81 公爵令嬢は10歳になる
10歳の誕生日パーティー当日。
日が暮れ始めた頃、フィアンマ公爵家のお屋敷に続々と招待客が訪れてきた。
今日の私の誕生日パーティーは、かなり大きな催しになる。
なんせ、国内でも名高い名家の令嬢で、人気の料理や流行りの娯楽をいくつも発明し、わずか7歳で男爵領の領主になり寂れた土地を発展させた、この国で唯一錬金魔法が使える、第三王子の婚約者だから。らしい。
肩書き多いわ!
5歳の誕生日の時には、ポテチ作った以外の肩書きなくて寂しい思いをした事もあったけど、ちょっと今の私って情報過多すぎる。
ただ単にジャンクフード食べたくて、暮らしを便利にするだけのつもりだったんだけどなぁ。
そういえば、俺と一緒になってもう5年かぁ。
本当に色んなことがあったなぁ。
魔法の世界なんて馴染めるのか不安だったけど、思ったほどなんて事なかったし。
何より、この国がとても平和で良かったよ。
パーティーの時間になり、主催者が入場する。
扉が開いて、皆がこっちを向いて、壇上までの道が自然と作られた。
ただ、その道を進むのは、お父様とお母様、お兄様だけ。
3人が壇上に立ち、私を残したまま主催者の挨拶が始まる。
さぁ、ここからが本番。
挨拶が終わると同時に、火属性魔法で非常灯以外の灯りが全て消される。
騒めき立つ招待客。
再び扉が開かれ、そこに現れた真っ白なシルクのドレスを着た私は、膝をつき両手を組み、祈りのポーズをしている。
髪は一つにまとめ上げて、ダイヤモンドのイヤリングとネックレスを一際目立たせている。
私は立ち上がり、会場の暗闇の中へ、一歩、また一歩と、ゆっくりと入って行く。
私の歩く道を記したロウソクに、私が近づくと同時に灯が灯る。
そのロウソクの炎は通常の炎と違い、赤、黄、緑、青、紫と色とりどりに燃えている。
真っ白なドレスとダイヤモンドは、その鮮やかな炎の色を吸って、如何様な表情を見せる。
壇上に近づくにつれて、その炎は大きくなってゆき、会場をじんわりと照らしていた。
私が壇上へ登りきり、観客へ振り返る。
その瞬間、私の背後に並べてあったロウソクが一斉に虹色に燃え上がる。
その形は、天使の翼。
ワァッと一瞬声が上がるけど、そこでおしまいじゃない、もう一芝居。
両手を広げて、左右の手に虹色の炎を灯す。
段々と炎を大きくし、二つの炎を一つにして、炎を天へ投げる仕草をする。
その瞬間、会場の灯が全て付き、ロウソクの炎は全て消えた。
「本日は、私の10歳の誕生日パーティーにお集まり頂き、ありがとうございます。
先程の演出は、楽しんでいただけましたでしょうか。
本日の料理は、これまで私が作ってきたものです。
ご歓談頂きながら、お食事もぜひお楽しみください。」
拍手喝采が湧き上がる。
あぁー、恥ずかしかったァァ。
自分で企画しといてあれだけど、ここまでするつもりはなかったんだよ。
最初は、化学反応で色んな色のロウソクを作って、これをデビュタントで使えるかなーとか程度だったんだよ。
なのに、お母様とリッカとレベッカちゃんが「聖女っぽく」とか「いや、天使に」とか「女神にしよう」とか段々盛り上がってきて、最終的にアレになった。
練習通り上手くいったし、周りの反応も良かったけど、あんな恥ずかしい事二度とやんない!
会場に降りると、すぐに囲まれてしまった。
「先程の演出は本当に素晴らしかった!
是非、我が娘のデビュタントでもお願い出来ないだろうか!?」
「あの虹のロウソクは、どこで手に入るのでしょうか?
私にも是非譲ってくださいな!」
「その大粒のダイヤモンドは、フランドール様がお作りになられたのかな?」
あぁ、貴族の大人ってうるさい。
でも、私も今日から社交界デビューだし、今後もこう言った付き合いしていかないといけないんだよね。
男爵なんだし、辺境地の下級貴族として細々と過ごしていきたい……
と思ったけど、私下手したら王妃になるんだよね……
ロナウド王子には申し訳ないけど、婚約した事を一瞬後悔してしまったわ。
「フラン!」
おっと、噂をすればロナウド王子。
今日は王妃様とご一緒だった。
私の周りから人がサッと離れる。
私はカーテシーで二人をお迎えする。
「頭を上げなさい、フランドール。」
王妃様にそう言われて姿勢を正す。
実は、王妃様とお話しするのは初めて。
お母様は王妃様と仲が良くて、お茶会にもよく呼ばれてるんだけど、私は参加した事ない。
一気に緊張して来た。
「ふふっ、アーノルドによく似ているのに、とても可愛らしい顔をしているのね。」
「勿体無いお言葉です。」
「そんなにかしこまらなくていいわ、貴女はロナウドの婚約者なんですから。」
そうは言っても、今まで挨拶もせずいきなり息子さんの婚約者になりました!とか、失礼なんじゃないの?
とは言っても、お城にお伺いした時にいらっしゃらない事が多くて、婚約が決まってからも会えなかったんだよね。
「そう言えば挨拶がまだでしたわね。
私、アースフィールド王国王妃 シャーロットと申します。」
「フィアンマ公爵家子女 フランドールと申します。」
「ミリアンや陛下からお話をよく聞いていますわ。
一度、ゆっくりとお茶でも飲みながらお話ししたいと思っているの。
是非、遊びにいらして。」
「ありがとうございます。
お伺いさせて頂きます。」
「母上、少しフランと話をしていますので、ミリアン夫人のところへ行ってください。」
「わかったわ、ではまた。」
そう言って、王妃様はお母様の元へ向かって行った。
その後ロナウド王子は、私と一緒に大人達の相手をしてくれた。
流石王子なだけあって、社交場に慣れていらっしゃるわ。
大人のあしらい方が上手い。
勉強になるなぁ。
一通り挨拶を終えた頃、音楽が流れ始めた。
遂にダンスの時間になってしまった。
バクバクと心臓が鳴り始める。
ロナウド王子の手を取り、会場の中心に向かい、ダンスを踊る。
一年前に比べると随分マシにはなったけど、それでも下手には変わりなく、緊張も相まってガッチガチで不格好になってしまう。
周りの目が気になって、ダンスに集中出来ない。
そしてステップを間違えてしまう。
やってしまった。
遂に動けなくなってしまった。
今日一番のパニック。
「落ち着いて。
間違えてもいいから。
もっとダンスを楽しもう。」
ロナウド王子が優しく励ましてくれた。
楽しむ余裕なんてないんですけど!
「好きにステップを踏んでみろ。
俺が合わせてやる。」
アドリブなんて無理無理!
「大丈夫だから!
俺を信じろ!」
泣きそうになった私の目を見て、ロナウド王子は力強くそう言った。
……もう一度、頑張ってみる。
ステップを踏み始めると、ロナウド王子は合わせてついて来てくれた。
途中間違えてロナウド王子の足を踏んでしまったけど、「大丈夫、続けよう」と言ってくれた。
この人となら、ダンスが踊れる。
そう思った頃に曲が終わった。
二曲目が始まる前に会場の端に行き、ダンスの場から退場。
「先程はありがとうございました。
そして、足を踏んでしまい、申し訳ありませんでした。」
「ああ、大丈夫。
こういうのは慣れだから。
普段はもっと上手に踊れるんだし、気にしなくていい。」
無様に終わっちゃったけど、なんとかダンスが終了して良かった。
「フランさん」「フランちゃん先生!」「フラン様」
セシル様、ポスカ君、リリーちゃんが来た。
ロナウド王子と婚約してから皆んなに会うのは初めてで、変な気持ち。
「ダンス、よく頑張りましたね。」
ありがとうセシル様、「よく踊れてましたね」とは言いがたい姿でしたが。
「僕もフランちゃん先生と一緒に踊りたい!」
断固拒否致します。
「入場の際の演出、とても素晴らしかったです!
フラン様があまりに綺麗で、思わず見惚れてしまいました!」
ちょ、大袈裟に煽てすぎ! 恥ずかしいから!
「それと、ロナウド王子、フラン様、ご婚約おめでとうございます。」
「良かったですね、ロナウド。
フランさんが婚約者だなんて、羨ましいです。」
「僕だって、フランちゃん先生の婚約者が良かったのになー。」
「な?みんな相変わらずだろ?」
本当だ、いつも通りだ。
「どうかしましたか?」
「ううん、これからも仲良くしてね。」
「なんで当たり前のことを言ってるの?
僕たちずっと仲良しでいるんだよ?」
「そうですよ、何があってもフランさんと一緒にいますから。」
「約束しましたでしょう?
ずっと一緒にいさせてくださいと。」
「そうよね、うん、ずっと一緒よ!
ありがとう、皆んな大好き!」
「では、もうすぐ曲が始まりますし、早速一緒に踊りましょう。」
「あ! 僕も!」
だから断固拒否します!!





