界に召喚されたことはわかりした。』
『先ほど、あなた方は神殿と言っていた場所に在った書によると、1000km南にある討伐基地に行かなければならないようです。そして、討伐基地には、先ほどの神殿のような施設があって、私の飛行機が着陸できるようになっているようです。』
『ひこうき?』
セインとノイマンが同時に反応した。
『それは、どのようなものじゃ』
『さっき、私が乗ってきたものです』
波高が答えたのに続いて、
『ウェブハイトさんは空から地上に降りてきました』
『見たこともない鳥のことじゃな』
『はい。ウェブハイトさんはその鳥の中から出てきました』
『中からか・・・』
波高は、飛行機について2人に説明した。エンジンとか計器などは、セインやノイマンには理解できないものだった。
『では、そのエンジンというものは、馬300頭分の力が出せるのですか?』
『そうです』
『あのものすごい音は、エンジンというものが動いている音なのか?』
『そうです』
『エンジンというものは、何の力で動いているのじゃ』
『AVGASという燃料を燃やしています』
『あぶがす とはなんじゃ』
『簡単にいうと、燃える水です。この燃える水を燃焼させた力で動いています』
『さっぱりわからん・・・』
それもで、波高の説明に、謎の力で空を飛ぶ馬車として飛行機を理解してもらった。
『で、その空飛ぶ馬車で とうばつきち なるところに移動するというのか?』
セインは恐る恐る尋ねてきた。
『それが、もっと早く、安全に移動できるでしょう。あの様子では、飛行場の周辺は魔物が出ないようですし・・・』
『ひこうじょう・・・』
波高は飛行場の説明をしなければならなかった・・・。
・・・
『私の飛行機は4人乗りですので、私を含め4人までしか乗れません』
『なんと』
『なので、明日、早朝に出発して、とりあえず討伐基地に行ってみましょう』
『わかった。ロックとシャールカも連れていく』
セインは空飛ぶ馬車に乗ることを決めた。
・・・
ローマン王国の王宮では、セインことを心配しているセントの姿があった。
『今ごろどうしているかのう・・・』
わずか10歳の王子にハイム村の遺跡に行って召喚をしてこいと言ってしまったものの、さすがにまずかったのでは思い始めていたセントであった。
『ブリトンの街からの報告によりますと、セイン様とロックと思われる冒険者が、オークを退治して有名になっているようです』
ロックのことが心配になって、ミグがブリトンに派遣した配下から報告を先ほど聞いていた。
『なんと、魔物を退治したとな』
『はい。信じられませんが・・・』
この時、慌てふためいて兵士が駆け込んできた。
『何事か!』
『ハイム村付近で地震が発生したようです。被害は不明です。ハイム村に通じる街道は、途中の橋が落ちているため、ハイム村に確認が取れておりません』
『至急、確認のための兵を向かわせろ』
『陛下!兵を向かわせるのは・・・』
『地震の確認のためであれば問題なかろう』
『なるほど』
兵士は、慌てて走り去っていった。
『地震などいままでなかったのに・・・神殿でなにかあったのでは?!』
セント王とミグは同時に同じことを考えていた・・・。
・・・
ローマンで地震があったらしい。この情報は何故かすぐに各国に伝わった。しかし、ローマン王国は、周囲を大山脈で囲われているので詳しいことはわからなかった。しかし、地震はこの大陸では普段起きないことであったため、不吉な出来事として認識されていった。
アンクス王国の王宮では、国王であるアンクス=フォン=ミクスが、宰相のビスマルク=ミゼルを呼び出していた。
『ビスマルク!!ローマン王国の北部で地震があったそうだな』
『はい、陛下。どうやら間違いないようです』
『お前は、先日の会議に出席してもらうため、ローマンに行ってもらった。何か変わったことはなかったか?』
『いえ何も・・・。ですが、ローマン王国には異世界からの召喚を行う方法があると聞いています』
『初代王のことか』
『はい』
『かつてこの大陸の瘴気を封印したという初代王の話はわしも知っている、が、まさか・・・』
『そのまさかではないかと・・・』
『ローマン王国が、再び異世界からの召喚をしたというのか?』
『この大陸には、地震が起きたという記録はありません。にも拘わらず、今回、地震が発生しています。確か、ローマン王国には、我らの初代王が作られたという神殿が遺跡として存在していたはず・・・』
『ローマン王国に調査させろと言ったが、断られたあれだな』
『はい。』
『隠密を派遣して調査させよ』
『仰せのままに』
・・・
ロンジン国では、首都モスビスの元王宮にて緊急の会議が招集されていた。
『諸君!瘴気から国を守るため、東の森との境界に壁を作る計画だが・・・』
この国の現在の支配者である、モスビス=ベルミーヤが、各部隊の幹部を招集したのである。
『元帥!!森との境はあまりに長く、そのような壁を作るには、あまりに膨大な費用が掛かります。』
『各部隊は、主だった街の防衛に手いっぱいで、人も物資もめどが立ちません』
出席した幹部たちからは否定的な話ばかり・・・。5年前にクーデターをお越し、国王と貴族を廃止したのまでは良かったのだが・・・。大量の亡命者や難民が南のロシジアに流れ、国の奪還を狙っている中、瘴気の発生は厳しい出来事であった。既に、魔物は国内各地に広がり、小規模な村はなすすべもなく壊滅していった。主だった街に部隊を向かわせ、ようやく、無理やり街を囲む城壁を設けたため、街の安全は確保したが、壊滅した村の復興が急務であった。そうしなければ、この国の食料事情に深刻な影響が出るからであった。
『今は、村の復興が最優先ではないかと・・・』
『大量の避難民を街が抱えた今の状態では、食料が尽きてしまいます・・・』
『むむ・・・』
『このまま瘴気に対して対策をとらないつもりか!!』
ベルミーヤは不満であった。民衆の支持の元、自分のファミリーネームであるモスビスに首都の名前を替えさせて、自分を崇めるように仕向けた政策がようやく浸透してきたところであった。瘴気で発生した魔物によって壊滅した村を復興しなければ民衆の支持も失ってしまう・・・。
『冒険者はどうなっている!!』
先日ローマンに行った際に設置を決めた冒険者ギルドであったが・・・
『冒険者ギルドは、モスビス、及び各街に設置しました。壊滅した村民の中には登録するものが出ていますが・・・』
『出ていますがどうした!!』
言いにくそうにしているモスビス駐在の隊長に対して、ベルミーヤはつい、声を荒げてしまった。
『はい。残念ながら戦闘力が足らず、魔物を退治できないものがほとんどです』
『なんと』
『我が国では、戦闘力のありそうなものは、兵士になっておりますので・・・』
国を安定させるために、軍の整備をした結果であった。
『冒険者ギルドに、街の兵士を派遣して、剣、弓の指導をしろ!!』
ベルミーヤの指示が飛ぶ。各街の部隊幹部たちは、民衆の反乱、とりわけ亡命した元貴族たちの煽動を防ぐため、兵士以外には武器を持たせないようにしていたし、できるだけ教えないようにしていた。だが、もはやそんなことを言ってられないという判断をしたベルミーヤによって方針転換することとなったのである・・・。
『他に気になる出来事はないか・・・』
ベルミーヤの一言に、ローマン王国との境、通称西峠と言われている部分付近の隊長から、
『ローマン王国で地震があったようです。また、鳥のようなものが目撃されたとの情報があります』
『鳥くらい我が国にもいるぞ』
『それが、ものすごい音を発しながら飛んでいたらしいのです』
ベルミーヤはローマン王国の遺跡のことは知らなかった。だが、軍人として経験からくる直感があった。
『その鳥について調査せよ!!』
それだけ言い放つと、他の出席者を置いて出て行ってしまった・・・。
・・・
ロシジア王国の王都、ロンガスにある王宮では、国王であるロンガス=フォン=ロイズが、頭を抱えていた。
友国であったロンジン王国のクーデターによって、大量の亡命者、難民がなだれ込んだ。更に、亡命した貴族たちが、国の奪還を図るため、ロシジアに挙兵を懇願してくる始末・・・。そんな中、瘴気による魔物の発生という問題が追加されたのだった。
『申し上げます。ローマン王国で地震があったようです』
執務室に近衛兵が駆け込んできた。
『慌てすぎじゃ』
ロイズはつぶやいた・・・。幸い、魔物は大陸の北側を中心に発生しているため、大きな被害はない。ロンジン国も国境近くに兵はいるものの、攻め込んでくる気配はない・・・。
瘴気の対策に追われていると思われるので、ロンジンが攻め込んでくることはないだろうとみている。
『謎の鳥のようなものが現れたとのことです』
『魔物か?』
『わかりません』
『ローマン王国に使者をだせ。地震と鳥について確認してくるのじゃ』
これだけいうと、ロイズは、執務室の奥にある私室に引き上げた。
『面倒がさらに増えた・・・』
波高=ウェブハイト