56 公爵令嬢はカレーを作る
塩ラーメンはこの男爵領の名物にすると決めていたので、今回はブリキッド商会にはレシピを教えなかった。
お父様は絶望したかのような顔をしていた。
お祖父様の気持ちがよく分かっただろう、このやろう。
フィアンマ男爵領でしか食べられないという塩ラーメンの噂を聞きつけた他領の人達が駆けつけてきたのは、リゾート施設が完成する前。
なので、魚港や塩田等各施設開発の全作業員を一旦リゾート開発地へ送り、宿泊施設の建設へ全力を注いだ。
同時に、従業員にする人を募集した。
読み書きと計算が出来る人を優先に採用し、識字力のある人は施設経営や商売の勉強をアデンに、そうでない人たちには接客や清掃、ベッドメイキングのやり方をリッカに教育係として指導してもらった。
そして夏までにリゾート施設が幾つか完成、従業員の研修期間も終わり、ついにオープン!
夏までに間に合って良かった。
施設は、オーシャンビューが見渡せる離れコテージ付きの貴族向け高級ホテルと、庶民がちょっと贅沢出来るような宿泊施設、安価な簡易宿所の3種類。
高級ホテルは勿論、簡易宿舎でもリッカ直伝の接客マナーと俺が教えた日本人式サービスを熟知したスタッフが出迎えてくれるこの地のリゾート施設は、どれも一瞬で部屋が埋まってしまい、中々予約の取れない超人気スポットになった。
私がこのリゾート地で流行らせようと思っていたのは、何もラーメンと宿泊施設だけじゃない。
それは、海水浴。
そして、肌の露出が好ましくされていないこの世界で禁忌となっている、水着。
私がデザインした水着は、日本で流行っているようなビキニじゃなくて、フリルやリボンのついた半袖やノースリーブのトップスに、膝丈のボトム、そして腰に巻く長めのパレオという、ぱっと見ドレスのような物。
因みに、男性ものはハーフパンツとアロハシャツ。
ついでに、ココナッツオイルとオリーブオイルで日焼け止めも作っておいた。
美白を意識するご婦人方への配慮だね。
水着着用を恥ずかしがる領主邸の使用人達に、水着手当を渡して3日間ほど水着姿でビーチで遊んでもらったところ、フィアンマ男爵領で海水浴をしながら塩ラーメンを食べることがトレンドになった。
勿論、国王様率いる王族御一行様もいらっしゃいましたよ。
海水浴を一番楽しんでたのが国王様とか、お茶目かよ。
ロナウド王子もかなり気に入ってくれたようで「週7でここに来る」とか言ってた。
国王様、公務があるんだからズルイとか言っちゃダメでしょ。
そして私は気付いた。
食べ物がラーメンしかないってのは、リゾートじゃないでしょう!
という事で、新メニュー開発。
海といえば、俺の中では結構色んな物があるんだけど、どれも現状じゃ再現できないなぁ…
いや、一つあった。
海といえば、そして夏といえばこれでしょう!
という事で、レッツクッキン!
まずは、クセの少ない白身魚のアラを焼いてから、ネギ、セロリ、ニンニク、玉ねぎと一緒に煮出して出汁を作る。
次に、玉ねぎを飴色に炒めて、さっき作った出汁を合わせる。
そこに、色んな種類のスパイスをブレンドした混合調味料を投入し一煮立ち。
スパイスの種類は、ターメリック、クミン、コリアンダー、唐辛子、生姜、胡椒、シナモン、フェンネル、フェヌグリーク、ナツメグ、コーンスターチ、チンピ、ガラムマサラ、クローブ、カルダモン、メッチ、ローレル、みかんの皮、粉末パプリカ等。
…多分、次作るときと味が変わってると思う。
うーん、この時点でもういい香り。
別の鍋で、エビ、貝、白身魚、イカをワイン蒸し。
イカを使うと言った時の漁師やコックの顔ときたら、昆布の時の比じゃなかった。
どうにか説得して納得してもらったけど、めちゃくちゃ大変だった。
火を止めて小麦粉でとろみを付けて、先程の具材と合わせたら、シーフードカレーの出来上がり!
お米がないので、パンやパスタで食べてもらう。
さあ、イカのことを馬鹿にしていた奴らめ、存分に後悔するがいい。
「はうぁっ!こ、このスープ、スパイスの香りが身体全身を駆け巡る!
美味い、美味すぎる!」
「鼻を突き抜ける香り、舌を熱くする刺激、全身から吹き出だす汗、こんな暑い季節なのに何故食べることを止められないんだ!」
「あの奇妙で気持ちの悪いイカが、こんなに美味しい食べ物だなんて…
あぁ、俺たちはなんて膨大な時間と金とご飯を無駄にしてしまったんだ!」
「俺、毎日、いや、毎食このスープでもいい!」
毎食ラーメンじゃなかったのかよ。
カレーは大量に香辛料を使うから、ラーメンよりも高級品扱いにする予定。
皆んなの反応からして、値段が高くても多分売れるでしょ。
売れました、馬鹿売れですよ。
作っても作っても無くなってしまう。
いやぁ、嬉しい悲鳴があちこちから聞こえる。
「領主様、忙しすぎます!
従業員を増やしてください!」
「こんなにラーメンやカレーを作っているのに、自分たちの食べる分が全然残らないんです!」
…ただの悲鳴しか聞こえなかった。





