67 公爵令嬢はダンスが踊れない
私は今、大きな壁にぶち当たっている。
えも言われぬ「出来ない」で頭がいっぱいになっている。
今まで、どんな難しい問題も解決していた
挑戦した事は何でも出来ていた。
別に、なんでも出来ていた訳ではない。
ただ、必要ないから知らないままでも出来ないままでも良かった。
でも今、出来ないままでいいと思えない。
漠然とした不安があって、どうにか解決しないとと思っている。
私は今日、9歳の誕生日を迎えた。
そして、来年で社交界デビューをする。
つまり何が言いたいのかというと、来年にはダンスが踊れないといけないのだ。
この私がダンスを踊る……
絶対不可能だ!
私には、運動の才能も、音楽のセンスも、全くないのだよ!
片方だけでも出来ないのに、両方の要素が混じったダンスだなんて、無理難題にも程がある!
今から毎日練習しても、来年には踊れているという未来予想図が全く見えない!
ヤバいヤバいヤバい、マズいマズいマズい!
「俺? 出来るけど、フラン踊れないの?」
なんで⁉︎ ずっと一緒に過ごしててのに、いつの間に踊れるようになってたの⁉︎
「王宮に帰った時とかに、練習したんだよ。
逆に、フランはなんで今まで練習してなかったんだよ?」
領地経営と料理開発ばっかしてて、すっかり忘れてたんだよ!
「僕も踊れますよ。」
「僕もできるよ!」
ポスカ君まで⁉︎
本気でヤバい、どうしよう……
「申し訳ありません、フラン様の運動と音楽の才能が皆無だと知っていながら、こんな事になってしまって……」
リッカのせいじゃないから、ただ言い方に悪意があるよね?
仕方ないから、今からダンスの訓練よ!
「折角の誕生日パーティー、やめちゃうの?」
あぁ、ポスカ君、そんなCMに出てたチワワのようなウルウル瞳で、悲しそうにこっち見ないで……
皆んなも、そんな寂しそうな顔しないで……
わかったから、誕生日パーティーはしっかり楽しんで、終わったら速攻練習にする!
「そんなに急にダンスの先生呼べるのですか?」
あぁ、セシル様痛いとこ付くなぁ!
先生とか全然準備してなかったよ!
「フラン様、これを食べて一旦落ち着きましょう。」
もう、ケンってば、いつも絶妙なタイミングでポテチとコーラを差し出してくるんだから……
そうね、とりあえず今は私の誕生日パーティーだから、楽しんでおこう。
ダンスの事は、パーティーが終わってから考えるわ。
楽しい時間はあっという間に終わるものなんだよ。
はぁー、ダンスどうしよう……
「フランさんは以前、僕のために料理を一緒に作ってくれました。
今度は僕がフランさんのために、ダンスを教えます。」
……え?
「あ、俺が言おうと思ってたのに!
任せろフラン、俺が力になってやるよ。」
「今度は僕が、フランちゃん先生の先生だね!」
み、皆んな……
「領地経営の事は自分に任せてください。
フラン様、思う存分ダンスの練習をしてください。」
ケンまで……
「ありがとう、皆んな!
皆んなが友達で、よかった!」
「お、おう……」
「ふっ……」
「えへへっ。」
ニコッ
「ねぇ、私は?」
あ、レベッカちゃん。
「えーっと、レベッカちゃんには、実験をお願いしよう!
とりあえず思い付いた事何でもやってみて、結果を教えて頂戴!」
「わかったわ!
私の事、忘れてたのかと思ったわ。」
そ、そんな訳ないじゃない……
早速、ダンスの練習をする事になったんだけど、皆んなパートナー役の取り合いで喧嘩をするな。
いきなり対人で踊れる訳ないだろうが!
「じゃあ女性パートのステップやるから、一人で俺と同じステップを踏んでみて。」
すごいね、女性パートのステップまで出来るんだ、流石。
ロナウド王子の真似をしてステップを踏む。
「……フランさんの運動と音楽のセンス、噂でしか知りませんでしたが、これ程だったんですね……」
「あははは、フランちゃん先生面白ーい!」
「フラン、本当に俺の真似してる?」
くっ、屈辱!
この日は結局、ロナウド王子の真似すら出来ずに一日を終えてしまった。
翌日から、皆んなが交代で私のダンスの先生をしてくれるようになった。
しかし、相変わらず手本と同じステップが踏めない。
ステップを覚えても、身体がちっとも言う事を聞かず、リズムもズレまくる。
すごく悔しい事に、練習の様子を時々見ていたケンとレベッカちゃんの方が先にダンスをマスターしてしまう事件が起きた。
公爵令嬢の面目丸潰れである。
「おいフラン、力みすぎだよ、もっと力抜いて。」
そ、そんな事言われたってぇ……
「あ! いい事思いついた!」
そう言って、ポスカ君がどっかに行っちゃった。
しばらくすると、ポスカ君は紅茶を持ってきた。
いや、この香りはハーブティーかな。
「これはね、ラベンダーとローズヒップをブレンドしたハーブティで、イライラや不安な気分を吹き飛ばしてくれるよ。
だから、これ飲んだらリラックス出来ると思うんだ!」
ポスカ君……私のために……
コクリと飲むと、ラベンダーの香りと、ローズヒップの甘酸っぱさが、心を落ち着かせてくれた。
「そう言う事なら、僕だって。」
ダンスの練習にとバイオリンを持ってきていたセシル様。
そのバイオリンを鳴らすと、すごく綺麗な音色が流れ始めた。
「バイオリンの音色に、音魔法で緊張感を和らげる効果を付与しました。
いかがですか?」
うっとりしてしまう音色は、魔法のせいなのか、はたまたセシル様のセンスなんだろうか。
思わず聴き入ってしまった。
「くそー、俺だって。
フラン、手のひらを出せ。」
ロナウド王子に手を差し出すと、真っ赤な顔をしながら手のひらをマッサージされた。
「ガッチガチに緊張してたから、手のひらまで凝ってるじゃん。
時間はまだ一年あるんだから、もっと力抜いて、気楽に。」
「「あっ」」とセシル様とポスカ君が叫ぶ声が聞こえた。
皆んな……本当にありがとう……
皆んなのおかげでずいぶんリラックス出来た事だし、練習再開
……したんだけど、あっという間にガッチガチに力んで、リラックスの効果はなくなった。





