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72.5 聖女は悩みを打ち明ける

私はすごく悩んでいた。


フラン様に、悩みを打ち明けようか。



フラン様は本当にすごい人だった。


頭がすごく良くて、料理が出来て、魔法も上手で、お友達が多くて。


ダンスが少し……いえ、かなり下手だけど、凄く努力家で、空いた時間に一人でも練習しているのを見かけた。



初めて成認式で見た、素敵なドレスを着た綺麗な女の子が壇上で凛としていたあの姿は、今でも忘れられない。


その時はまさか、私がその子の横に並ぶなんて思っても見なかった。


平民出身の貧しい家庭に生まれた私。


そんな私が魔力保持者、しかも、光属性で魔力量が10レベルと言う。


こんな力、欲しくなかった。


ずっと、お父さんとお母さんと一緒に暮らしたかった。


そんな悩みを、フラン様が聞いて迷惑にならないだろうか。




ティータイムの後、私はフラン様に呼ばれて話をした。


「リリーさんは、今楽しい?」


その質問に驚いて、固まってしまった。


「なんだか時々、笑顔を無理矢理作ってるように見えたから。」


「そ、そんなふうに見えましたか!?」


「ええ、まるで、心の底から楽しめていないような。」


この人は、人の心が読めるのだろうか。


たった数ヶ月程の付き合いなのに、何でそんな事が分かるのだろう。


「無理に言わなくていいわ。

辛い事を告白するのは、とてもパワーがいるもの。

もし、私を信用してくれて、悩みを打ち明ける覚悟ができた日には、私を頼ってちょうだい。

私は全力で貴女の支えになるから。」


……本当にこの人はすごい。


悩みを打ち明ける勇気がない私を、待ってくれると言う。


そしてその時には支えてくれると言う。


私と同じ歳のはずなのに、ずっと前から生きてきたかのような頼もしさ。


今まで出会ったどの大人よりも信用できる気がする……


この人になら、話せる。


意を決して、その日の夜、フラン様の部屋へ訪れた。




「こんな夜中にどうしたの?

眠れないの?」


「あの、私……

フラン様に聞いてもらいたい話があるんです!」


「ええ、分かったわ。

頼ってくれてありがとう、話を聞かせてちょうだい。

もし辛くなったら、話を途中でやめても大丈夫だからね?」


「いえ、最後まで話させてください。」




私は、ダーズリン伯爵領の小さな村で、オレンジ農家を営んでいる家庭に生まれた。


優しいお父さんと愉快なお母さんと一緒に、裕福ではないけど明るく楽しい生活をしていた。


成認式の日までは。


成認式が終わった瞬間から、私の養子の申し込みが殺到していた。


でも、私はお父さんとお母さんと離れたくない。


ずっと一緒に過ごしたかった。


その事を両親に伝えると、二人とも笑顔で「いつまでも一緒にいよう」と言ってくれた。



しばらくたったある日、オレンジの木の一本が段々と弱ってきた。


その木は病気にかかっていた。


直ぐに病気の木の対処をしたんだけど、あっという間に他の木にも病気が移ってしまい、全てのオレンジの木が病気になって、枯れてしまった。


生活が出来なくなってしまった。


そこから更に養子の申し出が増えて、その手口も段々荒くなってきた。


お父さんは出稼ぎに出て、お母さんも村内で日雇い奉公に出て、その日暮らしを続けてたんだけど、段々と雇ってくれる人が減ってゆき、職を完全に失い、遂には村人から嫌がらせをされるまでになった。


村中から迫害されるようになってしまった私たち家族の居場所はもうそこにはなく、一家で村を出る事になった。


逃れるように村から出たものの、路銀も殆どなく、道中で取れた木の実や山菜を食べて何とか生きながらえていたんだけど、その生活も直ぐに終わってしまった。


盗賊に襲われて、お父さんとお母さんは殺されてしまった。


私は殺されずにすんだもの、貴族へ奴隷として売られた。


売られた先の貴族は、私の事を知っていた。


奴隷ではなく養子として迎え入れると言われて、その貴族の養子になった。


しかしそれも束の間、その貴族はお家取り潰しになり、私は今の家、ヤークン侯爵家へ引き取られる事になった。


ヤークン侯爵夫婦は、とても優しい方だった。


でも、私のお父さんとお母さんはあの二人しかいない。


心が空っぽのままだった。



ヤークン家の養子になって、綺麗な服を着せてもらい、美味しいご飯を食べさせてもらえるようになった。


勉強や魔法の訓練を沢山させてもらった。


ケンさんという執事長とメイド長の息子さんは、私を可愛がってくれた。


ポスカ君という分家の子は、私を慕ってくれた。


少しずつ、心の中が満たされてきた頃、ヤークン侯爵様、今のお父様の部屋から、とんでもない内容の話を聞いてしまった。




「私のお父さんとお母さんは、貴族に殺されたんです。」


フラン様の目が大きく見開いた。


「私たちを襲った盗賊は、取り潰しになった貴族が雇ったものだったんです。

そもそも、最初から仕組まれていました。

オレンジの木が枯れてしまったのも、村の人から嫌がらせをされたのも。

それも一つの貴族ではなく、複数の貴族による仕業でした。

そうまでして、貴族達は私を手に入れたかったんです。」


「それじゃ、ヤークン侯爵様も?」


「お父様は、そういった貴族から私を守ってくれた人でした。

私たちを追い詰めた貴族を洗い出して、罪を露見させ、処罰を受けさせてます。」


「そう……」


「でも……思ったんです……

一番悪いのは私なんです……

私が、お父さんとお母さんを殺したんです……

私が、最初から養子に出ていれば……

お父さんとお母さんと一緒にいたいだなんて言わなければ……」


「リリーちゃん!!」


フラン様に怒鳴られて、伏せていた顔を持ち上げた。


……フラン様……泣いてる……


「貴女のお父さんとお母さんは、貴女と一緒にいたいと思ってくれてたんでしょう?

どんなに辛い目にあっても、そばにいてくれたんでしょう?

それなのに、なんて事を言うの?

これ以上ご両親の意思を侮辱するような発言をしたら、私は貴女を許さないわ!」


……私が、お父さんと、お母さんを、侮辱?


「悪いのは、貴女達を苦しめた貴族に決まってるじゃない。

なぜ自分を責めるの?

今まで辛くて苦しい思いをたくさんしてきたのは分かったわ。

でもその苦しみがどれ程のものかは分からない。

ただ、その苦しみの原因は、リリーちゃんじゃなくて貴族達だって事は、私でも分かるわよ?」


「私……悪くないの……?」


「当たり前でしょ!

貴女が養子に行ったところで、ご両親はきっと悲しんでたわ。

一緒にいたいと言った時、喜んでくれたんじゃなかったの?」


お父さんとお母さんを思い出した。


二人とも笑顔で一緒にいたいと言ってくれてた。


どんなに過酷な状況でも、私を手放さずにいてくれた。


涙が止まらなくなった。


「わ、私……光魔法のせいで、お父さんとお母さんを殺したと思ってて……

せめてもの罪滅ぼしで、皆んなの病気や怪我を治そうと……

でも、フラン様に、悪化させてるかもしれないって言われて……

怖くて、辛くて、必死に医学を勉強して…………」


声が出せなくなってしまった。


そんな私を、フラン様は抱きしめてくれた。


「貴女を苦しめてごめんなさい。

心から謝るわ。

貴女は間違ってないの、自分の力で皆んなを助けるだなんて、素晴らしい事よ。

もっと自分に自信を持って、誇りに思ってちょうだい。

貴女ほど素敵な人、世界中探してもどこにもいないわ。」


「……う、うあ、ああぁ……」


フラン様にしがみついて、思い切り泣いた。

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