第11話 召喚者登場
ここから本話です。
『Kumamoto Tower JA4169 NOW T4 NOW RADY』
『JA4169 Wind 070 degrees at 4knots, ranway07 Tango4 cleared for take-off 』
パイロットからの無線連絡に、熊本Towerの管制官の離陸許可が出た。
スロットルを回し、エンジンの回転数を上げていく、滑走路を走り出した機体は速度を上げてゆく、73ノット確認、ローテーション。鉄の塊が宙に浮く。目の前に阿蘇の山が見える。そのまままっすぐ上昇して四国に向かう予定だ。
波高 進は、休日のお空の散歩を楽しもうと自身の機体に乗り込み、熊本空港を離陸したところである。平サラリーマンにも関わらず、飛行機の操縦免許をとり、自宅よりも高い金を払って、中古の飛行機を購入したのだった。
無線が通じない。ATISも聞こえない。あれ???
気が付くと一面真っ白になった。
(やばい、雲にはいっちまった・・・)
・・・
急に視界は開けた。が、そこは見たこともない景色であった。計器を見ると、方位090つまり東に飛んでいる。本来なら阿蘇山があるはずだが・・・それらしい山はない。
慌てて下を見ると・・・。
見たこともない滑走路が南北方向にある。理由はわからないが、ロストポジションの状態であることは明らかである。
『KUMAMOTO TOWER JA4169』
無線で呼びかけても応答はない。周波数を替えても応答はなかった。滑走路のように見えるところをよく見ると、管制塔のようなものが見える。まるで神殿のような見た目の頂上部分が何とも異様な感じである。
とりあえず様子を見てみよう。
滑走路の上空をローパスしてみる。どう見ても滑走路である。障害物らしきものもない。その時管制塔から緑の光が出ているのは見つけた。
(ライトガン)
緑の不動光は、着陸支障なし の合図である。
(とにかく着陸しよう)
ローパス後、左旋回して1マイルの距離をとり、滑走路端から30秒後にベースターン、大体の感覚で、ファイナルコースに入り、PAPIもないので、感覚だけで着陸した。さすがに1000回以上繰り返してきただけに、着陸だけなら問題なかった。
(よくわからんが、管制塔の近くに行ってみよう・・・)
管制塔前の空間と滑走路をつなぐ道があったので、そのまま進入して入っていく・・・。
・・・
神殿にいた3人、セイン、ロック、シャールカの3人は空から聞こえる謎の音の方を見ていた。白っぽいが、ところどころ赤い部分がある実に変な形をした鳥を発見していた。
『あの鳥、おかしくない。翼を動かしていない』
シャールカがつぶやいた。セインとロックも首を縦に振っている。
(鳥であれば、飛ぶために翼をはばたかすはずだが、まったくそのような感じもなく上昇している。明らかにおかしい・・・。)
そのうち鳥のようなものはいつの間にか出来ていた、石を一面に貼って平らにしたような部分を地面すれすれに飛び始めた。ここでセインは思い出した。
(そうだ、秘宝をあれに向け、この緑の部分を押さなくては・・・)
寝台から秘宝をとり、謎の鳥に向け、緑の部分を押した。すると、緑の光線が飛んでいくではないか・・・。しばらくすると、鳥のようなものは上昇し始め、その後、さっきと逆方向に飛び始めた。そしてゆっくり高度を下げていく。セインはひたすら秘宝を鳥のようなものに向け続けていた・・・。
鳥のようなものは地上に降りた。聞いたこともないものすごい音を響かせて・・・。
『いったいありゃなんだ~』
ろロックがいったとき3人は気が付いた、寝台の下に降りる階段があったのだ。
『とにかく、降りましょう』
シャールカの言葉にセインとロックが同意する。秘宝は大きくて、階段に持って行けそうになかったので、寝台において3人は階段を下りて行った。
・・・
管制塔の前まで機体を移動させた後、付近の様子を見てみる。明らかに日本の空港とは違う。敷地の境界は当然のようにあるフェンスもなしに、森が広がっている。見た目には外に行く道もない。着陸時に一瞬、集落のようなものが東に見えたが・・・どう見ても日本の風景ではない。
と思っていると、管制塔から人らしきものが3人出てきた。見た目は西洋人に用に見えるが・・・。
(いったいここはどこだ・・・)
取り合えずエンジンをカットし様子を見る。
よく見ると、ひとりは槍を持ち、あと2人は西洋剣を持っている。
(これはまずい、殺されるかも・・・)が、何故か剣と槍をかまえているだけで近づいてこない。
これは、勇気を絞って話にいくしかなさそうだ・・・。
・・・
階段を下りると扉があり、それを開けるを外に出ることが出来た。取り合えず、ものすごい音を出している鳥のようなものに地数いてみると、突然、音がやんだ。何か先端で剣のようなものが回っていたらしい。目に見えない速さだったので、てっきり丸いものがあるのだと思っていた。
(あんな早く回るものは見たことない・・・)
セインとロックはショートソードを抜いて構える。シャールカは槍をいつでも突き出せるように構えた。
そのとき、胴体の一部が突然開き、中から人が出てきた。両手を上にあげているのは何か意味があるのかわからんが・・・。そうしているうちに、人は鳥の翼から地上に降りた。そして一言
『殺さないでください。ここはどこですか?』
鳥から出てきた人が発した声を3人は聞いた。
・・・
明らかにひ弱そうな人らしきものだったので、とりあえず剣は握ったまま、近づいてみた。
そしてセインは直観的に理解した
(この人が召喚された異世界の人だ!!)
セインは剣を収めると、波高に近づいた。
『初めまして、私はローマン王国の王子 セイン、ローマン=フォン=セインです』
(???)
波高は混乱していた。ローマン王国など聞いたこともない。どう見ても、地球上で見たことがなさそうな感じ、いや、ヨーロッパにはいったことがないからそっち方面か・・・。
とっさに波高は考えた、
(ここは偽名を名乗ろう)
私は、日本の|波高《Wave height》です。
『ウェブハイトさんですね。』
セインは聞きなれない発音に、完全に勘違いしていた。
(この際、ウェブハイトにしておこう)
波高は平然を装いながら、
『はい、ウェブハイトです』
ろ答えた。
2人のやり取りを聞いて大丈夫そうだと思ったロックとシャールカも近づいてきた。
それを見たセインが
『こちらが仲間のロックとシャールカです』
『あなたは、この世界に私が召喚させていただきました』
(???)
波高は、自宅でライトノベルを読むことも好きな人間だったので、ライトノベルでよく出てくる “異世界召喚”というのは知っていたが、まさか自分の身に起こるとは想像もしていなかった。
(それに何故か飛行機に乗ったまま・・・)
『早速ですが、ウェブハイトさんには見ていただきたいものがあります』
セインが思い出していた。神殿内にある、召喚者しか読めない書があるということを・・・。
『ちょっと待ってください。準備しますので・・・』
波高はそれだけ言い残すと、ピトーカバーと車止めを取り出し、セットした。そして、機内に入れたままの、機体カバーを掛けた。
取り合えず、熊本空港に駐機しているのと同じ状態にしたのであった。
・・・
波高を加えた4人は再び階段を上り、神殿の内部にはいった。
『これは・・・』
波高には、まぎれもなく管制塔の姿であった。なぜあるのかはわからなかったが、無線機もある。但し、レーダーとかは見当たらない。
『ここに、召喚者、つまりウェブハイトさんしか読めない書があるはずなのですが・・・』
セインの言葉に波高は周囲を見渡す。本棚らしきところに何故か
管制方式基準
と書かれたファイルがあった。
とりあえず開いてみると、
中身は管制方式基準などではなく、以下のようなものであった。
=このファイルを見つけたものへ=
ここは、地球ではない。他の惑星である。また、時間も地球に文明が生まれるはるか以前の世界である。この世界は瘴気というものが発生する大地の上に存在している。瘴気はこの大地住む、全ての生き物の魂をもとに作られるため、永遠になくなることはない。なので、瘴気を完全になくすことはできない。だが、全ての瘴気発生を抑える方法を見つけることが出来た。そのための装置は、ここから南に1000kmほど先、この大陸の南果て付近に作った基地に設置してある。この世界の人には遺跡ということになっている。ここが目覚めると、討伐基地(そういう名前にした)にも、1000mの滑走路を備えた飛行場にトランスフォームするようになっている。
ここと、基地は、起動した後、太陽光発電によって、電波を出すようにしている
中央基地(神殿):112.8MHz
討伐基地(南部にある遺跡):112.4MHz
なお、AVGASとオイルは討伐基地にストックを置いている。
できるだけ早く討伐基地に向かい、瘴気を抑える装置を稼働させるのだ。
初代 アンクス王
波高は悪い冗談にしか見えなかった。どういうわけか日本語で書かれている。
(なんじゃこりゃ)
この周波数って、熊本と宮崎のVORと同じ・・・。きっと悪い夢を見ているんだろう・・・。
・・・
『ウェブハイトさん』
セインの呼ぶ声にハッとする。気が付くと、3人とも、心配そうに波高を見ている。
『瘴気を抑える方法というかその装置のある場所が書いてある・・・』
波高はセインたちに内容を説明した。セインたちには日本語は読めないようだ。
『ではすぐに行きましょう』
セインはすぐにでも出発しようとする。
『ちょっと待ってくれ。今何時だ。』
波高は既に午後らしいと感じて危険を感じたのだった。
『昼一くらいですねえ~』
ロックが日の位置から推定する。
『昼一?』
波高には意味が解らなかった、午後1時という意味ではなさそうだ。
『セイン王子、私はまだこの世界のことをほとんど知らない。まずは、この世界の常識をレクチャーしてほしい』
『わかりました。ハイム村に移動しましょう』
再び階段を下りて地上に降りた後、ハイム村に移動するとなったとき機体のことが心配になった。
まさか格納庫があるわけもないか・・・と周囲を見渡すと、
倉庫のように見える建物が管制塔の脇にあるではないか・・・。
(さっきあんなものあったかなあ~)
『ちょっとまってくれ、見ておきたいところがある』
波高は走って格納庫に向かう。
格納庫のドアは重かったが、手で開けることが出来た。中に入ってみると・・・。機体がちょうど入るくらいの大きさの空間があった。そして、どうしてあるのか、トーイング用のトラクターが置いてある。
とりあえず、トーイング用のトラクターに乗ってみると、キーがさしたまま、回してみると、何と電動であった。
(ひょっとして使えるかも)
アクセルを踏んでみると、トーイングトラクターは動き出した。セインたち3人は、呆然とこちらも見ている。
機内にあった手押し用のトーバーをセットし、無理やりトーイングトラクターに接続する。車止めを外して、そのまま格納庫の前までもっていった。慎重に気を使いながら格納庫に入れる。トーバーを外し、車止めをしてトーイングトラクターを空いたスペースに入れれば、全てが格納庫に収まった。
最後に格納庫のドアを閉めて作業終了。
(これでとりあえず大丈夫だろう)
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