63 公爵令嬢は専属料理人と友達になる
フィアンマ男爵領の評判は国内でも有名になっていき、移住希望者がどんどん増えてきた。
そこで、男爵邸近くの別の場所に役場を作ることにした。
あまりにも移住希望者が多いので、小さな男爵邸だけでは処理しきれなくなってしまったのだ。
もちろん、錬金魔法で建てました。
もうこれで最後だからね!
役場には、財務部、領民管理部、労働管理部、領政部の4つがある。
財務部は、予算や税金の管理と銀行業、領民管理部は、領民の戸籍や職業等個人情報の管理と移住届受付、労働管理部は、領内のギルドの管理や職業案内、領政部は、まんま領政や法の管理。
ここの職員も大々的に募集をかけて、少しでも文官達の負担を減らさないと。
そしてやっぱりここも、識字力や演算能力が必要になるので、塾で見込みのありそうな人達を大量にヘッドハンティング。
従業員を奪われた各地区も、職員の殆どが未経験者の役場も、どこもかしこも目が回るほど忙しい。
パソコン欲しい。
「あ、あの、フランドール様。
私の事、覚えてますか?」
領民ならこども園は誰でも使えるので、どこの地区もどんどん利用者の幼児や生徒が増えている。
私が教えている男爵邸地区も例外じゃない。
そして今声を掛けてきたこの子も、他領から男爵邸地区に越してきている。
私と同じくらいの歳の女の子。
どこかで見たことあるような…
「違ったらごめんなさい、もしかして、成認式でドレスを差し上げた子の一人ではないかしら?」
「覚えててくれてたんですね!
嬉しいです!」
まさか、こんな所で再会するとは思わなかったよ。
名前はレベッカちゃん。
北に二つ隣の小さな男爵領出身で、今も貧しいその地の小さな集落にいたそうなんだけど、集落が盗賊に襲われたことでお母さんと逃げてきたんだそう。
お父さんは、二人を逃すために盗賊に立ち向かって命を落としてしまった。
金目のものは何も持ってなくて、唯一持ってきたのが私のあげたドレスだったんだけど、途中で路銀が尽きて泣く泣くドレスを売ったんだと。
でもそのおかげでここまで無事に来れて、こうして再会出来たのだ、私のドレスが再び役に立てて嬉しかった。
「フランドール様が成認式でくれたドレスだって言ったら、見たこともないくらいの枚数の金貨で売れたんですよ。」
…成認式で配ったドレス、世の中で悪用されなければいいんだけど。
レベッカちゃんのお母さんは、役場の食堂で働いている。
「お母さんに色々教わってるから、私も料理得意なんですよ。」
「そうなの?
じゃあ、明日一緒に料理しない?
活きの良い食材が手に入ったから、新作料理をしようと思ってるの!」
「いいんですか⁉︎
ご一緒させてください、フランドール様!」
「フランでいいわ、それに敬語もなくていいわよ。
折角のご縁だもの、お友達になりましょう。」
「も、もちろん! フランちゃん!
あ、フラン様の方がいい?」
「フランちゃんの方が良いに決まってるじゃない!」
こども園の休みの日、レベッカちゃんと料理をすると言ったら、男子3人組も一緒にやりたいと言ってきた。
「魚を捌くんだけど、多分気持ち悪いって言うと思うよ?
本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。
俺、何でも出来るから!」
「僕だって出来ますよ。」
「僕もだよ!」
じゃあ皆んな、その覚悟、後悔しないでね。
今日の料理のメイン材料はジャジャーン、ウナギ。
漁師もコックも、もちろん子供達も皆んな、ドン引きです。
漁師の人達は「領主様の事だから、どうせ美味しく料理しちゃうんでしょ」とか言って、半ばあきらめモードだったけど、これを捌かないといけないコック達は顔面蒼白。
子供達もキャーキャー言っている。
「桶の中のウナギを氷水で締めるから、こっちの樽に移してもらえる?」
調理場大パニック。
意外にもウナギの掴み取りに一番最初に挑戦したのがレベッカちゃん。
ただ、ウナギはよく滑る。
レベッカちゃんの手から逃げたウナギから逃げる皆んな。
お笑い番組かよ。
何とか全てのウナギを氷水で締め終えた。
コックもダンスィ達も涙目になりながら頑張ってました。
次に、ウナギをまな板に乗せて、中骨を断ち、背骨を手前にして目打ちする。
中骨の上を鰻包丁を滑らせるように身を開いて内臓、中骨、尾、頭を取る。
血には毒があるから、血が着いたら手も身もしっかり洗う。
この鰻包丁、私のお手製。
俺はウナギを捌いた事があったんだけど、やっぱり7歳児には中々難しい。
それでも見本にならないとと思って、何匹かを犠牲にして捌けるようになった。
これは子供達には難しいと思ってコックにお願いしたんだけど、レベッカちゃんが果敢にも挑戦したいと。
魚を三枚に下ろせると言っていただけあって、レベッカちゃんも何匹かの犠牲の元捌く事が出来ていた事に驚き。
すごくセンスがある。
コックは出来ないと困るから、残りのウナギは強制的に全て捌いてもらった。
次に、捌いたウナギを串に刺して、網の上で炭火焼。
血の毒をしっかり焼いて消毒、焦げないようにじっくり焙る。
これは皆んなでやった。
ひっくり返す時ボロボロになるのはご愛敬。
皮に焦げ目が付いてきたら、それを一旦蒸し器で蒸し焼き。
蒸せたウナギに、魚醤、砂糖、白ワイン、山椒で作ったタレを付けて、再び焼いていく。
繰り返しタレを付けて焼き、しっかり味が付いたら、鰻の蒲焼きの完成!
…子供の捌いたウナギだから見た目がかなり悪いけど、お味はどうだろう?
「誰か最初に味見してみる?」
これも一番最初に挙手したのはレベッカちゃん。
男どもは今日何しにきたんだよ。
焼き立ての蒲焼きにかぶりつくレベッカちゃん。
「す、すごく美味しい!
あんなヘビみたいな見た目の生き物なのに、プリプリの身が濃い目のタレの味とよく合う!」
若いのに中々良い食レポだね、将来有望だよ。
レベッカちゃんの毒味は終わったんだから、皆んなも怖がらず食べてくれ。
恐る恐るウナギを食べるな。
「え⁉︎ 何これ、美味っ!」
「あのような生き物がこんなに美味しいだなんて、信じられません…」
「これ、料理前の姿知らなかったら、全然怖がらず食べられる!」
ポスカ君、怖かったの?
「こ、怖くないよっ!」
ふふっ、可愛いヤツめ。
「この魚、別の地域で料理されていたものは、もっと臭みがあってクセが強くて食べ難いものだったのですが、まさかこれ程まで美味しい料理になるとは…
ビールが飲みたくなりますね。」
分かる。
ウナギを獲ってくれた漁師の方々にも振る舞ったところ「ほらみろ、こうなる事は分かってたんだ」と自信満々に言い張られた。
今日1日を通して、皆んなの色んな所が見れて楽しかった。
「あなた達にフランちゃんは相応しくないわ。」
おぉおいい⁉︎
レベッカちゃん、貴族のご子息様に向かっていきなり何言ってんの⁉︎
「何だとゴルァ⁉︎」
「その発言は許しがたいですね…」
「ヒドイ!なんでそんなこと言うの⁉︎」
「あなた達、フランちゃんにいい格好しようとしてる割には、今日の姿散々だったわよ。
そんなんで、フランちゃんを守っていこうと本気で思ってんの?」
「「「グヌヌ…」」」
友達なんだから、守るってのは大袈裟だって。
だがしかし、言いえてる。
今日のMVPはレベッカちゃん一択だよ。
そして、レベッカちゃんの料理の才能を垣間見たよ。
「レベッカちゃんは、ウナギが気持ち悪くなかったの?」
「気持ち悪かったけど、食材でしょ?
食べ物の不自由な生活をしてたから、あの程度で音を上げてたら生きていけないじゃない。」
レベッカちゃんは、私とは違うベクトルで食に貪欲だった。
これはもう、確定だ。
「レベッカちゃん、私の専属料理人にならない?」
「「「「「えええぇぇえぇぇえ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」」
「フ、フラン様、それはどう言う…?」
「レベッカちゃん程、食の魅力を知っていて、食の才能のある若者はいないわ。
これから色んな料理の実験をする時の助手と、料理開発をお願いしたいと思ったの。」
「じょ、助手なら私が…」
「リッカは監視役でしょ?」
「えっと…じゃあ、お友達じゃなくなるの…?」
「何言ってるの、お友達であって、専属料理人でもあるの!
嫌かしら?」
「ううん!嬉しい!
フランちゃんありがとう!!」
「えっと…俺らは?」
「ロナウド王子達は、例えば私が「ヘビが食べたいから捕まえてきて」と言ったら、捕まえてこられますか?」
「お前ヘビ食うの⁉︎」
「例えばって言いましたよね⁉︎」
「フラン様、さすがに蛇をお食べになるのはおよしになった方が…」
「だから例えばって言ったよね⁉︎」
「私なら、捕まえてくるわよ!
何匹食べるの?」
「誰か私の話を聞いて!!」
こうして、レベッカちゃんが私の専属料理人になった。





