あの頃の記憶の断片
小説家になろうでは初めての投稿になります。
よろしくお願いいたします。
仕事終わり。
都会の駅前の横断歩道、信号待ちのために足を止める僕。
秋も過ぎ、もう季節は冬。冷たい夜風が体の芯に突き刺さり吹き抜けていく。あまりの寒さに緑色のマフラーを口元に上げ、寒さを凌ぐ。
この季節になるとふと思い出すあの子のこと。
記憶の中に断片的に残っている。もうずいぶん昔のことだ。小学生、いやもっと前のこと。ちょうどその頃も冬だった。
僕はある日、ある女の子と出会った。保育園に通ってた頃だ。
その子はとても活発で明るくて、誰に対しても笑顔を向けているそんな子。控えめで臆病で恥ずかしがりやな僕とは正反対の子だ。
僕は親の仕事の都合でよく引っ越しをする子だった。その影響でいろいろな場所を転々としていた僕は言わずもがな友達なんていなかった。遊ぶときはいつも一人隅っこで遊んでいた。
そんな時、その子が声をかけてくれた。
あれは、保育園の帰り際、お迎えにくる親を待っていた時だったと思う。
「ねぇ、なにしてるの?」
あの子からしたら、隅っこで遊ぶ僕に対して疑問を持ち声をかけてくれたんだと思う。
僕は別の意味で疑問だった。なんでその子は僕なんかに話しかけてくれるんだろうって。園に馴染もうとさえしない。ましてや距離を置いている僕なんかに。
「一緒にあそぼうよ」
僕は差し伸べてくれたその子の手を取った。
そこから僕らは毎日のように一緒に遊ぶようになった。
保育園に親が迎えに来るまでの間、その子との時間を有意義に過ごしていた。
「はやくはやく」
その子が僕を呼んでくれて、その子に着いて遊びまわる。
その子からはほのかにみかんのような柑橘系の香りがしたことをいまでも覚えている。
ある時は一緒にブランコをしたり、またある時は一緒に滑り台をしたり、僕にとってその子はかけがえのない存在になっていった。
その子との出会いを機に僕の周りは変化していった。
その子を通じて友達と呼べる人も少なからずできた。また、独りで遊ぶこともなくなり、園になじめるようになっていった。
その子は僕にとって大切な人だった。
そんな時、僕が保育園から家であるアパートに帰ると、廊下に段ボールが連なっていた。
僕はなんとなく察した。また別の場所に行くんだって。
そこからあっという間に時間は過ぎて、引っ越し当日。
僕は親に連れられてお世話になった先生に挨拶にいった。
先生と親、そんな二人の話より、僕はあの子に会いたかった。一人だった僕を変えてくれたあの子に。
でも、それは叶わなかった。園の門を抜けるまであの子を探し続けていたけど、結局、会えなかった。
名前はわからないその女の子。
卒園までその園にいれたら、卒園アルバムなんかから、名前を知ることができたかもしれない。
せめて名前だけでも知りたかった。
もし、引っ越してなんてしていなければ、その子と一生の友達になれたかもしれない。その子だけじゃない。その子を通じて出会った園の友達とも、大人になって同窓会なんかで飲み合える仲になっていたかもしれない。
あの頃は身も心も子供だったから、引っ越しが多い親を恨んだっけ。
なんて記憶の断片に触れていると、信号が変わったことを示す音が鳴り響く。
その音で我に返り、横断歩道に足を進めていく。もう一度、もう一度でいいから
「あの子に会いたい」
そんなことを心のなかで呟いてみる。
沢山の人が行き交う都会ならではの横断歩道。横断歩道の真ん中に差し掛かったあたり。ふとすれ違った女性からは懐かしい憶えのある柑橘系の香りがした。
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初投稿という事で文章や構成等、ポイント等付けて頂けると今後に活かしていけるのでよければよろしくお願いいたします。