72 公爵令嬢は聖女を心配する
医療現場に立ち入るようになって2ヶ月、私達は、学術解剖の参加までさせてもらえるようになった。
いや、正直びっくりした。
10歳に満たない子供3人に解剖させてもらえるとは思わなかったから。
レベッカちゃんは、料理のセンスだけでなく、医学の方もかなりいい線行ってる。
薬学の知識や、解剖の手付き、めっちゃ褒められてた。
「いつも肉や魚を捌いてるからね」
だから、食材と同じ扱いをするんじゃない!
リリーちゃんは、治癒魔法が手術現場で起用されていた。
身体を開いた状態の患者の、腫瘍や病原体を取り除き、異常をきたした骨や内臓を治癒し、縫う事なく開いた部分を閉じる事が出来るようになっていた。
いずれは、開胸や開腹せずに治療ができるようになれるといいね。
因みに、私が一番役にたったのは、道具の作成。
地球で使われてた注射器やメス等医療器具を錬金魔法で作ったところ、注文が殺到してしまった。
そして、新しい発見。
ここの世界の人達も、地球の人と同じ身体の作りをしてる事が分かった。
あと、病気も地球と共通のものが多かった。
なので、やっぱり予防医学が大事だと再認識できた。
医師や解剖学者から「最近の子供達は、みんなこんなに賢いのかい!?」て言われたけど、多分そんな事ない。
ただ、この世界の子供は、地球の子より全体的に能力が高いんじゃないかと思う。
いや、地球でも、10歳で超有名大学に入ったり、世界記録レベルの運動神経の子供もいるから、一概には言い切れないか。
ただ、ハイスペックな子供が、私含めて私の周りに集まりすぎてるのは確か。
2ヶ月間、解剖ばっかしてたわけじゃない。
ちゃんとダンスの練習もしていたさ。
リリーちゃんのおかげで、なんとかペアを組んでステップが踏めるほどにはなってきた。
そのペアの相手で一番相性が良かったのが、意外にもケンだった。
「「「グヌヌ……」」」
結局しょっちゅう遊びに来る3人。
最近はもう、この7人組でいる事が多い。
そして男子4人は、リリーちゃんとの会話がいつも楽しそう。
さすがヒロインだよ。
私はライバル枠確定だね。
「フラン様には私がついておりますから、ひとりぼっちになろうが、皆様が友達をやめようが、何も心配する事はございません。」
励ましてるつもりだろうけど、言い方に悪意があるよ、リッカ。
「私の事、忘れてない?」
だから忘れてないってば、レベッカちゃん!
ただ、やっぱり思うのが、リリーちゃん、心の底から笑ってない気がする。
馴染めるまで壁を作るタイプなのかとも思ったけど、そうじゃない感じ。
何か負い目があるかのような雰囲気がある。
他の人は、気づかないのかな。
それとも、私の思い違いだろうか。
ティータイムの後、リリーちゃんと二人きりになって、思い切って聞いてみる事にした。
「リリーさんは、今楽しい?」
「えっ……」
「それとも、楽しくない?」
「そんなことないです、皆さん、とても良い方達なので。」
「……そう、なら良かった。
なんだか時々、笑顔を無理矢理作ってるように見えたから。
ふふっ、私の思い違いだったのね。」
「そ、そんなふうに見えましたか!?」
「ええ、まるで、心の底から楽しめてないような。
失礼な事言っちゃってごめんなさい。
勘違いだったみたいだから、忘れてちょうだい。」
「…………」
「リリーさん?」
「……ごめんなさい、私、嘘をつきました。」
「……それは、今が楽しいって事を?」
「いいえ、今が楽しいのは本当です。
ただ、無理矢理笑ってる時があるのも本当です。
フラン様はすごいですね、なんでも分かってしまう……」
「そんな事ないわ、私、リリーさんが何に悩んでいるかまでは分からないもの。」
「それは……」
「無理に言わなくていいわ。
辛いことを告白するのは、とてもパワーがいるもの。
楽しめる時があるのなら、とりあえずその時を楽しんじゃいましょうよ。」
「……フラン様……」
「もし、私を信用してくれて、悩みを打ち明ける覚悟ができた日には、私を頼ってちょうだい。
私は全力で貴女の支えになるから。」
「……ありがとうございます。」
「さぁ、皆んなのところに戻りましょう!
男子4人とも貴女の虜なんだもの、貴女がいないと皆んな寂しがっちゃうわ!」
「えっと、それは違うと思います……」
「もう、ニブいんだから、これだからヒロインは……」
「えっ?」
「あ、いえ、こっちの話。
早く戻って、ダンスを教えてくださいな、リリー先生。」
「ふふっ、分かりました、フラン様。」
この日のリリーちゃんは、いつもより少しいい笑顔だった。
いつでも頼ることが出来る人がいるってのは、やっぱり心強いからね。
まぁ、相手が子供だから、まるっきり信頼出来るとは思えないけど。





